先端半導体の国産化を目指すRapidusプロジェクトは、インド太平洋地域の強靭性と安定性に貢献する取り組みでもある。野原諭・経済産業省商務情報政策局長が解説する。
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高市早苗首相(左から3人目)を表敬するラピダスの小池淳義社長(右端)、東哲郎会長(左から2人目)=6月11日午前、首相官邸(相川直輝撮影)

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先端半導体の国産化を目指すRapidusについて、経済産業省商務情報政策局長の野原諭氏が解説する。全2回。

半導体産業は現代文明の基盤となっています。スマートフォンや自動車から人工知能に至るまで、半導体はほぼあらゆる経済活動および戦略的活動を支えています。しかし、近年世界は厳しい教訓を学びました。生産拠点が限られた地域に過度に依存することは、経済成長と国家安全保障の双方を脅かす脆弱性を生み出すということをです。

このような背景のもと、日本のRapidusプロジェクトは単なる国内産業政策としてではなく、ASEANを含む広範なインド太平洋地域の強靭性と安定性に貢献する取組みとして理解される必要があります。

現在、先端半導体製造は非常に集中しています。台湾は最先端チップの生産において不可欠な役割を担っておりますが、一方で、サプライチェーンは地政学的緊張や自然災害、その他の混乱に対して脆弱なままとなっています。COVID-19パンデミックは、これらのサプライチェーンがいかに脆弱であるかを示しました。工場の稼働停止や物流のボトルネックは、タイやインドネシアの自動車産業からマレーシアやベトナムの電子機器製造業に至るまで、世界中の産業に影響を及ぼしました。

グローバルな技術バリューチェーンの統合が進んでいるASEAN諸国にとって、サプライチェーン強靭化は抽象的な概念ではありません。それは実務的な必要性です。

ここでRapidusの役割が浮かび上がります。

2022年に日本政府と主要な日本の企業の支援を受けて設立されたRapidusは、日本における先端半導体製造能力を確立することを目指しています。その目標は野心的で、2ナノメートル技術を用いた最先端半導体の量産です。一部の観測筋は、競争が激しく技術的障壁が非常に高い分野で日本が成功できるかどうかを疑問視しています。

このような懐疑的な態度をとられる方がいらっしゃることは理解できます。しかし、それは重要な現実を見落としています。

Rapidusの目的は単に新たな半導体企業をつくることではありません。むしろ、グローバルな半導体エコシステムの多様性と強靭性を向上させることにあります。世界が必要としているのは、先端チップの供給源を減らすことではなく、増やすことです。

歴史的に見て、日本は半導体製造において中心的な役割を果たしてきました。現在でも、日本企業は主要材料、製造設備、特殊化学品、生産技術において世界的にリードを維持しています。世界の半導体サプライチェーンの一定程度が、日本に依存しています。

Rapidusは、これらの強みを最先端の半導体製造と再び結びつける試みです。

ラピダスの工場内に新設された試作半導体などの評価を行う解析センター=4月11日、北海道千歳市(福田涼太郎撮影)

ASEAN諸国にとって、この動きは複数の機会をもたらします。

第一に、Rapidusが成功すれば、サプライチェーンの多重化に寄与します。多重化はリスクを低減します。ASEAN諸国は一貫して開かれた、安定した、強靭なサプライチェーンを提唱してきました。日本における追加的な先端製造能力は、まさにこの目標を支えるものです。ASEAN企業は、最先端のロジック半導体を設計し、その製造をラピダスに委託することが可能になります。Rapidusは、ASEAN諸国にとってアクセス可能な半導体製造拠点となります。

第二に、Rapidusは地域全体の技術協力を深化させる可能性があります。ASEAN諸国はすでに半導体組立、試験、パッケージング、電子機器製造サービス(EMS)、部品生産において大きな強みを持っています。先進半導体生産の拡大に伴い、地域協力の機会も拡大することでしょう。

第三に、Rapidusは人的資本の育成を加速させる可能性があります。半導体製造には高度な技術を持つエンジニア、技術者、研究者が不可欠です。日本とASEANの教育パートナーシップ、人材交流、共同研究を進めることで、今後数十年にわたる地域全体の競争力が強化されうるのです。

人工知能の台頭は、この取組みの重要性をさらに高めています。

AIシステムは膨大な計算能力を必要とし、それはますます高度化する半導体に依存しています。ベトナムのスマート製造からシンガポールのデジタル金融、タイのAI主導の医療に至るまで、東南アジア全体の経済の将来の競争力は、信頼性の高い先進的計算基盤へのアクセスに左右されます。

この文脈において、半導体はもはや単なる工業製品ではありません。戦略インフラです。

批判的な意見は、Rapidusに対する巨額の公的投資に焦点を当てることが多いです。この点が議論となるのはもっともなことです。日本政府は説明責任を果たし、納税者による資金を効果的に活用しなければなりません。しかし同時に、ほぼすべての主要な半導体生産国・地域が、先進半導体製造を戦略的優先事項と位置づけていることも認識いただく必要があります。米国、欧州、韓国、中国、台湾、シンガポール、インドはいずれも自国・自地域の半導体能力を支援する政策を講じています。したがって、日本の取組みは、より大きな国際的潮流の中で理解いただく必要があります。

真に問うべきは、政府が半導体エコシステムを支援すべきかどうかではありません。どのようにすれば、イノベーション、競争、国際協力を促進しながら効果的に半導体エコシステムを支援できますか、ということを問うべきです。

半導体産業の未来は、分断やゼロサム競争によって定義されるべきではありません。むしろ、安定、繁栄、技術進歩という共通の利益を持つ国々の間の、信頼に基づくパートナーシップによって特徴づけられるべきです。

日本とASEANは、こうしたパートナーシップの価値を長年にわたり示してきました。経済的結びつきは深く、利害はますます一致しつつあり、インフラ、エネルギー、デジタル技術といった多様な分野で協力は拡大しています。

Rapidusは、これらの関係をさらに強化する新たな機会を提供します。

私は長年にわたり産業政策に携わり、日本の優れた技術力と産業競争力がもたらした輝かしい成果と、その競争力が失われていく苦い現実の両方を見てきました。日本の半導体産業の衰退は、単に一つの産業が縮小したという出来事ではありません。それは、世代を超えてイノベーションや経済的繁栄、そして技術的リーダーシップを支えてきた力が徐々に失われていく過程でもありました。

Rapidusは、過去を取り戻すための挑戦ではなく、未来を築くための挑戦です。その成功は、民主主義国が今なお大胆な国家プロジェクトを長期にわたって実行し、官民の力を結集して、一国のみならず地域全体に恩恵をもたらす技術革新を生み出せることを示すことになります。

私の願いは、Rapidusが単なる半導体メーカーを超える存在となることです。日本とASEAN、そして志を同じくするパートナー諸国との協力をさらに深め、イノベーションを促進し、新しい技術者を育成し、より強靱なインド太平洋地域を実現する触媒となることを期待しています。

誰もその成功を保証はできません。しかし、時代を変えるような偉業が、困難な目標へ挑戦する勇気から始まることは、歴史が繰り返し証明しています。私は、Rapidusにはその挑戦の機会が与えられるべきだと信じています。それは日本のためだけではありません。より強靱で多様性に富んだ世界の半導体エコシステムは、安定、イノベーション、そして平和的な経済協力を重視するすべての国々に利益をもたらすと確信しているからです。

成功すれば、Rapidusは単に日本の半導体製造の最前線への回帰を意味するわけではありません。それはまた、より強靱で多様性があり、協調的なインド太平洋地域の技術エコシステムの象徴となるでしょう。ラピダスは最先端半導体の分野で日本とASEANをつなぐ鍵となる重要なパートナーシップとなるでしょう。

急速にデジタル化が進む世界の中で持続的成長を目指すASEAN諸国にとって、Rapidusはサポートするに値する取り組みです。

著者:野原諭(経済産業省商務情報政策局長)

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