矢板明夫氏が創設したシンクタンクの設立式=2024年10月
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さっそくおいでなすったか。
つい最近まで同僚だった産経新聞元台北支局長の矢板明夫が7月6日、台中市内のホテルで暴漢に殴られた。犯人は「中国籍の香港人」で、高飛び寸前で台湾当局に逮捕された。
産経元台北支局長殴られる
わざわざ元支局長を殴るためだけに香港から飛行機に乗ってやってきたのだから、ご苦労なことである。
彼は中国・天津生まれの中国残留孤児2世で、慶応義塾大学卒業後、松下政経塾に入塾しているから首相・高市早苗の後輩でもある。産経入社後は、中国ウオッチャーの第一人者として長く駐北京特派員を務めたが、当局からは蛇蝎(だかつ)の如(ごと)く嫌われていた。何しろ中国語が堪能で(当たり前か)、当局の監視網を巧みにかいくぐり、人々の本音を引き出したからだ。2年前に産経を退社した後、シンクタンクを立ち上げるとともに、テレビのコメンテーターとして中国によるさまざまな威嚇を歯に衣(きぬ)着せぬ口調で論評する人気者だ。
中国の民族団結進歩促進法(以下、民族団結法)が施行された直後の事件だけに、台湾外交部(外務省に相当)が、「越境弾圧暴力事件」だと強く非難したのも頷(うなず)ける。中国の報道官が、犯人がろくに供述もしていないのに「義憤に駆られた行動だ」と擁護したのは、「犯人は我々です」と自供したも同然だ。

民族団結法は、天下に悪法数あれど、世界屈指の「威嚇法」として記憶されるだろう。第1条で「中華民族共同体意識を確固たるものとし、中華民族共同体の建設を推進し、中華民族の偉大な復興を実現する」と高らかに宣言した同法は、突っ込みどころ満載なのである。
そもそもなぜ今ごろ、民族の団結を促進する必要があるのだろう。中華人民共和国が誕生して77年が経(た)ち、偉大な習近平同志の指導で中華民族は一致団結しているのではなかったのか。滑稽なのは第20条だ。未成年者の保護者に対し「中国共産党を愛し、祖国を愛し、人民を愛し、中華民族を愛するよう教育し導き、中華民族は一家で親しいという観念を打ち立て」るよう求めているが、法律に書かねば、人民は中国共産党や祖国を愛せないらしい。戦前の満州国が掲げた「五族協和」、つまり日本、朝鮮、満州、漢、蒙古の各民族が、一家のように協力して国家を建設しようというスローガンにそっくりなのも感慨深い。中でも危険で見逃せないのが第63条だ。
「民族団結法」第63条の脅威
「中国国外の組織・個人が中国に対して民族団結進歩を破壊し、民族分裂を煽(あお)る行為を行った場合、法的責任を追及する」と定めている。つまり、外国に住む中国人はもちろん、日本人をはじめ外国人も処罰対象にしようとしているかのようだ。傲慢無礼もはなはだしい。
かくいう私は、大学を英語ではなく中国語で受けて合格した筋金入りの「親中派」である。そんな私でさえ、習近平体制下の中国には、とても怖くて行けないばかりか、大手町の片隅で何者かに殴られるかもしれない。もし小欄が「日中友好のため首相は靖国神社に参拝するな」と、どこかの新聞のように書くようになったら、何かあったな、とお察しください。=敬称略
筆者:乾 正人(コラムニスト)
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2026年7月10日産経ニュース【大手町の片隅から】を転載しています
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