東シナ海で中国の大漁船団が不思議な行動をとり続けている。昨年末から数度にわたり、数千隻規模の漁船が数百kmにわたって何度も並んだ。これらの漁船が海上民兵ならば、日本や地域にとって安全保障上の課題は大きい。
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漁港を出る中国漁船=2024年8月、中国福建省石獅市(共同)

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東シナ海で中国の大漁船団が不思議な行動をとり続けている。昨年12月24日から26日には、2000隻超が470kmに及ぶ巨大な逆L字型を描いた。2026年1月、そして3月にも1000隻以上の漁船が整列し、一部は日中中間線を越えた。漁船の大部分は浙江省を母港としており、うち200隻から300隻はすべての活動に参加していた。日中間には漁業協定があり、中国漁船も日本漁船と同じく東シナ海の大部分で操業できるため、漁業活動である限り違法性があるとはいえない。しかし、なぜ数千隻規模の漁船が数百kmにわたって何度も並ぶのか。もしこれらの漁船が海上民兵ならば、日本や地域にとって安全保障上の課題は大きい。

海上民兵の定義と活動範囲

海上民兵の活動は南シナ海が有名だが、最近は東シナ海や黄海の沿海各省でも地方政府と省軍区が連携して海上民兵を組織している。東シナ海では、2013年に中国で海洋権益護持を党中央、国務院、中央軍事委員会の決定として格上げしたとき、浙江省と同省軍区が寧波、温州、台州市で海上民兵の建設と運用の実証実験を行ったという記録がある。

海上民兵とは何者なのか。中国国防法第22条は民兵を、人民解放軍の現役部隊と予備役、中国人民武装警察部隊部隊に並ぶ中華人民共和国の武装力のひとつと規定する。中国側の資料によれば、海上民兵として徴用されうるのは漁業者や船舶の乗員である。彼らは通常、それぞれの作業に従事するが、要請があれば作戦に参加して軍と中国海警局の活動を補完する。そのため定期的に政治教育や訓練を受けている。上記の隊列も、そうした訓練の一環である可能性が高い。

東シナ海での中国漁船の隊列=2025年12月24日~26日(ingeniSPACE提供)

海上民兵は準軍事要員ではあるが日雇いの民間人でもある。米海軍大学のコナー・M・ケネディは、中国が戦時と平時の間のグレーゾーンで国家目標を遂行しようとするとき、こうした二重の身分が理想的な手段になると指摘している。中国はすでに全沿岸域で海上民兵を組織している。日本を含む第一列島線上の国々はいずれも、海上民兵を用いたグレーゾーン戦術の脅威に直面している。

東シナ海での中国漁船の隊列=2026年1月11日(ingeniSPACE提供)

中国軍の背後を守る海上民兵

習近平政権が全沿岸域で海上民兵を組織する理由は、中国軍の太平洋進出という大きな戦略構図の一部として理解できる。

2025年6月、太平洋に初めて中国の空母2隻が同時展開した。統合幕僚監部の発表によれば、2隻のうち遼寧は沖ノ鳥島から約990kmも南下した。その地点はミクロネシア連邦領土のヤップ島の排他的経済水域内であり、パラオにも近い。今や中国は、大陸側からだけでなく太平洋側からも台湾に軍事的圧力をかけられる。さらには第一列島線から第二列島線へ至る北西太平洋で、アメリカの接近を拒否しようとしている。

(©Hudson Institute)

中国が太平洋でアメリカに挑戦するなら、東シナ海で日本の海上勢力を抑え込み背後の安全を確保する必要がある。もし中国が海上民兵で海上保安庁や海上自衛隊の動きを効果的に止められれば、中国は実質的に東シナ海を勢力圏にできる。つまり、海上民兵の投入は、第一列島線での中国抑止の努力を打ち消そうとする中国の一手である可能性を認識しなければならない。

海上民兵によるグレーゾーン作戦

中国が数千隻の漁船動員能力を証明した以上、日本は急ぎその動向を分析し、対応を再点検すべきだ。では何に警戒が必要なのか。

第1に、中国漁船群の集結は海上保安庁の尖閣諸島の領海警備の難度を上げる。2016年には200隻から300隻の中国漁船が尖閣諸島周辺海域に集まり、その後を追う形で武装した中国海警船が領海侵入を繰り返した先例がある。そこから約10年が経過した。尖閣諸島周辺海域では海上保安庁の1000トン級巡視船10隻が常にプレゼンスを保っているが、次は数千隻の中国漁船団が中国海警と連携してやって来るかもしれない。

東シナ海での中国漁船の隊列=2026年3月1日~3日(ingeniSPACE提供)

第2に、中国側は、「漁民と軍艦」や「漁民と公船」という非対称の構図を作り出し、阻止戦や認知戦を有利に展開しようとしている。2009年には海上民兵が、南シナ海で米海軍情報収集艦インペッカブル号の進路を妨害して同号の装備を破損しようとした。これが阻止戦の有名な例だ。認知戦としては、事実を捻じ曲げて日本の大きな護衛艦や巡視船が小さな中国漁船を「追い回す構図」を作り出し、「日本の国家暴力が可哀想な中国漁民をいじめている」という宣伝を展開してくるのではないか。中国はこの戦術を南シナ海で多用してきた。将来、台湾侵攻や尖閣侵攻を始める際にも、まず海上民兵を作戦投入し武力衝突のきっかけを作らせた上で、すべての責任を相手方になすりつけるとみられる。

中国全人代が開幕し、会場の大型画面に映し出された習近平国家主席=3月5日、北京の人民大会堂(共同)

5日に開幕した中国の全国人民代表大会(全人代)で、習近平政権が台湾併吞(へいどん)を視野に軍拡路線を継続し、実戦能力を高める姿勢を鮮明にした。提出された2026年予算案は、国防費として前年比7%増の1兆9095億元(約43兆4千億円)を計上した。日本の防衛費の5倍近くに上る。中国国防費の伸び率7%台は5年連続だ。

第3に、「ハイテク人民戦争」の可能性だ。中国ではかつて毛沢東が、広範な民衆を動員する人民戦争を唱え、抗日戦争で勝利をおさめたと理解されている。今日、習近平は海上民兵と新装備を組み合わせ、「ハイテク人民戦争」の実現を目指しているようだ。例えば海上民兵が、無人機の扱い方を訓練しているという情報がある。民兵が一度に大量の無人機(AUV)を飛ばしたり泳がせたりして飽和攻撃を行い、偵察や海底ケーブル破壊などの工作に従事する可能性がある。また機動性のある海上民兵に、ジャミングなどの電磁作戦を担わせるべき、とする中国側資料も存在する。

中国は東シナ海で海上民兵と中国海警の連携をレベルアップさせてくるのか。日本政府は、台湾有事に関する軍事的な懸念に議論を偏らせることなく、海上民兵と中国海警の連携するグレーゾーンの脅威に対する処方箋を今一度確認すべきである。

筆者:毛利亜樹(筑波大学人文社会系助教)

協力:益尾知佐子、ingeniSPACE、弓野正宏

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