ラピダスの次世代半導体製造工場「IIM-1」=北海道千歳市(坂本隆浩撮影)
This post is also available in:
先端半導体の国産化を目指すRapidusについて、経済産業省商務情報政策局長の野原諭氏が解説する。全2回。
◇
1980年代、日本は半導体の卓越性とほぼ同義の存在でした。かつて日本企業は世界のメモリ市場を席巻し、先端材料を開拓し、世界中の半導体メーカーに不可欠な製造設備を供給していました。その後、半導体製造の重心は他地域に移ったものの、日本は技術的な基盤を失うことはありませんでした。
現在、日本は半導体製造の最先端に強い決意のもと回帰しようとしています。この取り組みの中心にはRapidusというプロジェクトがあり、これは単なる新会社ではなく、技術革新、サプライチェーンの強靭化、そして国際的パートナーシップへの国家的なコミットメントを象徴しています。
Rapidusは2022年に、トヨタ、ソニー、NTT、ソフトバンク、NEC、デンソー、キオクシア、三菱UFJ銀行など日本を代表する8社の支援を受けて設立されました。 その根底には一つの現実認識があります。すなわち、半導体はAIとデジタル時代の戦略的インフラとなったということです。
人工知能、自動運転車、AI、ロボティクス、次世代通信―これらすべてが、より高度な半導体に依存しています。先進半導体の需要が爆発的に増加する中、世界はより多様で強靭かつ信頼できるサプライチェーンを必要としています。
ここでRapidusの出番となるのです。
従来のような成熟した技術分野で競争する半導体プロジェクトとは異なり、Rapidusは大胆な目標を掲げ設立されました。すなわち、日本で2ナノメートル世代のロジック半導体を製造し、先進的なチップレットソリューションを提供し 、最先端半導体を求める顧客にとって重要なパートナーとなることです。
同社の戦略は三つの柱に基づいています。
まず、Rapidusは日本の比類なき産業エコシステムの恩恵を受けている点です。日本は半導体材料、製造装置、精密機械、化学製品、先進部品の分野で依然として世界的なリーダーです。世界の半導体生産の一定割合は依然として日本のサプライヤーに依存しています。Rapidusは、この国内エコシステムとの緊密な協力から恩恵を受ける独自の立場にあるのです。
第二に、Rapidusは国際協力を通じて技術開発を進めている点です。IBMとの戦略的パートナーシップにより、先進的なプロセス技術へのアクセスを確保しています。さらに、欧州の研究機関やシンガポールのA*STAR(科学技術研究庁)とも連携しており、グローバルな研究開発ネットワークを構築しています。すべてを独自に再開発しようとするのではなく、Rapidusは世界の主要なパートナーやイノベーターとの協力に基づく実用的なアプローチを採用しているのです。
第三に、RapidusはAI時代に適した製造モデルの構築を目指している点です。将来の顧客は、迅速なプロトタイピング、短い開発サイクル、そして半導体設計者とメーカー間の緊密な協力をますます求めるようになるでしょう。Rapidusは、既存のサプライヤーでは十分に満たしていないこれらの顧客ニーズに応えるため、よりアジャイルなアプローチを提供することを目指しています。
これまでの進展は目覚ましいものがあります。
北海道千歳市では、同社の製造施設であるInnovative Integration for Manufacturing(IIM)の建設が進められています。この場所は、安定したインフラ、豊富な水資源、地域社会の支援、そして戦略的な立地という観点から選定されました。
装置の導入は着実に進み、エンジニアリングチームの編成も進められており、日本国内外からの人材採用も継続しています。量産に先立ちパイロット生産が開始されており、2020年代中に高度な製造能力を確立する道筋が描かれています。
懐疑的な見方をする人々は、しばしば、日本が本当に半導体の最前線に復帰できるのかと問います。
しかし、より良い問いは、なぜ日本がそうできないのか、と自らに問うことです。
日本は世界水準の工学人材、政治的安定性、強固な知的財産保護、信頼できるエネルギーインフラ、そして高度製造における深い専門知識を有しています。さらに、日本は民主主義国家のパートナーから信頼を得ています。
各国政府や企業がより大きなサプライチェーンの多様化を求める今、これらの強みはますます価値を高めています。
世界の半導体産業は新たな局面に入りました。もはや単に効率を最大化することだけが目的ではない。レジリエンス、セキュリティー、信頼性、地政学的安定性も同様に重要になっているのです。
Rapidusは、これらすべての優先事項に応える存在なのです。
成長著しいASEAN(東南アジア諸国連合)の顧客にとって、Rapidusは地理的にも近く、地域の経済成長と戦略的に連携した信頼できる半導体エコシステムに参加する機会を提供します。東南アジアは電子機器製造、データセンター、AI導入の拠点として急速に発展しており、日本での先進半導体生産へのアクセスは、この地域のバリューチェーンを強化し得るのです。Rapidusはあらゆる顧客に開かれたファウンドリーとして、ASEAN企業が信頼できる製造パートナーと協力する機会を提供します。
欧州の顧客にとって、Rapidusは開かれた市場と技術協力を重視する志を同じくするパートナーのネットワークの中で、先端半導体の新たな供給源となります。
北米の顧客にとって、Rapidusは既存の製造能力を補完し、より広範で強靭なグローバルサプライチェーンの構築に貢献します。
最も重要なのは、Rapidusは、単独路線ではなく、そのビジョンは最初から国際的な連携を前提としていることです。
同社は世界中の半導体設計者、AI企業、自動車メーカー、通信会社、新興技術のイノベーターとのパートナーシップを求めています。その成功は日本の力だけでなく、国際的な協力にもかかっているのです。
現在の 半導体競争は単なる国家間の競争ではありません。これは将来の繁栄のための技術的基盤を築くための共同の努力なのです。
Rapidusは、その未来に貢献しようとする日本の決意を体現しているのです。
Rapidusの物語は、過去の栄光を取り戻すことではありません。それは新しい機会を生み出すことです。日本の産業力、国際的なパートナーシップ、技術的な野心を結集し、次世代の半導体製造を築くことを目指しているのです。
信頼できるパートナー、先進技術、長期的な安定性を求める企業にとって、Rapidusは世界の半導体市場で最も有望な新たな機会の一つなのです。
日本は、最前線へ回帰します。単独ではなく、世界中のパートナーと共に。
著者:野原諭(経済産業省商務情報政策局長)
関連記事:
This post is also available in:

