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「リビア方式」は正しかった

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ボルトン米大統領補佐官(国家安全保障担当)がトランプ政権を去った。ボルトン氏の存在は特に北朝鮮問題で大きかった。ボルトン氏は理念の明確なハードライナー(強硬派)というに留まらず、政権幹部中、唯一と言ってよい大量破壊兵器拡散防止の専門家であった。ブッシュ政権(2代目)では国務次官(軍備管理・拡散防止担当)を務め、その後、国連大使として安保理の対北朝鮮制裁決議の取りまとめにも当たった。「非核化」や「核関連物資」の定義あるいは査察をめぐる様々な落とし穴、さらには北の交渉戦術に精通した人物である。

 

例えば国務省の交渉担当者が「北が画期的な新提案をしてきた」と大統領に受け入れを求めてきても、ボルトン氏がいれば、「それはかつて(ブッシュ政権の)ライス国務長官、ヒル国務次官補コンビがだまされた案の焼き直しにすぎない。これこれの抜け穴がある」と具体的に指摘し、安易な制裁緩和を防ぐことが期待できた。

 

 

トランプ氏の誤解

 

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トランプ大統領も北朝鮮と「悪いディール(取引)」をしてもよいとは思っていないはずだ。問題は何が「悪いディール」かを的確に判断できるアドバイザーが周りにいるかどうかである。ポンペオ国務長官は決して宥和派ではないが、拡散防止分野の専門家ではない。統合参謀本部議長はじめ軍の制服組幹部は、基本的に軍事作戦遂行のプロであって、核拡散をめぐる交渉の世界に特に通じた存在ではない。エスパー国防長官も、陸軍制服組の出身で事情は同じだろう。

 

ボルトン氏辞任後の、カメラを入れた記者懇談の場で、トランプ氏が、「ボルトンは幾つかの重大なミスを犯した。北朝鮮に関してリビア・モデルを持ち出し、(交渉機運が)著しく後退した」と語ったが、これはトランプ氏における認識不足を示すものである。

 

拡散防止分野におけるリビア・モデルとは、核関連物資の海外搬出および徹底した査察によって核廃棄が確認された段階で制裁解除を行うというもので、体制転換(レジーム・チェンジ)は要素に入っていない。現にリビアのカダフィ政権は、核廃棄で制裁解除を得た後、石油の輸出で大いに潤った。その後政権が倒れたのは、中東を席巻した「アラブの春」、すなわち民衆蜂起の大波に飲まれたためで、核廃棄は関係ない。

 

 

核廃棄まで制裁を緩和するな

 

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ところが、リビア・モデルとは相手に武装解除を迫った上でレジーム・チェンジに持ち込むことだという誤解が、トランプ氏を含めて一般にある。北朝鮮はその誤解に乗じて、ボルトン氏排除を米側に執拗しつように求めてきた。

 

北の核廃棄を確認した上で制裁を解除する、逆に言えば、核廃棄が確認されるまでは「最大圧力」を維持するという、本来の意味でのリビア・モデルは正しい。「段階的、相互的な措置」という北の主張は制裁緩和のただ取りを狙った策略であり決して乗ってはならないというボルトン氏の警告を、今改めて肝に銘じたい。

 

筆者:島田洋一(国基研企画委員兼研究員・福井県立大学教授)

 

 

国家基本問題研究所(JINF)「今週の直言」第618回(2019年9月17日付)を転載しています。

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