英南西部ファーンボローで開催されたファーンボロー国際航空ショーで展示された、日英伊3カ国が共同開発を進める次世代戦闘機計画「GCAP(グローバル戦闘航空プログラム)」のコンセプト機「テンペスト」=7月21日(©AFP/Toby Shepheard)
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約80年にわたり、日本は事実上、武器の海外輸出を禁じてきた。だが、かつては聖域とされた規制の見直しが進む中、日本の防衛産業は国際市場で競争にさらされようとしている。その影響は、防衛産業のサプライチェーンや同盟関係、さらにはインド太平洋から欧州に至る安全保障環境にも及ぶ可能性がある。
米シンクタンク、ハドソン研究所で日本担当副部長を務めるウィリアム・チョウ氏は、日本が2026年4月に実施した防衛装備移転制度の改正について、戦後の抑制路線からの突然の転換ではなく、10年以上続いてきた政策変化の延長線上に位置付けられるとの見方を示す。
チョウ氏はJapan Forwardのインタビューで、「戦後の抑制政策からの転換であることは間違いない」とした上で、その流れは2015年の集団的自衛権行使容認に始まったと指摘した。さらに、ロシアによるウクライナ侵略が、日本社会に「より現実的な外交・安全保障政策」を受け入れる機運を加速させたと分析する。
一方で、同氏は今回の制度改正を「急進的な政策転換」ではなく、「現実的な対応」と評価する。憲法9条の改正は依然として政治的なハードルが高いという。戦争放棄を定めた同条は、政府によって長年、自衛のために必要最小限の防衛力しか保有できないとの解釈が維持されてきた。
今回の輸出制度改革の狙いは、国内の防衛予算に依存するだけではなく、防衛関連企業が生産能力を高め、技術革新を進めるとともに、海外軍が求める装備品を供給できる体制を構築することにある。

チョウ氏は、こうした取り組みは将来の有事に備え、日本が活用できる防衛産業基盤の強化にもつながると指摘。「これは大きな転換だが、この10~11年続いてきた大きな流れに沿った変化だ」と語った。
もっとも、こうした政策転換が国民に十分受け入れられているとは言い難い。産経新聞社とFNNが3月14、15日に実施した合同世論調査では、一定の条件下で殺傷能力を持つ防衛装備品の輸出を認める政府方針に対し、「反対」が58.5%で、「賛成」の41.5%を上回った。
男女差も鮮明で、女性は70.5%が反対した一方、男性は賛成52.2%、反対45.7%と賛成がわずかに上回った。与党・自民党支持層でも賛成52.9%、反対44.4%と意見は拮抗しており、防衛装備品輸出の拡大にはなお慎重論が根強いことが浮き彫りとなった。
政策転換と現場の隔たり
制度を緩和しただけで、防衛装備品の輸出産業が直ちに軌道に乗るわけではない。チョウ氏は課題として、市場開拓の経験不足、人材の不足に加え、認証制度やアフターサービス体制がなお十分整っていない点を挙げる。
日本の防衛大手はいま「未知の領域に踏み込んでいる」と同氏は指摘する。輸出で成果を上げるには、各国の国防当局や調達担当者、軍との信頼関係を築く必要があり、それには長い時間を要するという。2016年に日本が豪州の潜水艦共同開発・導入計画の受注競争で敗れた背景にも、現地事情への理解不足があったとの見方を示した。
人材面の課題はさらに深刻だ。日本の大手企業では、防衛部門は従来、人員配置が十分ではなかったとし、「企業内でも最も花形の部門ではなかった」と率直に語る。豪州やフィリピンなどへの輸出を支援するため、希少な語学力を持つ人材を海外へ送り出せば、国内の人材不足は一層深刻化する。

アフターサービスや補修部品の供給体制も課題だ。日本企業は、安定した国内需要を前提とする計画的な生産を得意としてきたが、国外の軍への輸出では需要が大きく変動するため、従来とは異なる生産・供給体制が求められる。
部品メーカーもまた、異なる商習慣への対応を迫られる可能性がある。チョウ氏によれば、日本企業が米国で生産拡大を検討する際にも、こうした懸念が議論になっているという。
最後の課題は認証制度だ。同氏は韓国を例に挙げ、欧州諸国と緊密に連携しながら、自国装備品を現地基準に適合させてきた取り組みを評価した。「相手国が求める装備を、適正な価格で期限内に納入すること」が不可欠であり、そのためには市場調査や生産能力の強化に加え、日本の調達制度そのものを国際基準に合わせていく必要があるとの認識を示した。
日本の強みと課題
日本の防衛企業は米欧や韓国の競合企業と比べ、どのような優位性を持つのか。チョウ氏がまず挙げたのは設計力だ。
豪州への輸出が進み、他の太平洋諸国も関心を寄せる「もがみ」型護衛艦は、少人数で運用できる設計が特徴となっている。海上自衛隊の隊員不足を背景に生まれた設計思想だが、人員確保に苦慮する各国軍にも通じる利点となっている。
さらに、米海軍が艦艇建造の遅れに直面する中、日本の潜水艦建造は納期を着実に守ってきた実績があり、戦後培ってきた高品質なものづくりへの信頼と合わせて、大きな競争力になると分析する。
一方で、なお実証されていないのが大量生産能力である。三菱重工業は潜水艦を安定して建造しているものの、日本の防衛企業が急増する需要に対応できるだけの生産能力を確保し、量産によるコスト低減を実現できるかは未知数だという。
そのため現時点では、海外の潜在的な顧客は日本製装備品の輸出実績を見極める「様子見」の姿勢を取る可能性が高いとの見方を示した。
中小企業の苦境と「フィジカルAI」への期待
防衛産業を支える中小企業もまた、複数の課題に直面している。人手不足に加え、後継者不在による事業承継問題、さらに為替変動によって一段と厳しさを増した収益環境が重くのしかかる。チョウ氏は「日本にとって極めて深刻な脆弱性だ」と指摘する。
人材不足は大手企業にも及んでいる。このため政府や産業界では、防衛分野を含む製造業全体の抜本的な解決策として、人工知能(AI)で機械を自律的に動かす技術「フィジカルAI」への期待が高まっているという。
同氏は、川崎重工業が米半導体大手エヌビディアと造船向けフィジカルAI技術の開発で提携したことを例に挙げ、日本が目指す将来像を示す動きだと評価した。また、高市早苗政権が重点育成分野として掲げる17の戦略産業にもフィジカルAIが盛り込まれていると指摘した。ただ、実用化がどこまで早く進むかについては「なお未知数だ」との認識を示した。

安全保障は企業経営の課題に
もっとも、防衛産業の変化だけでは全体像は語れない――。こう指摘するのが、地政学・安全保障リスクのコンサルティング会社「コントロール・リスクス・グループ」日本法人社長の岡部貴士氏だ。同氏は日本企業に対し、地政学リスクや経済安全保障に関する助言を行っている。
岡部氏はJapan Forwardのインタビューで、より大きな変化は防衛産業の内部ではなく、一般企業のリスク認識や経営判断そのものに起きていると語る。「変化は必ずしも防衛産業への参入や防衛関連事業の拡大という形で現れているわけではなく、より広い意味での『経済安全保障』への対応として現れている」と指摘した。
従来は防衛企業や専門家に委ねられてきたテーマが、一般的な企業にとっても経営の課題となっている。サプライチェーンが特定の国や地域に過度に依存していないか、重要技術や知的財産は適切に管理されているか――。こうした点が日常的に議論されるようになったという。また、自社製品や技術が意図せず安全保障上の用途に転用される可能性や、地政学的緊張が事業継続や投資計画に与える影響についても、企業は慎重な検討を迫られている。
岡部氏は、ウクライナ戦争でロシアが使用する兵器やドローンから、日本製の民生用部品が確認されたとの報道にも言及し、民間企業にとっても安全保障が無縁ではなくなっている現状を指摘した。
一方で、同氏はこうした変化を「リスクの拡大」だけでなく、「新たな機会の拡大」とも捉えるべきだと強調する。各国が経済安全保障を重視する中、日本企業が強みを持つ技術分野や製造業の戦略的重要性は一段と高まっている。その一方で、企業には法令順守や技術管理に関するこれまで以上に高度な対応が求められるようになったという。
岡部氏は、日本で防衛政策と経済政策が密接に結び付く理由について、国際環境の変化だけではなく、「日本固有の産業構造が大きく影響している」と分析する。
「日本は資源大国でも軍事大国でもない。技術力と製造業によって国際競争力を築いてきた国であり、安全保障は経済や産業、サプライチェーンと密接に結びついてきた」。

さらに米国とは異なり、日本の防衛装備品は民間市場を主力とする企業によって支えられているケースが大半で、防衛産業と民生産業の境界は比較的曖昧だと指摘する。そのため、日本の安全保障を論じることは、民間企業や産業政策の議論でもあるという。
危機管理が新たな投資機会に
日本政府による安全保障関連分野への投資拡大は、新たな事業機会をもたらす――。岡部氏はこう指摘する。
歴史を振り返れば、安全保障を巡る国際競争はしばしば技術革新を加速させてきた。インターネットやレーダー、GPS(衛星利用測位システム)、さらには電子レンジも、その成果の一例だという。
同氏が今後の注目領域として挙げるのが対ドローン技術だ。脅威は戦場での攻撃にとどまらず、上空からの偵察や通信妨害、電波傍受、飛行禁止区域への侵入、重要インフラ周辺での不審飛行など多岐にわたる。こうした脅威への対応は、新たな技術市場を生み出す可能性があると分析する。
また、岡部氏は日本企業にとって本質的な課題は「危機を防ぐこと」だけではなく、「危機に適応すること」だと強調する。日本企業はこれまで高度なリスク管理体制を構築してきたが、今後は想定した計画が機能しなくなった局面で、いかに迅速かつ柔軟に対応できるかが問われるという。
「誰もが計画を持っている。最初のパンチを受けるまでは」
同氏は、元世界ヘビー級王者マイク・タイソン氏の言葉を引用し、「企業のリスク管理・危機管理の文脈でも大変示唆がある」と語った。
その上で、企業の競争優位を左右するのはレジリエンス(回復力)だと指摘する。危機の兆候を察知し、平時と危機のグレーゾーンで適切な意思決定を行い、状況変化に適応し、最終的に事業を立て直す力が、求められるとの見方を示した。
海外投資家の視線は日本へ
チョウ氏は、日本の防衛産業に対する海外の関心は決して掛け声だけではないと語る。一方で、現実の動きは期待ほどには進んでいないとも指摘した。
日本の防衛企業は、その技術力に比べ市場評価がなお低く、本業の民生事業と防衛事業を併せ持つ企業が多いことから、防衛分野にとどまらない投資機会が存在すると分析する。
制度面でも、防衛産業協力は着実に動き始めている。チョウ氏は、昨年10月に初開催された北大西洋条約機構(NATO)と日本の防衛産業協力フォーラムや、今年4月の日欧防衛産業対話を、協力深化に向けた初期段階の取り組みとして評価した。
一方、韓国はすでにNATOと11分野で個別の協力協定を締結しており、日本はなお後れを取っていると指摘する。
「日本はようやくスタートラインに立ったばかりだ」。欧州各国の代表団が相次いで来日し、日本企業もブリュッセルをはじめ欧州各地との往来を活発化させていることから、双方の協力意欲は確実に高まっていると分析する。「欧州は根本的に、防衛装備品を必要としている。日本は十分に有力な供給先になり得る」と語った。
岡部氏もまた、海外企業や投資家の日本を見る目が大きく変わりつつあると指摘する。
「外国企業にとって、日本の位置づけは『重要な市場』から『戦略的パートナー』へ変化しつつある」とし、共同開発や技術提携、半導体や先端素材分野での協業、さらにはインド太平洋市場への進出拠点として日本を活用する動きが広がっているという。
また、外国企業が重視する価値観にも変化が生じている。「安さ」よりも「信頼性」と「技術力」を優先する傾向が強まり、英国との安全保障・経済安全保障分野での協力深化にも、その姿勢が表れていると説明する。
英国は金融や研究開発、国際的な事業展開に強みを持ち、日本は精密機器や電子部品、製造技術に優れる。両国は競合するのではなく、互いを補完する関係にあるという。
もっとも、「信頼性」を重視するのは外国企業だけではない。岡部氏は、日本企業もまた、海外パートナーに同様の信頼性を求めていると指摘する。
日本市場への参入を目指す外国企業は、輸出管理や投資審査、技術移転の制約、厳格な情報セキュリティー基準への対応に加え、慎重な意思決定を重んじる日本企業文化にも適応しなければならない。
そして現在、日本企業が海外企業に求めるのは、優れた技術力だけではない。機微な技術や重要情報を確実に保護できる、信頼に足る相手であることを証明できるかどうかが、これまで以上に重視される時代になっている。
GCAPが試金石
チョウ氏は、日本、英国、イタリアが共同開発を進める次世代戦闘機計画「GCAP(グローバル戦闘航空プログラム)」について、日本が防衛産業協力をどこまで進める意思があるのかを示す象徴的な事例だと位置付ける。米ロッキード・マーチンとの共同開発構想が実現しなかった後、日本が選択した新たな国際協力の枠組みでもある。
同氏は、GCAPは3カ国が知的財産を共有し、サプライチェーンを統合するとともに、防衛産業の基準や規格を共通化する取り組みの象徴だと指摘する。さらに、フランスとドイツが主導する次世代戦闘機計画「FCAS(将来戦闘航空システム)」が難航していることもあり、ポーランドやカナダなどがGCAPに関心を示しているとの見方を示した。
また、GCAPの意義は長期的な視点にもあるという。戦闘機は通常30年以上運用され、その間も継続的な能力向上が図られる。就役から約50年を経た現在も改修が続くF15戦闘機を例に挙げ、GCAPも将来にわたる技術協力の基盤になると分析した。
一方、課題は技術面ではなく政治と予算だと指摘する。英国、イタリア、日本の3カ国が計画を成立させるだけの機数を調達し、必要な予算を継続的に確保できるかが最大の焦点となる。数カ月前に英国の国防相が辞任するなど、同国の防衛政策を巡る混乱も不確実性を高める要因だとしている。
「再軍備」論への反論
中国は日本の防衛力強化を「新たな軍国主義」と批判しているが、チョウ氏は、この主張が国際社会で広く支持されているとは考えていない。
例外として、トランプ政権で国家情報長官を務めたトゥルシー・ギャバード氏の事務所がまとめた報告書で言及された程度であり、それ以外に大きな広がりは見られないとの認識を示した。
一方で、より現実的な懸念は、中国がこうした論理を口実に軍民両用技術の輸出規制を強化し、日本の防衛装備品に必要な部品の調達に影響を及ぼす可能性だと指摘する。
その対応策として同氏は、「冷静さ」が重要だと強調した。サプライチェーンの脆弱性は着実に改善しつつも、公の場では中国への反論ではなく、G7(先進7カ国)の枠組みなどを通じて「経済安全保障やサプライチェーン強靱化」の文脈で説明すべきだと提言する。
「中国の根拠の乏しい主張に反応しすぎれば、かえって注目を集める『ストライサンド効果』を招きかねない。日本はそれを避けるべきだ」と語った。

インド太平洋と欧州への意味
日本による防衛装備品輸出は、インド太平洋地域の安定に寄与するのか、それとも軍拡競争を助長するのか――。この問いに対し、チョウ氏は、中国の軍拡は日本や他の中堅国の対応とは無関係に進んでいると指摘した。中国は核戦力や海軍力を急速に拡大しており、日本が輸出を控えたとしても、その流れは変わらないとの認識を示す。
その上で、フィリピンやインドネシア、豪州といった友好国への装備品供与は、各国の運用や装備を日本やNATOの基準に近づける効果があると分析した。また、インドについても、日米豪印4カ国の枠組み「クアッド」は軍事同盟ではないものの、防衛装備品の調達を通じて日本との安全保障協力は一段と深まる可能性があるとの見方を示した。
欧州については、韓国が米国製パトリオットやSM3、SM6迎撃ミサイルと連携可能な迎撃システムの供給に成功した事例を挙げた。欧州は防衛力強化を進めているものの、必要な能力を補うには複数の域外供給国との協力が不可欠になると指摘する。
その上で、「日本も欧州と連携し、欧州の幅広い防衛ニーズを満たす装備品を供給できない理由はない」と述べ、日本の防衛産業が欧州市場で果たす役割に期待を示した。
今後の注目点
岡部氏は、日本にとって真の試練は、安全保障環境の変化を新たな制約として捉えるのではなく、日本の技術や競争力が再評価される好機と捉えられるかどうかにあると指摘する。高度経済成長期以降、日本企業は効率性やコスト競争力を重視してきた。しかし今後は、「品質」「信頼性」「レジリエンス」そのものが競争力の源泉となる時代へと転換していくとの見方を示した。
また、海外投資家にとっても、日本の位置付けは変わりつつあるという。これまでは低コストで製品や部材を調達する市場として見られることが多かったが、今後は信頼できる技術や産業基盤にアクセスするための拠点としての価値が高まると分析する。岡部氏は、日本は「効率の拠点」から「信頼の拠点」へと役割を変えつつあり、その流れは日英間で進む安全保障・経済安全保障分野の協力深化にも表れていると指摘した。
筆者:ダニエル・マニング(Japan Forward記者)
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