海上自衛隊の護衛艦「いかづち」
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今年は安全保障三文書改定、防衛装備輸出規制5類型撤廃、防衛産業戦略策定などの防衛政策をアップデートする重要な年だ。日本が直面する脅威の烈度に応じて真に国家国民を守れる体制の構築を明言するものでなければならない。
日本を取り巻く安全保障環境の考察を①米国、②中国、③インド太平洋諸国、の、メッシュで述べる。
①米国:米国の外交政策が予見困難になりつつある。かつて強固な連携を誇った米国と欧州との関係が米国の関税問題と欧州の防衛予算をめぐって大きな溝が生じている。ロシアの侵略から4年を経過したウクライナ戦争を含め、米国は欧州の安全保障は欧州が主体的に責任を負うべきと主張しており、欧州各国はこれまでの米国依存からの自立を迫られている。
台湾についても中国の武力侵略を抑止する米国の支援は続いているが、実際に侵攻が生起した場合の米軍の対応は不透明感が滲む。フィリピンを除くASEAN諸国やインドとの関係も中東におけるイスラエル支援などが影響して後退感が否めない。インドやインドネシアなどとの安全保障外交で単発でも見せ場があったのはせめてもの救いだ。
その昔、米国のバックヤードと言われた中南米はこの20年余の間に中国のプレゼンスが急速に広がった。この状況を打開するべくトランプ大統領は西半球の戦略的地域としてハイライトした。ベネズエラ侵攻はその一環であり、次はキューバとの見方が専らだ。
そして突如始まったイランとの戦争では、米国がイスラエルと共に圧倒的な軍事力の力を誇示しつつも、継戦能力の脆弱性や想定を超えたイランの反撃などにより決め手を欠き、米国・イラン双方によるホルムズ海峡封鎖が日本を含む世界経済に影響を及ぼしている。
②中国:日本に対して軍事、経済、外交的圧力を強めている中国は、もはやその覇権主義を隠そうとしない。台湾への圧力は年々烈度を増し、南シナ海の要塞化も不可逆的なレベルに達している。また、ウクライナやイランでの戦争ではロシア、北朝鮮、イランとの緊密な軍事的・経済的連携が指摘されている。
防衛白書によると、中国の軍事予算(開発費を含まない)はこの20年で7倍増え40兆円(日本の5倍)にまで膨張。日本全土を射程に収めるミサイルを2000発以上保有。現在600発ある核弾頭は2030年には1500発にまで増強される計画となっている。艦艇や航空機の数量に於いては日米韓の総数を大幅に上回っている。
高市総理の台湾有事が日本の存立危機事態になり得るとの発言に中国は引き続き強硬姿勢を貫いている。しかし、台湾が例え中国の一部であったとしても、物流の要衝である台湾海峡やバシー海峡で海上封鎖や戦争が起こるということは、日本やアジア諸国にとってホルムズ海峡の封鎖を大きく上回る経済的損失を生起させることは火を見るより明らかだ。
③インド太平洋諸国:インド太平洋の平和と安定に貢献する強い想いを共有している国は豪州だ。中国が第一列島線を越えたらその先は豪州、との強い危機感を持っている。豪州政府がもがみ型護衛艦の購入を決めたのも日本と価値観を共有しているからである。
フォリピンは日本の防空レーダーや海保巡視艇などを購入。日米比の関係は盤石だが、フィリピン独自の防衛能力強化はまだ緒についたばかりだ。
フィリピン以外のASEAN諸国では日本のプレゼンスが中国に大きく劣後している。従来からの経済関係が成熟期に達し、またASEAN諸国自体も経済的に豊かになってきた。日本との防衛協力も着実に進んでいるが、近年の中国の投資規模や政治的メッセージのインパクトに比べると精彩を欠く。ASEANのリーダーからは予々「より強い日本を望む」との声が大きい。
インドとの外交は経済、安全保障の観点で順調と言えよう。日米豪印からなるQUADをインド太平洋地域の安全保障にコミットする枠組みに発展させられるか否かが今後の焦点となる。
かかる状況下、当面日米同盟が欧州のような状況になることはないと期待したいが、悲観的なシナリオをも想定することが政治家の務めである。仮に日本の意図に反して第三国により日本周辺で武力攻撃事態が生じた場合、今の日本は果たしてどこまで対処できるのだろうか?
我々政治家は、
- 我が国への脅威を抑止し得る「独自の力」を保持して国家国民を守り抜くこと
- 同盟国・同志国との安全保障連携を強化して有事でも機能する「集合的抑止力」を確立すること
- 日本がインド太平洋地域の「良識の基軸」となり地域の平和に貢献する「覚悟」を持つこと
の、決意を新たにしなければならない。
防衛予算の妥当な金額とは?
防衛予算の妥当性がGDP比の%で議論される。米国の要請がGDPであることが理由であろう。しかし本来は日本に対する脅威の抑止に資する防衛体制構築にかかるコストが防衛予算の基準であるべきではないだろうか?
まずは、中国が保有する核弾頭、ミサイル、航空機、艦艇、それらを運用する人民解放軍の練度などを見極めなければならない。ロシアや北朝鮮の出方も考慮しなければならない。
その上で、日米同盟や英・豪などとの準同盟や集合的抑止力が十分に機能する場合、そうでない場合などの様々なシナリオを想定する必要がある。
悲観的シナリオで試される「ソブリン・ディフェンスパワー」
同盟や準同盟が十分に機能しない悲観的な状況が生じたとしても、政府が国家国民を守る使命は変わらない。そこで重要になることが、日本独自の判断で必要とされる作戦が遂行できることと、その作戦が相当期間継続できること、である。保有する装備の隅々まで日本の主権が及ぶ体制が不可欠になる。
インテリジェンスを駆使した抑止に資する精密なターゲティング、陸海空の部隊と装備を繋ぐC2(指揮管制)システム、必要に迫られた場合には独自の判断で行使できる有効な打撃力が必要となる。必要な打撃力のレベル感としては、日本の脅威となる国の本土の奥深くにある地下の指揮管制施設や核弾頭搭載可能なミサイルが格納されている地下サイロを無力化できる精密打撃力が必要と考える。
日本が核兵器を保有することは政治的なコストと物理的なコストの観点から極めて難易度が高い。その一方で、トマホークや島嶼防衛型滑空弾のような巡航ミサイルでは抑止効果に疑問が残る。巡航ミサイル以上、核未満の打撃力と、それを運ぶ航続距離4000km以上のミサイルを保持する議論が必要だ。
日々進化する装備と戦い方
ウクライナやイランでの戦争において陸海空の無人装備や電子戦が大量投入されており、かつその性能の進化が著しい。しかもより安価な装備が大量投入する物量戦の様相を呈している。
現在、自民党内で進められている安全保障三文書改定の議論の中でも前述のスタンドオフ装備に加えて無人装備の導入が急がれている。
ここで重要なのは、戦い方の進化と装備の性能の進化を見極め、Combat Provenな技術(ソフト)と日本のものづくりの力を融合させることで、日本の抑止力を高井レベルで維持することだ。そして特に核心的装備においては輸入に依存するのではなく、日本国内で生産して輸出も含めて対応できる体制を構築することだ。
尚、余談だが予算が制約されると、とかく日本の領土からできるだけ遠いところでの対処の話だけに集約されがちだが、都市部も含む日本国土におけるゲリラや民兵による蜂起なども含めた対応も忘れてはならない。
日本の強みを活かした防衛産業の徹底強化
私が商社マン時代に携わっていた自動車産業に於けるものづくりの技術の高さとサプライチェーン網の強靭さはどこの国のどの産業と比べても負けない日本の財産だと確信している。
政府は新たな成長産業創出の一環として半導体やAIの分野において国家の威信をかけた挑戦を行なっている。そして、その次なる挑戦は防衛産業だと確信している。
特に人的資源が限られている我が国において、自動車産業など我が国の基幹産業が抱えるエンジニア、国際営業、財務などの優秀な人材は日本の宝と行って良い。したがって、これらの財産を防衛産業にシフトして新たな成長産業を構築することに大いに期待したい。
現役世代だけでなくリタイア後のシニア人材への期待も大きい。中国の研究開発には相当程度の日本人シニア人材が招聘されている。これは日本の画一的な定年制度とエンジニアなど有能な人材への処遇が必ずしも世界トップクラスでないことにも起因している。
日米同盟をより揺るぎないものにするカードにも
日米同盟による「抑止力」が日本の安全保障政策の基軸である。これがいかなる時も機能する環境を堅持しなければならない。
経済に於いては、日本は米国にとって最大の投資国であり、最も雇用を生み出している国である。しかし防衛に於いては、私の近著「インド太平洋戦略2.0」でも述べた通りまだ日本が日米相互利益の為に貢献できる余地が残されている。
それは米国の防衛サプライチェーンの強化を通じて米国の防衛における戦略的不可欠性を高め、より強固なパートナーシップを確立することだ。DICAS(日米防衛産業の協力・取得・意地整備定期協議)を通じてミサイルの共同生産、米軍艦艇・航空機の維持整備、サプライチェーン強靭化の検討が進んでいるが、日本から率先して更に広範にわたる貢献する提案をするべきだ。日米同盟が崩れることは国際社会のパワーバランスの崩壊を許すことに他ならないのである。
スタンドオフ装備を例に挙げると、2026年3月、防衛省は米国からトマホーク巡航ミサイルの最初の引き渡しを受けた。しかし、ウクライナへの支援とイランでの作戦を担う米国は3月末時点で全在庫の20%相当のトマホークミサイルを使用したとされる。これは1年分の生産量とも言われており、日本への次ロットの納期は大幅に遅れている。
日本の防空の要でもあるパトリオットミサイルもウクライナや中東で大量に消費されている為、米国から日本への納入が大幅に遅れている。
米国に於ける生産体制の逼迫が世界の安全保障に影を落としている今、米国防衛産業のボトルネックとなっている部分に於いて日本が米国に投資をして支えることが極めて重要になる。加えて、ものづくりに秀でた日本として、ミサイルやドローンなどの防衛装備を国内生産し、保管する体制を構築し、米国や同志国のニーズに供給サイドとして貢献することは、日本の戦略的不可決性を更に高め、国際社会の平和と安定に寄与する最も有効な政策だと考える。
日本がインド太平洋の「良識の基軸」となれ
南シナ海が中国の要塞と化している厳しい現実を見ても、ASEAN諸国やインドなどの国々がより強固な防衛力を有する必要があることは明白だ。インド太平洋地域における中国の覇権主義のコストを引き上げ、力による現状変更を断固拒絶し、航行の自由を守ることが、これ即ちインド太平洋地域の平和と安定の最大の対策であると考える。
今回ホルムズ海峡が封鎖されて石油の輸出が滞ったことで深刻な経済低ダメージを受けたのは日本だけではない。同様のことが台湾海峡、バシー海峡、マラッカ海峡などで生起した場合はホルムズ海峡とは比較にならないダメージを受けることになる。
日本は同地域の「良識の基軸」となることを決意し、平和を語るだけではなく、地域の国々の防衛力強化をよりリアルな形で支援することで、その責務を果たして行かなければならないと考える。
筆者:和田義明(衆院議員)
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