トランプ氏が台湾問題で中国側に譲歩するような姿勢を示せば、米国の信頼性に対する疑念が一層強まり、日本を含む周辺国は相互連携の深化を急ぐ公算が大きい。
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北京の天壇公園を訪れたトランプ米大統領(左)と中国の習近平国家主席=5月14日(ロイター=共同)

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トランプ米大統領と習近平中国国家主席が緊張緩和で合意する一方、日本と台湾がより危うい立場に置かれる――。インド太平洋地域では、そうした懸念が現実味を帯び始めている。

トランプ氏と習氏は北京で会談を実施。米インド太平洋安全保障研究所上級部長で、キヤノングローバル戦略研究所主任研究員を務める辰巳由紀氏は、米国が貿易や先端技術、さらには中東情勢を巡る協力の見返りとして、中国側に何を差し出すのかが焦点になると指摘する。

辰巳氏は、トランプ政権がイランを交渉の席へ戻すため中国の圧力行使を必要とする場合、中国が無償で協力する可能性は低いとの見方を示した。

中国国営メディアによれば、習氏は既にトランプ氏に対し、台湾問題は米中関係で最重要課題だと強調。「対応を誤れば衝突、さらには紛争に発展しかねない」と警告したという。

辰巳氏は、台湾側が注視しているのは、米国が長年維持してきた対台湾政策の「原則を変えるような何か」に同意するかどうかだと語る。具体的には、中国寄りの新たな表現の採用や台湾防衛支援の縮小、有事の際の米国対応に関する抑制的なシグナルなどが想定される。

そうした動きは「台湾にとって耐え難いだけでなく、日本にとっても同様だ」と辰巳氏は警鐘を鳴らした。

アジアに広がる波紋

台湾を巡る譲歩は、台湾や日本を動揺させるだけではない。米国の関与や安全保障上の約束が、同盟国や友好国が想定していた以上に「交渉可能なもの」であるとの印象を地域全体に与えることになる。

とりわけ、中国から南シナ海で圧力を受けつつも、米中のいずれかに露骨に肩入れすることを避けてきた東南アジア諸国にとって、その衝撃は小さくない。

辰巳氏によれば、「信頼できる米国の指導力なき時代」に備えていると公言する政府はほとんどない。しかし実際には、自国の利益を守るための追加的な方策を模索し始めている可能性が高いという。

その場合、中国に対抗する均衡軸を求める地域諸国にとって、日本の役割は一段と重要性を増す公算が大きい。

辰巳氏は「地域諸国に対し、『米国の代替ではないにせよ、中国に対抗する地域の指導的存在となり得る国はどこか』と問えば、答えはおそらく日本になるだろう」と指摘した。

周辺国連携を強化へ

もっとも、日本の経済規模や軍事力は依然として中国に大きく及ばない。辰巳氏は、米国の指導力に対する信頼性が低下すれば、日本は地域秩序を維持するため、中堅国との連携を一段と強化していくとの見方を示す。

実際、日本は既にその方向へ動き始めている。辰巳氏は、フィリピンで実施された合同軍事演習「バリカタン」への日本の参加について、安全保障上の役割変化が急速に進んでいる象徴だと指摘した。

日本はこれまでも米国主導の演習や友好国との訓練にオブザーバーとして参加してきたが、近年は自衛隊部隊を実際に派遣するようになっている。

さらに重要なのは、陸上・海上・航空の3自衛隊すべてから要員を派遣した点だ。辰巳氏は、これが「統合部隊に近い形」での初参加だったと強調した。

フィリピンの戦略的重要性

フィリピンは、日本や台湾、東南アジアにとって死活的に重要な海上交通路に近接している。とりわけ台湾とフィリピンの間に位置するバシー海峡は、中東からのエネルギー輸送や物流、貿易を支える重要航路だ。

辰巳氏は、「これら航路に最も近い国々が、演習を通じて地域の平和と安全保障、とりわけ海洋安全保障で協力可能であることを示す意義は極めて大きい」と語った。

また、中国が合同演習に強く反発した点も注目に値する。辰巳氏は「中国は、本当に重要だと考える事案に対して強い抗議を行う」と指摘。「中国にとって意味のない演習であれば、ここまで激しく反応することはなかったはずだ」と分析した。

防衛装備移転を加速

さらに日本は、フィリピンへの防衛装備移転にも踏み出そうとしている。対象には「あぶくま型」護衛艦やTC90練習機などが含まれており、辰巳氏は、これを日比双方に利益をもたらす「ウィンウィン」の枠組みになり得ると評価する。

日本政府は4月、防衛装備品の輸出ルールを大幅に緩和する方針を閣議決定した。これにより、完成品の防衛装備や殺傷能力を持つ兵器の海外輸出にも道が開かれた。

日本の退役装備は、一般的に極めて良好な状態を保っているとされる。その理由として、米軍装備より比較的早い段階で退役することに加え、自衛隊は米軍と異なり実戦投入されていないため、艦艇や航空機が戦場で酷使されていない点が挙げられる。

辰巳氏は「フィリピン側にとっては、米国製の高価な装備を購入するより安価でありながら、自国単独で生産可能な装備よりはるかに高性能だ」と説明した。

その上で、「日本側にとっても、新規契約需要の創出につながるほか、技術者や生産ライン、部品供給網の維持にも資する」と述べ、防衛産業基盤強化の側面を強調した。

経済安全保障と防衛の一体化

アジアの周辺国との連携が重要性を増している背景には、経済安全保障と防衛の境界が急速に薄れつつある現実がある。辰巳氏は、両者を「一つの車の両輪」と表現する。

高市早苗首相の最近のベトナム、オーストラリア訪問でも、議題は防衛協力だけにとどまらなかった。エネルギー安全保障や重要鉱物、強靱なサプライチェーン構築が主要テーマとなった。

辰巳氏は、日本には中国の支配下にない資源供給先が必要であると同時に、日本企業の投資を通じて採掘や精製、生産を支援できる相手国も不可欠だと指摘する。

さらに近年の戦争で用いられる多くの先端技術は、もともと民生分野から生まれたものだ。サイバー技術や人工知能(AI)、量子コンピューター、ドローン、自律型システムなどがその代表例である。

かつてはインターネットやGPSのように、軍事技術が民間利用へ転用される流れが主流だった。しかし辰巳氏は、「現在はむしろ逆方向の流れが強まっている」と分析する。

その上で、半導体供給網の重要性について「半導体なしにミサイル防衛は成り立たない」と強調。「航空機も戦闘機も飛ばず、シミュレーターも稼働しない」と述べ、先端産業基盤そのものが安全保障を左右する時代に入ったとの認識を示した。

日米同盟を補完する安全保障網

日米同盟は依然として日本の外交・安全保障政策の基軸である。しかし、高市首相がこれまでの政策演説で打ち出してきたように、日本政府は既にアジアの「志を同じくする国々」との戦略的安全保障協力を深化させる方向へ動き始めている。

仮に米国が、インド太平洋地域に影響を及ぼすような譲歩と引き換えに戦略原則を後退させるならば、日本はそうした動きをさらに加速させる公算が大きい。

その際、日本が目指すのは日米同盟の代替ではない。むしろ、周辺国との連携強化を通じて、同盟体制を補完し、地域全体の強靱性を高める安全保障ネットワークの構築である。

著者:ダニエル・マニング(JAPAN Forward記者)

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