近畿地方で「梅雨明け」が発表され、日傘をさして歩く人たち=7月8日午後、大阪市中央区
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今年の夏は、熱中症への警戒が例年以上に必要な局面を迎えている。
日本救急医学会の熱中症対策委員会で2006年から活動してきた三宅康史氏は、Japan Forwardのインタビューで「今年はここ数年とは異なるタイプの夏だ」と指摘した。
三宅氏によると、危険なのは単純に気温が高いことではない。今年は6月まで比較的過ごしやすい気候が続いた後、短期間のうちに真夏の暑さへと急変したため、人の体が高温環境に十分順応できていないことが熱中症リスクを押し上げているという。
暑さに順応できていない体
例年であれば、日本では6月にかけて徐々に気温が上昇し、梅雨明け後に本格的な夏を迎える。今年はその流れが大きく異なった。関東地方では6月の気温が平年より低く推移し、総務省消防庁が毎週公表している熱中症による救急搬送者数も低水準にとどまった。
しかし、三宅氏は「その落ち着いた状況はまもなく終わる」と警告する。
「西日本、東日本ともに梅雨が明ければ、暑さにまったく慣れていない体に本格的な猛暑が襲いかかる」
人の体は数日から数週間かけて暑さにさらされることで、発汗機能や皮膚から熱を逃がす能力が高まり、徐々に暑熱順化が進むという。こうした過程を経て初めて暑さへの耐性が身につく。
「順応ができていない状態では、暑さが体に与える負担は非常に大きい」
特に屋外で活動する人は注意が必要だ。建設現場などで働く労働者のほか、体育の授業や部活動に参加する児童・生徒、買い物や子どもの送り迎えなど日常生活で屋外に出る人も例外ではない。
三宅氏は、病院の受診データからも7月下旬の約10日間が毎年、熱中症患者が最も増える時期だと指摘する。
「そのピークまで残り10日ほどしかない。今年は短期間で患者が急増する可能性が高く、熱中症が一気に増えるリスクは非常に大きい」
暑さに慣れるために運動を行う「暑熱順化」を今から始めることについても、三宅氏は慎重な姿勢を示す。一般には30分程度のウオーキングや15分程度のジョギングが有効とされるが、「現在の暑さでは、そうした準備自体が危険になり得る」という。
「今は暑さに備える段階ではない。熱中症そのものを防ぐことを最優先に考えるべきだ」
そのためには、仕事や運動の負荷をいきなり通常通りに戻すのではなく、最初は6~7割程度の強度から始め、休憩回数を増やすとともに、最も負荷の大きい作業は日中の暑い時間帯を避けることが重要だとしている。
異なるリスク
三宅氏は、高齢者、子ども、屋外で働く人では熱中症の危険性が生じる仕組みが異なると説明する。
高齢者については、何よりも暑さを避けることが重要だ。エアコンを適切に使用して室内で過ごし、家族や近隣住民が見守ることが欠かせないという。日本では一人暮らしの高齢者も多いことから、周囲の声掛けが命を守ることにつながる。
「ピークまではあと約1カ月だ。その間、お互いに気を配り合えば、この夏を乗り切ることができる」
子どもについては、屋外活動の時間を半分程度に減らし、その分を屋内での休憩に充てることを提案する。
一方、屋外で働く人には、作業量を段階的に増やす「慣らし運転」が欠かせないと指摘した。昨年からは熱中症対策を事業者に義務付け、違反時には罰則も科される制度が始まるなど、職場での対策強化が進んでいる。
それでも三宅氏は、建設業など現場を支える労働者の高齢化が進んでいる現状を踏まえ、「今後も継続的な警戒が必要だ」と強調した。
職場の熱中症対策の効果
罰則を伴う職場の熱中症対策が導入されてから1年が経過したが、その効果について三宅氏は慎重な見方を示す。
「死亡者数は少なく見える。しかし、死亡者が少ないからといって、熱中症になった人が少ないことを意味するわけではない。公表されるのは労災として正式に報告された件数に限られるからだ」
三宅氏は、特に子どもの軽症例など、自宅で一晩休養して回復したケースは統計に表れないことが少なくないとみている。
その上で、厚生労働省が2026年3月に策定した新たな職場向け熱中症対策指針についても、「患者が急増したことへの対応というより、将来を見据えた予防的な措置だった」と評価した。
危険な「思い込み」
三宅氏が最も危険視するのは、「これまで大丈夫だったから今年も大丈夫」という過信である。
とりわけ高齢者は、若い頃やこれまでの経験から自分は暑さに強いと思い込みがちだが、その考え方こそが熱中症の危険を高めると指摘する。
対策としては、室温計が28~30度を示した時点で家族が高齢の親族にエアコンの使用を促すなど、具体的な働きかけが有効だという。
また、子どものスポーツ活動では、勝ちたいという気持ちが強い本人ではなく、指導者や保護者が休憩のタイミングを判断することが重要だと強調する。日陰や冷房の効いた場所で体を冷やし、常温の水ではなく冷たい飲み物でこまめに水分補給することも勧めている。
日本の経験が海外に示すもの
日本の熱中症対策から海外が学べる点について問われると、三宅氏は、行政が整備してきた制度を挙げた。
環境省が指定する「クーリングシェルター(指定暑熱避難施設)」や、熱中症警戒アラートの運用に加え、まだ発令実績はないものの、より危険な状況を想定した「熱中症特別警戒アラート」が制度として整備されていることは、日本ならではの取り組みだと評価する。
さらに三宅氏は、熱中症による生死を分けるのは医師の治療ではないと強調する。
「最も重要なのは、医師のもとへ運ばれる前の対応だ。体を冷やし、水分を補給し、十分に休ませることが何より大切である。そうした処置は病院ではなく、現場で行わなければならない」
筆者:ダニエル・マニング(JAPAN Forward記者)
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