富士山の麓でストレスなくゆったりと草を食む乳牛。まるで絵本のような光景だ=5月10日、静岡県富士宮市(鈴木健児撮影)
This post is also available in:
ほんの少し雪をかぶった富士山の麓でゆったりと草を食む乳牛。静岡県富士宮市の朝霧高原にある「なかとみ牧場」には、絵本のような光景が広がっている。その景色がSNSで話題となり、若い世代や外国人観光客でにぎわっている。
「牛ならいける」と一念発起
戦後まもない昭和21年1月。長野県から西富士開拓団の副団長として、この地に入植したのが中島富治(とみじ)さんだった。あたりは溶岩礫(れき)に覆われた荒れ地。国からの支援を受けて、凸凹の土地を平らに造成した。
一帯は水持ちが悪く、農業に適さない土地だったが、アイデアマンだった富治さんは全国への視察を経て「牛ならいける」と一念発起、草の種をまくところから、手探りで牧場を作り上げたという。


現在、富治さんの孫にあたる由美子さん(58)と夫の貴男さん(55)が酪農一本の家族経営を続けている。富士宮市には50軒以上の牧場があるが、放牧を行っているのは数軒のみ。「効率がよいとはいえないが、牛にとってストレスが少ないない環境で、おいしい牛乳にしたい」と貴男さんは話す。

身近に感じる「草を食む音」
牛は朝の搾乳を終えると放牧地へ向かい、寝転んだり、お気に入りの草を食べたりと自由に過ごす。国道139号沿いの電気柵近くには他の牛に踏まれていない「おいしい草」が残っているため、牛たちが目の前まで近寄ってくる。そのため「草を食む音」を身近に感じることができる。
人気が高まる一方で悩みも尽きない。なかとみ牧場は観光施設ではなく、飲食販売もしていない。路上駐車による渋滞、敷地への無断侵入…。牛がゴミを誤飲するリスクもあり、毎日の掃除が欠かせない。さらに昨今の物価高による資材高騰も経営を苦しめている。


風景維持へ「マナー守った見学を」
この風景を維持するには、「1軒でも多くの酪農家がここ朝霧高原で存続し営農して行けること、またここを訪れた人たちのマナーを守った見学にも委ねられている」と貴男さん。
そして由美子さんは言う。
「先祖が切り開いた土地、生まれ育ったこの角度から見た富士山が好き。ずっと守っていきたい」

筆者:鈴木健児(産経新聞写真報道局)
This post is also available in:

