日本の報道について学んだ米ベイラー大学の学生ら=2026年7月7日、産経新聞東京本社(©産経、三尾郁恵撮影)
This post is also available in:
米国のベイラー大学の学生30人が7月、東京都千代田区の産経新聞東京本社を訪れ、産経新聞とJAPAN Forwardの編集者らと、日本のメディアや報道業界の現状について意見を交わした。
セッションでは、JAPAN Forwardの内藤泰朗編集長が、2017年に同サイトを立ち上げた経緯を説明した。当時、英語による国際報道において日本の情報発信力は限られており、とりわけリベラル系メディアの視点に偏った報道が目立っていたという。こうした状況を踏まえ、海外の読者に日本の多面的な姿を伝えることを目的に創設したと述べた。
創設当時は、報道機関を取り巻く環境が大きく変化していた時期でもあった。交流サイト(SNS)の普及によってニュースの受け止め方は急速に変わり、メディアに対する信頼も揺らぐ中、同サイトはゼロから立ち上げられた。
当時、産経新聞に勤務していた内藤氏の同僚の多くは、この事業の継続に懐疑的で、「数年で終了するだろう」と見る向きが少なくなかったという。
それから約10年が経過し、JAPAN Forwardは世界各地に読者を持つ媒体へと成長した。内藤氏は、編集部の中核メンバーも国籍や世代が多様化しており、媒体の発展を象徴していると説明した。
データによると、中心的な読者層は18~44歳で、読者の多くが50歳以上を占める産経新聞とは対照的だ。
読者が最も多い国はインド、米国、日本の順だった。内藤氏は、日本国内の読者には、バングラデシュ、フィリピン、ネパール、英国、アルジェリア、パキスタン、シンガポールなどの出身者も多く、日本語ではなく英語で日本のニュースを読んでいる在留外国人が少なくないと紹介した。
現代メディアと認知戦
ディスカッションでは、産経新聞の田北真樹子編集長が、現在の報道姿勢を形づくる歴史的な経緯を紹介した。
1960~70年代の中国の文化大革命期、産経新聞の北京特派員は、中国共産党内部で重大な異変が起きていることをいち早く察知した。当局の発表ではなく、市民が政治的な主張や批判を書き込んだ「大字報」を丹念に読み解き、情勢を分析して報じたのである。
この報道を受け、産経新聞は中国から事実上の締め出しを受け、北京支局を再開できたのは1998年になってからだった。その間も、台湾・台北に支局を置き続けた唯一の日本の新聞社であり、田北氏は「台湾が現在でも産経新聞を他の日本メディアとは異なる存在として見ている背景には、こうした歴史がある」と説明した。
また、学生から「産経新聞は政治的にどのような立場なのか」と問われると、田北氏は「右でも左でもなく、最も大切なのは事実を報じることだ」と端的に答えた。

「保守」というレッテル
学生の一人は、「事実を報じることを重視するのであれば、なぜ産経新聞は保守系新聞と呼ばれ、ウィキペディアでは『極右』とまで評されているのか」と質問した。
これに対し、筆者は具体例を挙げて説明した。産経新聞は長年にわたり、1970~90年代に北朝鮮工作員によって拉致された日本人の問題を継続的に報じてきた。当時、この問題を積極的に取り上げる国内メディアは限られ、「根拠の乏しい反北朝鮮報道を追う保守系新聞」と受け止められることも少なくなかった。
しかし、2002年に北朝鮮が日本人拉致を認めたことで、報道内容の正しさが裏付けられた。「保守」「リベラル」といったレッテルは、報道の真偽を示すものではなく、むしろどの問題が社会にとって受け入れにくいテーマであるかを映し出している場合がある――。学生たちには、その点を伝えた。
これを受け、別の編集部員も異なる視点から話を続けた。産経新聞やJAPAN Forwardの編集部は、一般に「保守系メディア」と聞いて抱かれがちな画一的な組織ではないという。スリランカ出身の映像制作者、香港で育った編集者、台湾、中国、韓国にルーツを持つスタッフなど、多様な背景を持つ人材が集まっている。
こうした構成の編集部であれば、仮にそうしようとしても、一つの国や特定の思想に偏った視点だけで報道を続けることは難しいだろう、と説明した。
動画時代に問われるニュースの伝え方
この日のディスカッションで最も活発な議論となったのは、政治的な立場ではなく、ニュースの伝え方を巡るテーマだった。
内藤氏が「ニュースの大半を交流サイト(SNS)で得ている人は」と尋ねると、ほぼ全員の学生が手を挙げた。一方、「紙の新聞を読んでいる人」との問いには、手を挙げたのは2、3人にとどまった。
学生の多くは、日常的に読むのは記事ではなく、短い動画やリール形式のコンテンツが中心だと答えた。そこから、この日最も鋭い質問が投げかけられた。
「歴史認識問題や安全保障のように複雑なテーマを、報道の中心が動画へと移る中で、どうすれば内容の厚みを失わずに伝えられるのか」
この問いには筆者が答えた。筆者自身、日本に関する英語報道の多くが国外から発信され、日本社会を反射的に否定的な視点で描く傾向に疑問を抱いたことが、この仕事を志した理由の一つだったと説明した。
また、産経新聞が長年取り組んできた慰安婦問題や南京事件、日本人拉致問題といった歴史認識を巡るテーマにも強い関心を抱いてきた。中国やロシアが現在もこれらの問題を持ち出し、日本と同盟・友好国との間にくさびを打ち込もうとする動きを続けているためである。

こうしたテーマを60秒程度の短い動画に収めることは、確かに容易ではない。しかし、不可能だとは考えていない。読者や視聴者を失うことを恐れて従来の形式に固執するのではなく、新たなプラットフォームでも十分な文脈や背景を伝える方法を模索すること自体を前向きな挑戦として受け止めている、と学生たちに伝えた。
ディスカッションの終盤には、質問は当初のテーマを超え、円相場や日本が抱える社会問題、さらには「将来、日本で働きたい」との希望まで話題が広がった。
筆者は「ここにたどり着くまでには数え切れないほど多くの扉をたたいてきた。外から見る以上に厳しい仕事だが、それでも挑戦する価値はある。学生たちがそのことを一つでも感じ取ってくれたなら、これ以上うれしいことはない」と締めくくった。
筆者:ダニエル・マニング(JAPAN Forward記者)
This post is also available in:

