日本のレアアース問題は、経済全体に潜む供給網リスクの氷山の一角にすぎない―。早稲田大学の戸堂康之教授が警鐘を鳴らす。
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中国山東省青島市の港から出港するコンテナ船=4月(新華社=共同)

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中国によるレアアース輸出規制は、日本が15年以上前に直面した問題を改めて突き付けている。特定の一国への依存は、どこまで許容されるのか――という問題である。

2025年後半以降、中国はジスプロシウムやテルビウム、酸化イットリウム、ガリウムなどの重希土類や関連素材について、事実上、日本向け供給を遮断した。今回の混乱は台湾情勢を巡る外交的緊張と時期を同じくしており、中国漁船衝突事件を契機に発生した2010年の「レアアース・ショック」を想起させる。

対象となった素材は数量こそ限られるが、戦略的重要性は極めて大きい。高性能磁石や電子機器、防衛装備品、電気自動車(EV)、半導体関連製品などに不可欠だからである。中国は完成品であるレアアース磁石の輸出自体は継続しているものの、今回の規制は、供給網の重要な「ボトルネック」をなお中国が握っている現実を日本に改めて突き付けた。

進まぬ「脱中国依存」

早稲田大政治経済学術院教授で、経済産業研究所(RIETI)プログラムディレクターを務める戸堂康之氏は、Japan Forwardの取材に対し、「2010年以降、日本のサプライチェーン多角化は進展した分野もあれば、そうでない分野もある」と指摘した。

戸堂氏が国連貿易統計のデータを基に分析したところ、中国製部品が日本の輸入部品全体に占める割合は、尖閣問題に端を発したレアアース・ショック後の2011年前後から低下傾向を示している。しかし、その比率は依然として25%を上回る。一方、米国は中国製部品の輸入比率を約20%から10%未満へと引き下げた。

分野別に見ると、状況はさらに深刻だ。中国は現在も日本の自動車部品輸入のほぼ半分を占めており、戸堂氏は「コロナ禍以前と比べても高水準だ」と語る。電機・電子製品分野でも、中国依存の構図はほぼ変わっていない。

レアアースについては、一見すると改善が進んだようにも見える。「一時は中国依存が8~9割に達していたが、最近では4割程度まで低下した」と戸堂氏は説明する。ベトナムの比率は上昇しており、月次データでは中国を上回るケースもあるという。

もっとも、戸堂氏はそれを「安全圏」と受け止めるべきではないと警告する。「4~5割という依存度が低いかといえば、依然として高水準だ」と述べた。さらに、広範な統計分類の陰には、より深刻な脆弱性が隠れている可能性もある。特定のレアアース素材では、なお中国依存が事実上100%近いケースもあり得るという。

なお残る脆弱性

もっとも、日本は2010年当時と同じ状況にあるわけではない。戸堂氏はレアアース分野について、「サプライチェーンの多角化も技術開発も進展してきた」と説明する。企業側では調達先の分散が進み、レアアースへの依存度を抑えた磁石やモーターの開発も進んだ。「レアアース問題に関して、日本は比較的うまく対応してきた」と評価した。

だが、「比較的うまく」ということは、安全が確保されたことを意味しない。電動化や先端製造業の拡大を背景に、この10年でレアアース需要は本来、大幅に増加していても不思議ではなかった。戸堂氏によれば、日本の輸入量が急増しなかったのは、代替技術の進展が一定の効果を上げたためだという。それでも、中国が強固な輸出規制に踏み切れば、日本経済が現実的な打撃を受けるのは避けられない。

しかも、こうしたリスクはもはや例外的なものではない。かつて企業は、安全保障や保護主義を背景とする供給網の混乱を「特殊事例」とみなす傾向があった。しかし、その前提は崩れつつある。

戸堂氏は「こうした混乱は今後ますます頻発する」と指摘し、「企業はサプライチェーン・リスクが新たな段階に入ったことを認識する必要がある」と語った。

また、既に顕在化しているリスクだけに備える姿勢にも警鐘を鳴らす。

「これまではレアアースや半導体ばかりに注目が集まっていた。しかし今では、石油が入ってこない、ナフサが不足するといった問題も現実化している」と述べた。

中東情勢の不安定化は、エネルギーや化学原料への依存の脆弱性を浮き彫りにした。さらにコロナ禍では、マスクや医療物資ですら瞬く間に戦略物資へと変わり得ることが示された。戸堂氏は、日本が次の危機で新たな「隠れた依存」を露呈させる前に、重要物資全体を俯瞰した見直しを進める必要があると強調している。

依存度縮小でリスク低減

「中国と完全に切り離されることは現実的ではない」、戸堂氏はそう言い切る。「経済的損失があまりにも大きい」からだ。

その代替策として同氏が挙げるのが、「デリスキング(リスク低減)」の考え方である。中国との経済関係は維持しつつも、戦略分野における危険な水準の依存を引き下げるべきだという。依存度が5割、8割という状態を放置すれば、将来的な危機の際、一気により深刻な打撃を招きかねない。

「今のうちに依存度をある程度縮小しておく方がよい。そうすれば、大規模な損失が一度に発生する事態を避けられる」と戸堂氏は語る。

もっとも、それは全てを国内回帰させることを意味しない。生産拠点の国内回帰(リショアリング)は一部で有効だが、「国内生産を過度に進めれば、経済効率を大きく損なう危険がある」と警告する。

「フレンドショアリング(友好国との供給網構築)」にも限界はある。米国は依然として不可欠な存在だが、近年は対米依存にも政治的リスクが伴うことが明らかになった。欧州もまた独自の脆弱性を抱えている。

それだけに、「どの国を『友好国』とみなすのか」という問題は、単純ではない。戸堂氏は「何をもって友好国と定義するのかが問われる」と指摘する。

資源豊富なグローバルサウス諸国の多くは、中国と密接な関係を維持している。このため日本には、外交や貿易、投資、政府開発援助(ODA)などを通じて、これらの国々との関係を強化し、より信頼できる経済パートナーへ育てていく取り組みが求められる。

日本政府は現在、南米南部共同市場(メルコスール)との通商交渉開始に向けた準備を進めている。狙いの一つは、石油や重要鉱物の調達先を多角化し、レアアースを巡る対中依存を低減することにある。

政府に求められる役割

戸堂氏は、政府に最も求められる役割は、企業活動を逐一指図することではないと強調する。重要なのは「情報提供」である。

とりわけ中小企業は、海外市場や規制、法制度、供給業者、政治リスクに関する詳細な知見を十分に持たないケースが少なくない。経済安全保障がサプライチェーン戦略の一部となる中、その問題は一段と深刻化している。

特にリスク情報は、企業単独では把握が難しい。ある国が中国とどの程度政治的に近いのか、経済的威圧にどれほど脆弱なのか、あるいは将来的に不安定化する可能性があるのか――。こうした判断を企業だけで行うのは容易ではない。

戸堂氏は「政府は海外のリスク情報を収集し、それを適切に民間へ提供する支援を行う必要がある」と説明する。

企業側は、その情報を自社のリスク管理に組み込まなければならない。戸堂氏は、企業が内向きになるべきではなく、利益と安全保障の双方を見極めながら、積極的に調達先や事業基盤の多角化を進めるべきだと指摘した。

国際的な枠組みも重要性を増している。日米豪印4カ国の「クアッド」や韓国、メルコスール、経済協力開発機構(OECD)などとの連携は、資源不足が起きた際に直ちに石油や鉱物、部品を供給してくれる「万能薬」ではない。

それでも戸堂氏は、「何も枠組みが存在しない状況よりは、はるかに望ましい」と語る。供給不足時に他国を支援した国は、自国が危機に直面した際、逆に支援を受けられる可能性が高まるからだ。

「そうした長期的な信頼関係こそ、今後ますます重要になる」と戸堂氏は強調している。

10年先を見据えた戦略

今後10年を見据え、日本はいかなるサプライチェーン戦略を取るべきか。そう問われた戸堂氏は、具体的な数値目標を挙げた。

現在、日本の輸入部品に占める中国依存度は約25%に達している。「これを15%程度まで引き下げるべきだ」と戸堂氏は語る。レアアースについても、中国依存を1~2割程度まで低減することが目標になるという。

その実現には、単なる緊急備蓄だけでは不十分だ。戸堂氏は、グローバルサウス諸国との新たな供給網構築や、資源国との経済関係強化、継続的な外交努力が必要だと指摘する。

同時に、米国との結び付きは依然として極めて重要であり、欧州についても、より深く自由貿易の枠組みに取り込むべきだと強調した。

「もし欧州連合(EU)がCPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定)に参加すれば、それは巨大な自由貿易圏の形成につながる」と戸堂氏は語った。

筆者:ダニエル・マニング(JAPAN Forward記者)

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