投資家向けのオンライン説明会で発言するパナソニックHDの楠見雄規グループCEO=6月8日
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1万2000人の人員削減など構造改革に区切りをつけたパナソニックホールディングス(HD)が反転攻勢に出る。旗印として前面に押し出したのは創業者、松下幸之助だ。グループ成長戦略には幸之助が真の使命を知ったとの意味で1932年を「命知元年」と呼んだ歴史が根底に流れる。「物と心が共に豊かな理想の社会の実現」という使命を踏襲。命知元年から100年となる2032年に向け、現在の社会課題をエネルギーの有効活用と現場労働力不足の解消と位置づけ、人工知能(AI)インフラと社会オペレーションを支える2つの事業がその解決に役立つと成長の柱にすえた。
成長の2本柱
「命知元年から100年。時代とともに変化する社会課題の解決を通じ、社会と産業の発展を支え、進化を続ける」
5月、グループ成長戦略を発表した同HDの楠見雄規グループ最高経営責任者(CEO)は、こう力を込めた。
成長の柱の一つ、AIインフラを支える事業ではエネルギーの有効活用という社会課題に挑む。
AIの「頭脳(半導体)」が超高速化に伴い発熱と電力消費が激増していることに対応。頭脳周辺に超高密度で実装可能な多層基板材料や、高温下でも性能が落ちない導電性高分子コンデンサーを供給することで電力損失の抑制につなげる。
「心臓(電源)」でも、消費電力がすさまじくアップダウンを繰り返すAIをそのままの電源で賄えばインフラの負荷となるため、バックアップ電池ユニットや独自技術を搭載した機器を通じて、データセンター内の電力効率化と負荷変動の吸収に貢献する。
この分野に今後3年間の累計で約5000億円の戦略投資を計画。電池事業で、米テスラなど電気自動車(EV)向け車載電池の生産ラインをAIデータセンターの蓄電池用に転用。競争力のある製品でAIデータセンター市場の急成長を支え、2028年度の売上高約1兆4000億円、調整後営業利益2900億円を見据える。
もう一つの成長の柱、社会オペレーションを支える事業では、納入して終わりの機器売りが中心だったソリューション領域をサービス価値提供へ重心を移すようビジネスモデルを変革する。
同HDは商業施設や工場、航空、流通などの現場で稼働する機器を多く展開しており、それらをネットワークでつなぐシステムを構築し、保守メンテナンスなどのサービスを手掛ける。
例えば、流通現場に納入したショーケースや冷凍機などを遠隔監視で故障予知や保守メンテナンスを行っている。顧客企業の経営課題に寄り添いながら、現場で稼働する機器のネットワークを通じて「止めない・省エネ・省人化」をサービスで支えることで、現場労働力不足の解消につなげる。
ただ、接続する機器が一定数普及し、それらを活用した故障予知やコンサルティング、運用支援などのサービスが収益化できるように進化するまでには時間がかかる。このため「変革には3年間の準備期間が必要」として29年度からの本格成長を目指す。
250年計画
「命知」とは何か。
きっかけは幸之助がある宗教の本部を見学したことだといわれる。
パナソニックミュージアムによると、喜んで奉仕する信者の姿に心打たれた幸之助は、悩める人々を導く宗教と事業の違いに思いを巡らせた。
そして自分らの仕事は「貧を除き富をつくること」とした上で「あらゆる人間の生活を富み栄えせしめるところの生産、その生産こそわれわれの尊き使命である。人間生活は精神的安定と物資の豊富さによってその幸福が維持される」と考えた。つまり「物心一如の繁栄」(物と心が共に豊かな理想の社会の実現)を真の使命としたのだ。
幸之助は1932年、大阪市北区の中央電気倶楽部に全店員(幹部社員に相当)を集めて、こう宣言した。
「精神的な安定と、物資の無尽蔵な供給とが相まって、はじめて人生の幸福が安定する。ここに実業人の真の使命がある(中略)真の使命は、生産に次ぐ生産により、物資を無尽蔵にして、楽土を建設することである」
このため同HDは32年を命知元年と定める。
幸之助は真の使命の達成のため25年を1節とし、それを10節繰り返す「250年計画」を発表した。一人が社会で働く期間を平均25年くらいとすると10世代続ければいいと考え、「次の世代、そのまた次の世代に、この使命達成の仕事を引き継いでもらいたい」との思いを込めた。
こうした歴史について楠見氏は「物心両面の豊かさの実現を目指す考え方は現代でも決して前時代的ではない」と強調。「理念だけを繰り返しても抽象的になるので、もう少し解像度を上げて何で成長するのかを共有して進む。その一歩がグループ成長戦略だ」と説明する。社会課題は貧乏の克服からアップデート。エネルギーの有効活用と現場労働力不足の解消は、同HDが強みを発揮して解決に貢献できるとした。
「経営の神様」
「創業者が確立した経営基本方針に則(のっと)って経営する会社だ」
報道関係者の合同取材で同HDがどんな会社になるかを問われ、楠見氏はこう答えた。
さらに「創業者が存命だったころは『お客さまの本当のお困りごとを先回りして考えなければならない』という考え方がもっと強かった」と続けた。
幸之助はかつて「(顧客の)番頭になった気持ちで真にお客さまに寄り添い、困りごとや課題の本質、将来を見通して本当に役立つものを具現化するように…」と語ったことで知られる。
「客の好むものを売るな。客のためになるものを売れ」という言葉も残る。これは社会オペレーションを支える事業などに通底する心構えだ。
新たなグループ成長戦略を打ち出した楠見氏にはまず、本業のもうけを示す調整後営業利益を2028年度に7500億円以上(25年度=4474億円)に引き上げる目標が待ち受ける。
同HDは1984年度に営業利益約5700億円と過去最高を計上してから40年以上更新できていない。2026年度は調整後営業利益6000億円を見込み、会計基準が違うため単純比較はできないが、予想通り上回れば長期停滞から脱したともいえる。「経営の神様」の旗印のもと、社員それぞれが戦略の意図と意義を共有して成長に踏み出せるか。真価が問われる。
人員削減「衆知を集めた全員経営」
パナソニックHDは昨年2月、成長が見込めないと判断したテレビやキッチン家電といった課題事業について撤退や売却も視野に入れて構造改革に着手。同5月には国内外で1万人規模の人員削減を表明した。
住宅設備子会社やスペインの自動車部品子会社を売却し、欧米のテレビ販売網の外部委託などのスリム化を進めた。人員削減は想定を2000人上回る1万2000人規模となり、楠見雄規グループCEOは「国内において踏み込み不足はほぼない」と語り、今年度末で課題事業ゼロは確実にやり切ると表明した。
人員について楠見氏は「適正規模だからこそ創意工夫して仕事のやり方を変え、頭を使う。人が余剰の状況では創意工夫しなくても仕事が回り、人は育たない」と強調。昨年、1万人規模の人員削減を発表したとき「人員は少し足りないくらいがちょうどいい」と述べ、波紋を呼んだ言葉の真意を改めて説明した。
一人ひとりの知恵を結集して経営すること、つまり、衆知を集めて経営に生かす姿勢を示したといえる。これは松下幸之助が掲げた「衆知を集めた全員経営」に通じる。
【真の使命における水道哲学】 松下幸之助は真の使命とした貧乏の克服について、水道の水に例えてわかりやすく説明したため「水道哲学」と呼ばれる。水道の栓をひねって水を盗み飲んだとしても、水そのものをとったとして誰もとがめだてはしない。それは価格があまりに安いからで、なぜ安いかというと豊富にあるからだ。ここに産業人の真の使命がある。すべての物資を水のように無尽蔵にし、水道の水のように価格を安くすることで、貧乏は克服できると説いた。
筆者:松岡達郎(産経新聞)
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2026年7月9日産経ニュース【関西経済点描】を転載しています
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