金利上昇と円安が進行する中、借入コストや輸入物価の上昇に歯止めがかからない状況が続いている。元日銀政策委員は、先行きはなお見通せないと警鐘を鳴らす。
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日銀本店=東京都中央区

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日銀の利上げ方針と高市政権の財政運営を巡る発信が食い違い、市場参加者は日本の経済政策の方向性を見極められずにいる――。日本を代表する金融政策の専門家で、元日銀政策委員の白井さゆり氏は、JAPAN Forwardのインタビューでこう指摘した。

「何を目指しているのか、非常に分かりにくい」

白井氏が問題視するのは、日銀の一連の政策運営である。

まず政策金利だ。日銀が政策金利を引き上げれば、住宅ローンや企業向け融資をはじめ、経済全体の借入金利が上昇する。国債を発行して資金を調達する政府にとっても資金調達コストは増加する。また、金利が高くなれば円建て資産の魅力が増すため、一般的には円高圧力が強まる。

日銀は数カ月にわたり利上げを示唆しながら、その後はいったん慎重姿勢に転じた。しかし、円相場が急速に下落する兆しが強まると、最終的には利上げに踏み切った。

6月17日の利上げは政策委員会で7対1の賛成多数により決定された。白井氏は、その決め手となったのは円相場が1ドル=160円を超えて下落したことだったと分析する。

「この局面で日銀が何もしなければ、円安はさらに進行していた可能性がある。そのリスクが予定通りの利上げを後押ししたのだと思う」

円安は家計にも直接影響を及ぼす。日本は食料やエネルギーの多くを輸入に依存しているため、円相場が下落すれば輸入価格が上昇し、スーパーでの食品価格やガソリン価格など生活に身近な物価が押し上げられる。日銀が抑制を図ろうとしているのは、まさにこうした円安を通じた物価上昇である。

矛盾したメッセージ

一方、政府も市場に相反するシグナルを発している。

高市早苗首相はこれまで、円安をある程度容認してでも低金利を維持し、景気を下支えする姿勢を基本としてきた。

しかし、6月30日に改定された政府の「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」には、「適切な金融政策運営」が力強い経済を実現する上で不可欠であるとの文言が新たに盛り込まれた。

白井氏は「市場はこれを『日銀に追加利上げを求めない』というメッセージと受け止めた」と指摘する。その結果、長期金利は上昇し、円相場は再び下落して1ドル=162円台まで円安が進んだという。

その後、政府は市場の動揺を抑えようと対応に追われた。木内実経済財政政策担当相は、政府が日銀の金融政策に影響を与えようとしたとの見方を否定。一方、片山さつき財務相は、公的年金積立金の運用資産について国内資産の比率を高める可能性に言及し、円相場と国債市場を下支えする考えを示唆した。

これに対し白井氏は、高市政権が低金利と、それに伴う円安を事実上容認しているのであれば、なぜ片山財務相が為替相場の動向を牽制したり、財務省による市場対応を通じて円相場の下支えを図ったりするのかと疑問を呈する。

「高市首相の低金利志向と、円安を食い止めようとする財務省の対応との間には、すでに政策の食い違いが生じている」

インフレは本当に強いのか

こうした政策の混乱の背景には、日本のインフレがどの程度深刻なのかを巡る認識の違いがある。

白井氏によると、日本の総合インフレ率は1月以降、日銀が目標とする2%を下回る水準で推移しており、「おそらく1.5%前後」にとどまっているという。政府によるガソリン価格や学校給食費、高校授業料への補助金が物価上昇を抑えていることが背景にある。

また白井氏は、日銀が重視する「基調的な物価」の捉え方にも異論を唱える。日銀は生鮮食品のみを除いた消費者物価指数を基調的なインフレ指標としているが、欧米など主要国の中央銀行は、食料品全体とエネルギーを除外した「コアインフレ率」を重視していると指摘する。

この国際的な基準で試算すると、日本の基調的なインフレ率は約1.4%にとどまり、日銀の2%目標にはなお届かないという。

「日銀は『2%に近づいている』と説明しているが、データはそれを裏付けていない」

こうした状況を踏まえ、白井氏は7月30、31日に開かれる次回の日銀金融政策決定会合で追加利上げが実施される可能性は低いとの見方を示した。

国債市場の判断材料

白井氏の懐疑的な見方は、国債市場の分析にも表れている。

日本の10年物国債利回りは、政府が10年間資金を借り入れる際の金利であり、住宅ローンや企業融資の金利にも影響を与える重要な指標だが、足元では1990年代後半以来の水準まで上昇している。

白井氏は、この利回り上昇について、日銀が金融政策で後手に回っていることよりも、高市政権が掲げる財政支出の財源が不透明であることへの懸念が主因との見方を示す。

高市政権は発足から5カ月が経過したが、食料品を対象とする消費税減税、防衛費の増額、さらには総額370兆円(約2兆5000億ドル)規模とする成長投資パッケージについて、具体的な財源を依然として示していないという。

白井氏は「370兆円という数字はインパクトを与えるために掲げられたにすぎない」と指摘する。財源の裏付けを欠いた巨額の支出計画は、「投資家が整合性を見いだせずにいる矛盾」だと批判した。

では、市場は何を手掛かりに判断すればよいのか。

白井氏は、その答えは「イールドカーブ(利回り曲線)のどの部分に金利上昇圧力が現れるか」を見極めることだと説明する。

投資家が政府の財政悪化や債務返済能力を懸念しているのであれば、10年債よりも30年債や40年債といった超長期国債の利回りがより大きく上昇するはずだ。

一方で、日銀が十分な利上げを実施できないとの見方が背景であれば、その影響は超長期金利よりも円安の進行や輸入物価の上昇という形で表れる可能性が高い。

もっとも現時点では、市場は実際の政策を織り込んでいるというより、不確実性の中で思惑先行の取引を続けている状況だという。政府が財政支出の具体的な財源を明らかにしていないためである。

白井氏は「このまま1年も2年も、政府が説明を先送りできるとは考えられない」と述べ、早晩、より明確な方針が示されるとの見通しを示した。

そして、高市政権が最終的に国債増発による積極財政を選ぶにせよ、歳出抑制を軸とした財政規律を重視するにせよ、政策の全容が明らかになれば長期金利は大きく動くとの見方を示した。

筆者:ダニエル・マニング(JAPAN Forward記者)

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