ホルムズ海峡の混乱が長期化する中、国家備蓄や補助金、原子力発電所の再稼働が、日本政府の対応をどのように左右しているか。日本エネルギー経済研究顧問の小山堅氏に聞いた。
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ホルムズ海峡の封鎖が約5カ月に及ぶ中、日本は1970年代の石油危機で得た教訓を生かしている。エネルギー安全保障を確保するため、時間を稼ぐ手段として石油備蓄を機動的に放出する重要性である。

こうした見方を示すのは、日本エネルギー経済研究所顧問の小山堅氏だ。小山氏はJapan Forwardの取材に対し、日本のエネルギー安全保障の現状と、ホルムズ危機への対応について見解を語った。

露呈した脆弱性、備えが支えに

日本の原油輸入に占める中東依存度は2025年時点で9割を超え、過去最高水準に達した。小山氏は、この数字自体が日本のエネルギー安全保障上のリスクを物語っており、「議論の余地はほとんどない」と指摘する。

一方で、1970年代の石油危機と比べれば、状況を支える構造的な変化が二つあるという。一つは、日本の一次エネルギー供給に占める石油の割合が大幅に低下したこと。もう一つは、今回は十分な石油備蓄を活用できる点である。

小山氏は「半世紀前の石油危機と比べれば、原油価格の高騰や供給途絶が日本経済全体に及ぼす影響は緩和されている」と説明。その上で、「備蓄は、日本が抱える脆弱性を補うために築き上げてきた重要な成果であり、強みでもある」と評価した。

時間との闘い

小山氏によれば、この備蓄こそが、日本を直ちに供給不足へ陥る事態から救った唯一の安全弁だった。

2月28日に戦争が勃発し、中東産原油の流入が途絶えると、日本企業は代替調達先の確保に奔走した。その多くは米国からの調達だった。

しかし、小山氏によれば、たとえ3月上旬に契約をまとめたとしても、契約交渉や太平洋を横断する輸送に要する時間を考えれば、日本に原油が到着するのは早くても5月になるという。

その空白期間を埋めたのが石油備蓄だった。5月以前に代替原油が日本へ到着する見込みがない中、高市早苗首相が3月11日に決断した備蓄放出が、供給網の寸断を防ぐ決め手になったと小山氏は評価する。

「備蓄を活用して危機を乗り切り、日本への石油供給を止めないようにすること。国家政策として迅速かつ適時に下された極めて重要な判断だった」と語った。

出口見えぬ危機

危機がいつ終息するのかについて、小山氏は「予測は困難だ」との見方を示した。米国、イラン、そして特にトランプ米大統領の次の対応を読み切ることは難しいためだ。

6月の戦闘終結の覚書は、一時、ホルムズ海峡の再開通への期待を高めた。しかし、協議は再び攻撃の応酬へと転じ、その後、新たな停戦状態に入っている。

小山氏は「覚書が成立したことで、問題は事実上解決し、ホルムズ海峡の航行も正常化に向かうと、楽観的に見た市場関係者もいた」と指摘。その上で、「われわれが明らかに認識すべきなのは、そのような楽観論に安易に傾くべきではないということだ」と警鐘を鳴らした。

小山氏は、原油市場の不安定な状況は少なくとも今年後半まで続く可能性があるとみている。

LNG供給は余裕乏しく

小山氏は、サウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)が、ホルムズ海峡封鎖による原油供給減少分を補うため、迂回(うかい)パイプラインを活用して輸出量を最大化すると指摘した。

対象となるのは、サウジのヤンブー向け日量700万バレルの東西パイプラインと、UAEのフジャイラ向け日量180万バレルのパイプラインである。

ただし、石油製品や液化天然ガス(LNG)には、こうした代替輸送ルートが存在しない。

ホルムズ海峡を通過するLNGは年間約8000万トンに上り、世界全体の供給量の約2割を占める。海峡封鎖の間、この供給は全面的に途絶えている。

さらに、イランによる攻撃で、世界第2位のLNG輸出国であるカタールの生産能力の約5分の1が損傷した。小山氏は、復旧には数年を要する可能性があるとの見方を示し、「ホルムズ海峡が再開されたとしても、カタールからの供給は大幅に減少した状態が続くだろう」と述べた。

LNG市場の逼迫(ひっぱく)は、LNGの現物価格に直結する。原油価格の上昇も日本のLNG輸入価格を押し上げる圧力となる。

ただ、小山氏は、政府の補助金によって、こうした影響は現時点で消費者が実際に負担する価格には十分には表れていないと指摘している。

家計を支える補助金、増大する財政負担

円安が今回の危機に与える影響について、小山氏は、政府が3月に導入したガソリン価格抑制の補助金により、日本の家計はこれまでのところ、燃料価格高騰の直撃を大きく回避できていると指摘した。

一方で、この政策は消費者価格を抑える半面、その負担を国の財政が肩代わりしている。

小山氏は「国民が実際に支払う負担という点では、現時点で顕在化していない」と説明。ただし、原油価格の変動がLNG価格に反映され、電気料金に波及するまでには通常3〜4カ月かかるとし、円安による影響が本格的に電気料金へ表れるのは年末にかけてになる可能性があるとの見方を示した。今後の原油価格の動向にも左右されるという。

原発再稼働に進展も、近道はなし

補助金は、言い換えれば、コスト面で時間を稼ぐ措置にすぎない。日本が抱える輸入燃料への依存という根本的な脆弱性を解消するものではない。

小山氏が重要かつ現実的な構造改革の一つとして挙げるのが、原子力発電の活用である。

ただし、原発再稼働は短期間で進むものではない。今回の危機を受けて再稼働の動きが加速したとしても、近い将来、化石燃料依存を大きく低減させることは容易ではない。安全審査や地元自治体の同意手続きは、原油価格が上昇したからといって単純に短縮できるものではないためだ。

それでも小山氏は、柏崎刈羽原子力発電所の再稼働や、北海道電力泊発電所の再稼働方針決定など最近の動きを挙げ、「原発再稼働に向けた流れは強まりつつある」と指摘した。

二軸で進める対応

今後の展望について、小山氏は、日本独自のエネルギーの未来を確保する取り組みは、もはや国内だけの問題として扱うことはできないと指摘した。

日本の供給網は現在、アジア各国と緊密に結びついている。そのため、地域全体のエネルギー安全保障の不安定化は、最終的に日本自身へ跳ね返ってくるという。

小山氏によれば、こうした考え方を背景に政府が打ち出したのが、新たな「POWERRアジア」構想である。この取り組みでは、東南アジア諸国が石油を調達する際の資金支援に加え、自前の石油備蓄を構築する取り組みも後押しする。

これは、1970年代の石油危機を受け、米国が経済協力開発機構(OECD)加盟国をまとめ、国際エネルギー機関(IEA)の設立へとつなげた対応を意識したものだ。当時、共同備蓄は弱い国への「支援」ではなく、各国が共有する防衛線として位置付けられた。

小山氏は「日本は今、アジア全体のエネルギー安全保障に対して、同様の努力を進める必要がある」と述べ、サウジアラビア、UAE、米国との協力強化も重要だと強調した。

さらに中長期的には、日本は特にホルムズ海峡を経由する中東産原油への依存を一段と低減し、他地域からの原油も処理できる、より柔軟な石油精製体制を構築する可能性があると指摘した。

小山氏は、こうした構造的な課題が、今年後半にかけて日本のエネルギー政策をめぐる議論の中心的な論点の一つになるとの見方を示している。

筆者:ダニエル・マニング(Japan Forward記者)

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