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【アトリエ談義】(10)浮世絵の原点

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悳コレクションによる「ラスト・ウキヨエ 浮世絵を継ぐ者たち」展も、盛会の内に終わり、慌ただしかった私のアトリエも、いつもの静けさを取り戻しました。

 

そこで、これまで皆さんに紹介してきた浮世絵にまつわる様々な事柄を思い返してみると共に、もう一度浮世絵の原点を考えてみるのも良いのではないかと思いました。

 

まず浮世絵版画の原点と云えば、入門書では菱川師宣(ひしかわ・もろのぶ)あたりから始まります。しかし私はもっと遡って考えてみました。

 

例えば、神社や寺院が信者たちに配る質素な「お札(おふだ)」と云われる神仏の描かれたものがあります。これは、浮世絵版画と同じ木版刷りです。また、フランスの浮世絵に関する本に、浮世絵のルーツは「木版による、宗教的な〝お札〟にある」との記述があると聞いたことがあります。フランスの浮世絵研究家が考えた根拠と私の考えとが同じかどうかはわかりませんが、遠く離れたフランスの研究家と私が同じ意見というのも面白いと思いました。

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もしかすると読者の皆さんは、浮世絵と神仏の描かれた「お札」とを結びつけるのは無理があると思われるかもしれません。しかし、浮世絵というものが、庶民の暮らしをテーマにしている以上、神仏を描いた宗教版画も大変重要です。「お札」から発展し、「浮世絵」になっても、〝神仏〟というテーマは受け継がれ、民間信仰の神様である〝七福神〟や、子供達の勉学の神様として〝天神様(菅原道眞)〟等が、浮世絵の仲間に入ったという訳なのです。

 

前置きが長くなりましたが、先ずは「お札」をお見せしたいと思います。お札は、供養のために橋の上や舟の上から流す「川施我鬼」として使われたり、家の入り口に魔除けとして貼ったりもしました。

 

 

次に、初期の宗教版画で、掛け軸仕立ての「掛絵(かけえ)」というものをご覧いただきたいと思います。これらは表具も、絵と同じ木版刷りで、大変素朴な味わいのあるものです。私はこのような初期の宗教版画は、「お札」から進化していったものではないかと考えています。

 

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さて、初めに申し上げたように、「七福神」や「天神様」のような民間信仰の神様は、浮世絵にも画題としてよく出てくるのですが、仏画としての浮世絵はあまり見かけません。最後にお見せするのは、あまり描かれることの無い仏様が描かれている浮世絵として、大変珍しいものです。

 

歌川芳虎による「七福神」と、歌川国芳による「天神様」を共にお楽しみ下さい。

 

 

ところで、私はこのように、お札を始め、初期の宗教版画も蒐集していましたが、はじめは必ずしも浮世絵と関連付けて蒐集していたわけではありませんでした。なぜ集めていたかと云えば、素朴な神仏に親しみを感じていたことと、手頃な値段で簡単に手に入ったためです。しかし、こうして浮世絵との関連性を見つけることができ、みなさんにもご紹介出来る事は嬉しい限りです。

 

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今回は、浮世絵版画のルーツを「お札」という、少し変わった視点から考えてみました。

 

筆者:悳俊彦(洋画家・浮世絵研究家)

 

この記事の英文記事を読む

 

 

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「ラスト・ウキヨエ 浮世絵を継ぐ者たち」展、太田記念美術館で12月22日まで

【アトリエ談義】シリーズ
第1回:歌川国芳:知っておかねばならない浮世絵師
第2回:国芳の風景画と武者絵が高く評価される理由
第3回:浮世絵師・月岡芳年:国芳一門の出世頭
第4回:鳥居清長の絵馬:掘り出し物との出合い
第5回:国芳の描く元気な女達
第6回:江戸のユーモア真骨頂“国芳の戯画”
第7回:歌川国芳の弟子たちを通してみる国芳の遺産
第8回:武蔵野の思い出と私の宝物
第9回:浮世絵の継承者たち
第10回:浮世絵の原点

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