日本はわずか20年ほどで社会インフラを整備した。建設から半世紀が経過した今、専門家は「連鎖的な機能不全を防ぐための時間は急速に失われつつある」と警鐘を鳴らす。
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埼玉県八潮市の県道陥没事故現場。発生当日の2025年1月28日(左)と、2026年1月25日

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日本は今、いわば「転換点」に差しかかっている――。だが、それは決して良い意味ではない。

そう指摘するのは、日本大学の岩城一郎教授(社会基盤工学)だ。インフラ改革の必要性を訴え続けてきた岩城氏は、老朽化した公共インフラの維持管理が重大な局面を迎えていると警告する。抜本的な対策を急がなければ、今後は事故が起きるかどうかではなく、どれほどの頻度で発生するかが問われる時代になるという。

一世代で築かれ、一世代で老朽化

日本のインフラ整備の特徴は、その圧倒的なスピードにある。欧米の先進国が数世紀をかけて道路網や橋梁、トンネル、上下水道を整備してきたのに対し、日本はおよそ20年間という短期間で社会基盤を築き上げた。現在の日本を支える高速道路や橋、トンネルの大半は、1960~70年代の高度経済成長期に集中的に建設されたものである。

「それが今から約50年前の話だ。すべてのインフラが築後50年で一斉に劣化するわけではない。しかし、厳しい環境下に置かれた構造物は、おおむねその時期から異変が目立ち始める」と岩城氏は語る。

その兆候は既に各地で現れている。2012年には、中央自動車道の笹子トンネルで天井板が崩落し、9人が死亡する惨事が発生した。一時は全国的な関心を集めたものの、問題意識は次第に薄れ、やがて人々の記憶から遠のいた。

その後も同様の事故は続いている。2025年1月には、埼玉県八潮市の主要交差点で突然道路が陥没した。原因は1983年に敷設された下水道管の破損で、長年にわたる内部腐食によって管が破裂し、配送トラック1台が道路ごと巨大な穴へと飲み込まれた。

事故が起きるたびに大きく報じられ、やがて忘れ去られる。

岩城氏が危惧するのは、この構図が変わることが遠いものではないということだ。国民の危機意識が高まるからではない。事故の発生頻度が増え続け、もはや無視できなくなるからである。

危機を招く三つの構造的要因

日本のインフラ維持管理が危機に直面している原因について問われると、岩城氏は単純な説明を退ける。問題は一つではなく、技術、制度、そして国民意識という三つの側面にまたがる構造的な課題だという。

まず技術面では、深刻な技術者不足が進んでいることに加え、維持管理時代に対応した技術や手法の導入が遅れている。多くの自治体はいまだに建設中心の発想や制度の下で業務を行っており、維持管理を前提とした体制への転換が進んでいない。

制度面の問題も根深い。「現在の仕組みの多くは、インフラを造っていた時代にできたもの」と岩城氏は指摘する。「だが、それらは今日直面している課題に対応するための制度ではない」

岩城氏が最も強い危機感を抱くのは三つ目の要因、国民の当事者意識の欠如だ。インフラ老朽化を行政だけの問題ではなく、自らの生活に直結する課題として国民が受け止めなければ、政治を動かす力は生まれない。結果として必要な予算も確保できなくなる。

「結局のところ、政治は世論次第。国民が自分たちの問題だと認識しなければ、予算も政策も動かない」と岩城氏は語る。

問われる優先順位

岩城氏が提示する現実は厳しい。日本は既に、自ら築き上げたすべてのインフラを維持できる状況にはないというのだ。人的資源も財源も限られている。もはや何を優先するかではなく、どのように優先順位を付けるかが問われる段階に入った。

高速道路や新幹線関連施設など国の基幹インフラについては、故障や事故が発生してから対応するのではなく、異常の兆候を早期に把握して対処する「予防保全」への転換が不可欠だと主張する。一方で、全国各地の地域社会を結ぶ無数の橋梁や地方道路については、異なる発想が必要になる。

「二つの地点を結ぶ道路が五本あり、その先が人口減少の進む小規模集落であるなら、五本すべてを維持することは必要でもなければ現実的でもない。三本に減らす、二本に減らす、あるいは一本に集約する。それでも、その一本だけは確実に維持管理することが重要だ」

これは地方の切り捨てを意味するものではないと岩城氏は強調する。インフラ維持が困難になった地域から住民を移転させる「コンパクトシティー」の考え方には懐疑的だ。目指すべきは人口移動ではなく、規模を縮小しながらも持続可能な交通・生活基盤を確保することであり、地方の暮らしを支える最低限かつ強靱な接続性を維持することにある。

デジタル技術による管理

こうした課題に対し、デジタル技術は一定の解決策を提示し得る。岩城氏が推進するのは、「シンプルDX」と呼ぶ現実的なデジタル化だ。自治体が高度な専門人材や巨額の予算を必要とせず、点検や診断を実施できる仕組みの構築を目指す。センサーやデータ基盤、AIを活用した監視システムは、深刻化する人手不足を補い、限られた人員でより広範なインフラ管理を可能にする。

ただし、重要なのは性能の高さではなく使いやすさだ。地方自治体が運用できず、導入費用も負担できない高機能システムは実用的とはいえない。岩城氏が重視するのは、専門知識がなくても導入できる現場目線の技術である。地方自治体では技術職員が5人にも満たないケースが珍しくない。そうした厳しい現実の中でも直ちに活用できるツールこそが求められているという。

残された希望

今後について楽観しているかとの問いに、岩城氏は慎重な姿勢を崩さない。ただ、現政権がレジリエンス(回復力)強化や防災対策を政策の中核に据えていることについては前向きに評価する。問題解決を保証するものではないが、少なくとも重要な政治的メッセージだと受け止めている。

一方で、中央政府の問題意識がそのまま地方の現場に浸透しているわけではない。国のレジリエンス重視の姿勢が地方にも十分行き渡っているのかとの問いに対し、岩城氏は課題の存在を認めつつも、地方が見捨てられているとの見方には異議を唱える。「重点は確実に地方へ移りつつある。地域が抱える課題に取り組む人は以前より増えている。十分とは言えないが、状況は確実に動いている」と語る。

ただし、岩城氏が明確に強調するのは時間的猶予の少なさだ。日本はいま、まさに分水嶺に立っている。今後数年間に下される判断――予算配分、デジタル技術の導入、制度改革、そして国民一人ひとりが問題に向き合うかどうか――が、日本が計画的な移行に成功するのか、それともインフラ障害の連鎖による危機へと転落するのかを左右する。

「正しい対応ができれば、まだ間に合う可能性はある。だが、その判断は今すぐ下さなければならない」

筆者:ダニエル・マニング(JAPAN Forward記者)

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