日本は、中東地域の化石燃料へのアクセスにとどまらず、資本や技術、生産を総合的な戦略目標と整合させる新たな中東政策を構築する必要がある。
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高市早苗首相=4月6日午後、国会内(春名中撮影)

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中東は日本にとって不可欠な地域であり、原油の9割以上を供給しているにもかかわらず、戦後の対外政策において中核的な位置を占めてきたとは言い難い。日本は長らく、この地域の長期戦略について米国に依存してきた。

こうした対米依存は、2023年10月7日以降、揺らぎ始めた。親イラン勢力による紅海での攻撃は、約1兆ドル規模の世界貿易に混乱をもたらしただけでなく、日本企業が運航する貨物船「ギャラクシー・リーダー」が拿捕される事態を招き、日本を人質危機に巻き込んだ。

その後数カ月で、日本はより積極的な役割を模索し始めた。同年、主要7カ国(G7)と連携してイランおよびその親イラン勢力への制裁を働きかけるとともに、湾岸諸国との関係多角化や、防衛・技術分野での地域協力の拡大を進めた。

それでも、日本は紅海の航路防衛を目的とした米主導の「プロスペリティ・ガーディアン作戦」への直接参加には踏み込まなかった。ホルムズ海峡の恒常的な封鎖という懸念が現実味を帯びる中、日本は地域の集団防衛への関与に対する従来の慎重姿勢の見直しを迫られている。

日本に求められる最低条件

ワシントンを拠点とする戦略家モハメド・ソリマン氏の新著『西アジア―中東における新たな米国の大戦略(West Asia: A New American Grand Strategy in the Middle East)』は、日本が同地域での自国利益を守るため、税金投入の正当性をいかに説明するかを検討する上で示唆に富む「最低条件」を提示している。

ソリマン氏は「同盟国を軸としたアジア優先戦略は、中東をインド太平洋と欧州という二つの最重要地域を結ぶ重要な中継空間として捉える必要がある。安全保障と経済成長の双方の観点から重要だ」と指摘する。

イランの最高指導者ハメネイ師と会談する安倍普三首相(当時)=2019年6月、ハメネイ師の公式ウェブサイトから

この発想は、安倍晋三元首相が掲げた「二つの海の交わり」の構想と軌を一にするものであり、偶然ではない。同書はこの理念を西方へと拡張し、中東をインド太平洋から地中海へと連なる一体的な海洋圏の一部として再定義している。

その上で、地域秩序の構築に向けた青写真を提示しており、日本の戦略関係者にとっても親和性の高い内容となっている。

インド太平洋重視の陰に

日本が2013年に初めて策定した国家安全保障戦略(NSS)は、中東の重要性を明確に位置付けていた。同地域の安定は「エネルギーの安定供給と不可分であり、日本の存立と繁栄に直結する」と強調している。

さらに、「ペルシャ湾から連なるシーレーンは、中東からの天然資源・エネルギーの海上輸送に依存する日本にとって極めて重要だ」と明記した。これは、中東を起点にインド洋、マラッカ海峡、南シナ海を経て日本に至る長大な海上輸送網の西側の要と位置付けた、最も明確な戦略認識といえる。

一方、2022年のNSSでは重心がより明確にインド太平洋へと移り、中東は独立した戦略領域としてほとんど言及されなくなった。海洋安全保障に関する記述でも、南シナ海における活動が主に強調されている。

海上自衛隊のP3C哨戒機=2020年1月、ジブチ(防衛省提供)

また、紅海の入口に位置するバブ・エル・マンデブ海峡沿いにおける日本の安全保障プレゼンスの要石であり、海外で唯一の常設拠点であるジブチの軍事拠点は、わずかな言及にとどまった。

中東そのものへの言及は一度に限られ、「気候変動による異常気象や国土減少、感染症の世界的拡大、食料・エネルギー不足により、特に大きな被害を受ける脆弱な地域」との文脈にとどまっている。

ソリマン氏は、中東をアジアと欧州を結ぶ不可欠な結節点ではなく、遠隔の独立した地政学的競争の舞台と捉える見方は非歴史的だと指摘する。日本にとっても、この戦略的な曖昧さは看過できない問題である。

オマーンの首都マスカットにある港に停泊する船舶=3月20日(ロイター)

日本の新たな前線

日本に必要なのは、石油や天然ガス、肥料といった資源へのアクセスにとどまらない。地域全体で資本や技術、生産を動かす基盤システムへの接続である。これらへのアクセスは、日本の意思にかかわらず将来を左右する。

こうした変化はすでに進行している。資本や技術、生産の流れは再編され、インド太平洋と地中海をより強固に結びつつある。約5兆ドルの資産を運用する湾岸諸国の政府系ファンドは、アジア全域に大規模な投資を展開している。

また、米IT大手による動きも加速している。アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)、マイクロソフト、グーグルといったハイパースケーラーは、中東をグローバルなシステムに組み込むことを目的としたクラウドやデータ基盤の整備を進めている。これにより、インド、湾岸諸国、欧州をまたぐ港湾や鉄道、エネルギーなどのインフラが相互接続されつつある。

高市早苗首相(右)を表敬するマイクロソフト社のスミス副会長兼社長=4月3日午前、首相官邸(春名中撮影)

さらに、2022年に発足したI2U2(イスラエル、インド、アラブ首長国連邦、米国)や、インド・中東・欧州経済回廊(IMEC)といった枠組みも、単なるインフラ整備を超えた動きとして位置付けられる。新たな地政学的構造の萌芽とみるべきだ。

日本企業もこの変化に既に組み込まれている。域内で活動する1500社超のうち469社が現地拠点を持つ。エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)を通じ、豊田通商や三菱商事、阪和興業といった大手商社が水素やアンモニア事業で現地パートナーと連携し、将来のエネルギーシステム構築において優位な位置を確保しつつある。

また、約1.8兆ドル規模の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は現時点で中東への投資比率は限定的だが、プライベートエクイティなど代替資産への投資拡大に伴い、日本の長期資本が同地域の投資フローに組み込まれていく可能性が高まっている。

求められる西アジア構想

実際のところ、影響力や主導権は単なるアクセスの有無では測れない。エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)や国際協力銀行(JBIC)といった機関による継続的な経済・資源外交を通じ、日本が地域の重要インフラを支える基準やプラットフォーム形成にどこまで関与できるかに左右される。

こうした条件を安定的に満たすには、日本の経済政策と安全保障政策の連動の在り方を大きく転換する必要がある。例えばジブチは、象徴的な軍事拠点にとどまるのではなく、インド太平洋と欧州を結ぶ海上交通路におけるより広範なプレゼンスを支える拠点へと発展させる必要がある。

同様に、IMECのような構想は、日本が新たな回廊の単なる受け手にとどまるのか、それとも構築段階から機能形成に関与するのかを試すものとなる。

日本が強みを持つ分野での協力は比較的容易である。一方で、分断が進む地域において地政学的影響力を維持することは、より困難な課題となる。

求められているのは長期的な構想である。すなわち、資本や技術、生産を総合的な戦略目標と結び付け、化石燃料への依存を超えた「西アジア戦略」の構築である。

最新の国家安全保障戦略は中東の重要性を否定してはいないが、その影響力の拡大を十分に捉え切れているとは言い難い。同書『西アジア』は、何が問われているのかを明確に示しており、必読の一冊といえる。

筆者:エリオット・シルバーバーグ(米中東研究所研究員)

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