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「台湾有事」は日本の有事である

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日米共同声明に半世紀ぶり

 

4月16日、菅義偉首相は、バイデン新米大統領がホワイトハウスに迎え入れた最初の首脳となった。日米共同声明では、「台湾海峡の平和と安定」「両岸問題の平和的解決」という文字が躍った。半世紀ぶりのことである。

 

1969年11月21日、ワシントンを訪問した佐藤栄作首相は、日米共同声明で台湾地域の平和と安全が日本の安全にとって極めて重要と述べた。当時、中華民国(台湾)は米国の同盟国であった。戦後日本は、大日本帝国から分離された朝鮮半島南部と台湾島の防衛を米国に委ね、周辺地域が力の真空となることを防いだ。それが吉田茂首相が生み、岸信介首相が改定した日米同盟による地域安全保障の構想であった。佐藤首相の台湾への言及は当然であった。

 

その後、70年代に入ると、米中及び日中国交正常化が実現し、台湾は、日米同盟のレーダーから消えた。ウスリー川のダマンスキー島でソ連と軍事衝突したばかりの中国は、西側に転がり込んで日米の戦略的パートナーとなった。当時の中国には台湾問題よりもソ連の方が差し迫った脅威であった。

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台湾問題が急浮上するのは、90年代、李登輝総統が台湾の民主化に踏み切り、「私は台湾人である」と連呼して初めての総統直接選挙に臨んだときである。台湾に芽生え始めた新しいアイデンティティーに北京は敏感に反応した。中国は演習と称して台湾沖に多数のミサイルを撃ちこんだ。米国は空母機動部隊の派遣をもってこれに応えた。未(いま)だ国力の小さかった中国は、鉛の塊のような深い屈辱を呑(の)み込んで引き下がった。

 

 

厳しい戦略的現実がある

 

あれから20年以上がたつ。今や、中国の経済規模は米国の4分の3に迫った。2030年までには米国を抜くであろう。中国の軍事費は未だ米国の4分の1だが、2桁で伸びており、早晩、米国に追いつくであろう。

 

そもそも台湾は、国共内戦の怨敵、蒋介石の逃げ込んだ島であり日清戦争の後に日本に奪われた島である。大清帝国の版図復活をナショナリズムの核に据えた中国共産党にとって、たとえ武力をもってしてでも奪回せねばならない島である。蔡英文総統は、バランスの取れた外交で現状維持を目指しているが、中国は、容赦しないであろう。共産党独裁の中国が台湾住民の自由意思を尊重することはない。毛沢東と並ぶレガシーを求める習近平国家主席には台湾進攻の意図も能力もある。問題はタイミングだけである。

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菅首相とバイデン大統領の共同声明に、台湾海峡の平和と安定という文字が躍るのは、この厳しい戦略的現実があるからである。

 

台湾有事は日本の有事である。台湾は与那国島からわずか100キロ余りの島だ。晴れた日には水平線の向こうに巨大な台湾島が姿を見せる。時速数千キロの戦闘機が飛び回る現代戦の戦域は広い。先島諸島は物理的に巻き込まれる。台湾有事が起きれば、中国は台湾の一部と主張する尖閣の奪取に動くであろう。麗しい先島諸島も無力化され得る。航空、海上優勢が失われれば、中国兵による保障占領もあり得ないことではない。陸上自衛隊が近年、与那国島、宮古島、石垣島に基地を開いているのは、二度と沖縄に戦火を被らせないという決死の覚悟の表れである。

 

令和の厳しい戦略的現実を前に、自由で開かれたインド太平洋構想は日米で共有され、クアッド首脳会合(オンライン)、日米「2+2」会合、そして、日米首脳会談と立て続けに重要な会談が開かれた。日米同盟強化に向けた外交の滑り出しは順調だ。日米外交当局の努力の賜物(たまもの)である。

 

 

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令和の安全保障政策構築を

だがこれからは、その肉付けが問われる。米国と肩を並べた中国を、国内の分裂に苦しむ米国が本当に抑止できるのか。北東アジアにNATO(北大西洋条約機構)はない。韓国の文在寅左翼政権は、台湾に背を向けるであろう。豪州は南半球だ。頼みの米陸軍第一軍も米海兵隊第一遠征軍も1万キロ離れた太平洋の彼方(かなた)である。しかも、中国は、第一列島線の内側に絶対に米軍を入れまいとするA2AD構想の実現に余念がない。極超音速対艦中距離ミサイルも登場してきた。不安材料は多い。

 

北東アジアで米国が頼れるのは同盟国の日本だけである。日米同盟が中心となって北東アジアに台湾有事阻止のための万全の抑止力を組み上げなければならない。米軍来援前に短期間で台湾を陥とせると中国軍が過信すれば、台湾有事は勃発し得る。日本の責任は重いが、それは台湾防衛のためだけではない。先島をはじめとする日本の防衛のためでもある。

 

南西諸島を睨(にら)んだ防衛力の増強、防衛予算の抜本的拡充、切っても切れない対中経済関係を前提とした経済安全保障政策の立案など、平成とは非連続な令和の安全保障政策が必要だ。為(な)さねばならないことは目白押(めじろお)しである。今、日本は、その入り口に立っている。しかも、時間はあまり残されていない。(かねはら のぶかつ)

 

筆者:兼原信克(元内閣官房副長官補同志社大特別客員教授)

 

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2021年4月21日付産経新聞【正論】を転載しています

 

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