南シナ海ウィットサン礁に停泊する中国船団=2021年3月(フィリピン当局提供)
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中国は、イラン紛争の推移を最も熱心に研究する国の一つになるのは間違いない。イランによるホルムズ海峡支配は、たとえ米国の対抗封鎖に直面したとしても、世界全体に極めて大きな影響を及ぼした。
中国が最終目標として掲げる「自治台湾」の掌握もまた、台湾周辺海域の制海権確保にかかっている。同海域は、世界有数の海上交通路に位置するからである。
そのため中国は、軍民両用の海上戦力整備を進めている。全面戦争に至らずとも、重要な物流・通信網を遮断することで台湾を締め上げる能力を構築しているのである。人民解放軍は非正規戦の分野で新たな手法を次々と編み出している。民間のRORO船(ロールオン・ロールオフ船)を用いて水陸両用戦闘車両を展開するのもその一例だ。
老朽化したタンカーや貨物船が「偶然」を装って投錨し、台湾にとって死活的な海底通信ケーブルを切断する事案も起きている。さらに最近では、中国は武装海上民兵で組織された数千隻規模の民間漁船を集結させている。
では、なぜ中国はこれほどまでに成功を収め続けているのか。端的に言えば、人民解放軍の戦術が、各国政府組織の「制度の隙間」に巧妙にはまり込むよう設計されているからである。台湾のみならず、第一列島線全体においても、政府一体となった迅速な対応を困難にしている。
「隙間」を突く中国
その典型例が、世界の海底ケーブルをめぐる脅威である。海底ケーブルは現代社会の重要インフラだ。高速金融取引を支え、世界の半導体製造装置を手掛ける ASML の機器運用を最適化し、さらには世界経済の新たな成長の柱となるAIデータセンターを支えている。
中国による海底ケーブルを標的とした非正規戦戦略は、各機関の管轄争いにつけ込む形で展開される可能性が高い。海底電力・通信ケーブルの所有企業や保険業界は、海底ケーブル防護は海上法執行の問題であると主張する。一方、沿岸警備隊の主任務は海上保安であり、その権限は通常24カイリまでに限定される。海軍側も、事態の緊迫化を避けるため積極関与をためらう。
こうした省庁間の押し付け合いが続くことで、人民解放軍には最小限の労力で戦場環境を有利に形成する余地が生まれる。結果として中国は、一発の銃弾も撃つことなく、混乱を拡散して短期的な政治的利益を獲得し、さらに長期的な戦略的優位まで手にしているのである。

非正規戦も「戦争」
中国が展開する非正規戦、いわゆる「グレーゾーン戦略」は、相手国の信頼や統治の正統性を徐々に侵食することを目的としている。しかし、物事は正確に呼ばねばならない。非正規戦もまた、れっきとした戦争なのである。
戦争を防ぐ唯一の方法は、備えることだ。こうした戦術を積極的に白日の下にさらすことは、しばしば最も容易かつ低コストな対抗策となる。武力行使に比べればなおさらだ。情報共有による透明性確保は、最も安価な非対称戦の一形態だ。情報は戦力配置を左右し、中国の現状変更主義的拡張に対抗しようとする各国の防衛支出を、より効率的なものにする。
忘れてはならない。非正規戦は、相手側がそれを許した時にのみ成功するのである。
もはや「政府一体の対応」が必要だと唱えるだけでは不十分だ。中国が「総力戦」戦略を採用している以上、第一列島線の諸国も連携の道を見いださねばならない。距離という制約を踏まえれば、台湾、日本、フィリピンなど第一列島線の各国・地域は、少なくとも90日間は外部支援なしで自力防衛できる体制を整える必要がある。
そのためには規模が必要であり、結果として国家をまたぐ共同作戦体制が不可欠となる。実務レベルでは、指揮統制、通信、情報、監視、偵察の各機能を各国間で統合する必要がある。この能力は、中国が非正規戦の次段階である「封鎖」に踏み切る以前から、平時より継続的かつ定期的に演練されていなければならない。
「安価な抑止力」という選択肢
必要な技術はまだ存在しない――そう主張する向きもある。だが、海上・海中双方の透明性を確保する技術は、既に実用段階にあり、現場投入も進んでいる。
日本や韓国は、軍事利用可能な監視能力を備えた民間宇宙衛星の活用で先行している。暗闇や悪天候下でも監視可能な高解像度・広域型の合成開口レーダー(SAR)衛星網は急速に拡大しており、極めて高性能な米軍でさえ、既にこうした民間衛星網を利用している。
海中では、「分散型音響センシング(DAS)」が注目されている。これは、脅威にさらされている海底ケーブルそのものを早期警戒センサーへ転用する技術だ。既に北海やバルト海で配備が進み、仮にケーブルが切断されても監視を継続し、重要な情報収集を可能にしている。

さらに海上では、第一列島線諸国が自国漁船団に5Gや衛星通信対応の「スマートマスト」を搭載することで、海洋状況把握能力を大幅に拡張できる。これは、中国の海上民兵戦術に対抗し、逆に主導権を奪い返す手段となり得る。
こうした情報を単一の共通作戦図へ統合し、強靱に共有するためのソフトウエアも既に存在している。非正規戦に対抗するうえで不可欠な「透明性」は、技術的には実現可能なのである。しかも、その費用はどうか。ここで挙げたセンサーやプラットフォームを全て合算しても、パトリオット地対空ミサイル発射システム一基の価格に満たない。
これらのシステムは既に成熟し、大規模運用にも耐え得る段階にある。これほど低コストで実効性の高い抑止策を、世界のどの議会であっても無視することはできまい。
中国政府が恐れるもの
中国は長年にわたり、省庁の混乱や責任分散を巧みに利用し、各国による迅速かつ統合的な対応を妨げてきた。非正規戦とは、まさにそうした状況下で威力を発揮する。
だが、中国が最も恐れているのは「透明性」である。透明性は、低コストで非正規戦戦術を無力化し得るからだ。技術が未成熟だとか、予算が不足しているといった主張は、単なる不作為の言い訳にすぎない。残された時間は多くない。
国家レベルの情報収集能力を整備することは、挑発を伴わない非対称抑止そのものである。そして、中国のグレーゾーン戦略は、相手側がそれを許した時にのみ成功する。
自由で開かれたインド太平洋、そしてルールに基づく国際秩序の将来は、究極的には各国の政治的意思にかかっているのである。
筆者:ジェイソン・ワン(地理情報分析会社「ingeniSPACE」COO)
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