ノートルダム清心中学校で行われた学生団体「Vcan」のHPVについての出前授業=広島市(Vcan提供)
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子宮頸(けい)がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)の感染を防ぐワクチン接種の啓発が急務となっている。「ワクチンと検診で防げる唯一のがん」とされる子宮頸がんについて世界保健機関(WHO)はワクチンによる撲滅を掲げるが、日本では十分に広まっていない。接種後の強い副反応が疑われ、接種の勧奨を控えた過去があるからだ。専門家らによると、近年接種率は上がってきてはいるが、副反応への懸念も根強く、正しい理解や情報発信の必要性が増している。
後悔してほしくない
「子宮頸がんは、予防できるがんです」
ノートルダム清心中学校(広島市)で3月に行われた学生団体「Vcan」によるHPVワクチンの出前授業。がんやワクチンの効果、副反応などの説明に3年生が耳を傾け、「打つかどうか、親と話し合いたい」といった声があがった。
同団体は、当時滋賀医科大1年だった医師の中島花音さん(24)らが令和3年に設立。HPVワクチンに関する正しい知識を広めようと全国の学校で出前授業を行っている。中島さん自身、中高生の頃はHPVワクチンについて詳しく知らなかった。「がんになって後悔する人をなくしたい」と語る。

積極接種中止、空白に
実際日本は海外と比べてもHPVワクチン接種で後れを取っている。
厚生労働省によると、カナダと豪州などでは、接種率が8割を超えるが、日本では接種経験のある高校1年生の割合は令和6年度で54・9%にとどまった。
低迷の背景には、HPVワクチンをめぐる9年間の空白期間がある。平成25年4月、小学6年~高校1年相当の女子を対象に予防接種法に基づく定期接種に位置付けられたが、全身の痛みなどを訴える声が相次ぎ、国はわずか2カ月後に積極的勧奨(予診票送付)を中止。接種率は1%未満となった。
疫学調査で安全性を確認し、勧奨を再開したのは令和4年4月。この間の定期接種を逃した女性への救済措置として、無料で受けられる「キャッチアップ接種」は当初の予定より1年延長され、今年3月末まで実施された。
正しい情報の発信を
ただ、キャッチアップ接種により接種率は向上したものの「副反応のネガティブな印象は今も根強い」と中島さんは話す。HPVワクチンに詳しい和歌山県立医科大の上田豊教授(予防医学)は「今後も自治体、医師会、学校などが、さまざまな手段で正しい情報の発信を続ける必要がある」と訴える。
宮崎市は産婦人科医による出前授業の他、テレビCMの放送や徹底した個別通知などを実施。接種経験のある高校1年生の割合は、昨年12月末時点で7割に迫る。清山知憲市長は「自治体が力を入れることで変わる」と力を込める。
今後は男子への接種の普及も課題だ。上田教授によると、HPVワクチンは子宮頸がんだけでなく中咽頭がんなども予防できるが、こうした効果への認知度は低い。日本では男子は任意接種のため、1回数万円の費用がかかる。宮崎市をはじめ、男子への接種を独自に助成する自治体も増えているが、上田教授は「接種を進めるには定期接種に移行すべきだ」と話している。
筆者:藤井沙織(産経新聞)
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■ヒトパピローマウイルス(HPV) ワクチンと子宮頸がん子宮頸がんや中咽頭がん、肛門がん、尖圭コンジローマなどの原因となるウイルスの感染を防ぐ。感染経路である性交渉の経験前に2~3回ワクチンを接種するのが最も効果的。現在利用できる9価ワクチンなら原因ウイルスの8~9割の感染を防げるとされる。日本で子宮頸がんと診断される患者は年に約1万人で、約3千人が死亡。発症のピークは20~40歳代で、約千人が30代までに子宮を摘出。ごく初期であれば一部を切除する手術を行うが、早産や流産のリスクが高まる。
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