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「国際金融センター」香港、米中新冷戦の主戦場に

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ポンペオ米国務長官は7月23日の中国に関する演説の中で、中国との対立を「自由主義対全体主義」だと宣言した。体制間衝突はかつての米ソ冷戦を彷彿(ほうふつ)させるが、旧ソ連は国際金融で無力だった。中国には国際金融センター香港がある。

 

旧ソ連、中国のいずれも基軸通貨ドルに依存する。その致命的弱点を克服しないと、米国に負ける。

 

旧ソ連の場合、国家収入の大半は石油と天然ガスの輸出による。エネルギー価格はドル建てで、米金融政策によって左右される。1970年代末の第2次石油危機後、高インフレ下の不況に悩まされた米国のレーガン政権は、高金利政策によって石油価格を暴落させた。窮したゴルバチョフ共産党書記長は経済の自由化を打ち出したのもむなしく、89年ベルリンの壁崩壊、91年ソ連解体に追い込まれた。

 

中国の場合、市場経済制度を導入し、2001年には世界貿易機関(WTO)に加盟し、「世界の工場」としての地位を築いた。08年9月のリーマン・ショック後には豊富な外貨準備を背景に財政金融両面から景気をてこ入れし、2桁台の経済成長軌道に世界でいち早く回帰した。米国の息子ブッシュ、オバマ政権とも中国市場の拡大に幻惑されて、中国の対米貿易黒字拡大をなすがままにした。中国の対米黒字増加は経済のみならず急速な軍拡を支え、習近平政権の拡大中華経済圏構想「一帯一路」やスプラトリー(中国名・南沙)諸島の占拠・埋め立てなど対外膨張策を可能にした。

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■ □ ■

 

トランプ米政権はそれまでの歴代政権の融和策を廃棄し、米中貿易戦争を仕掛けてドルの提供を制限し始めた。それに対し、習政権が徹底抗戦の拠点と確保したのが、ドルが集まる国際金融センター香港である。もとより、香港はドル不足に悩む習政権の最後のよりどころである。

 

 

グラフは、中国の外貨準備(外準)、対外負債と香港株式市場での中国企業時価総額シェアの推移である。主にドルで構成される外準は、中国人民銀行による人民元資金発行の裏付け資産なのだが、外準は15年以来、3兆ドルの水準を辛うじて維持している。外準の主力源だった対米貿易黒字は大幅削減に追い込まれる一方で、対外負債は限界に来ているし、いくら増やしても香港経由で巨額の資本逃避が続く。人民元の国際取引の7割以上を占める香港は、中国への資本流入口であると同時に流出先でもある。習政権は、目障りな香港の民主化運動の制圧と並んで、資本逃避ルートを監視、封鎖する一石二鳥を狙っているのだろう。6月末に習政権が強行施行した香港国家安全維持法(国安法)は香港を衰退させる、とは西側の一般的な見方だが、どっこい習政権は周到に工作してきた。香港市場は、前にも増して「もうかる」と言いはやし、西側資本をつなぎとめるのだ。

 

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Candlelight protest against China's authoritarian breach of the Hong Kong Basic Law.

 

米ウォールストリート・ジャーナル紙(7月24日付)によると、習政権が国安法を準備し始めたのは、香港では民主化要求デモが燃え上がっていた昨年夏である。習政権が国安法制定準備と同時並行して仕掛けたのが香港株式市場の中国化である。

 

香港市場に上場する中国企業は昨年6月で1197社、時価総額シェアは68%だったが、10月から上場数、時価総額シェアとも急増し始め、今年7月には1285社、79%となり紅(あか)く染まった。上海、深セン(しんせん)の証券市場と香港市場の間では人民元建てで株式の売買が相互取引できる「ストックコネクト」という仕組みがあり、7月からは中国化された香港市場に殺到し、香港株価が急上昇する。うたい文句は高成長が期待される中国からの新規上場企業で魅力いっぱいの香港市場である。香港に拠点を持つ英国の大手金融

 

資本、HSBCは国安法支持を表明し、モルガン・スタンレーなど米ウォール街の金融大手は中国企業新規上場の幹事引き受けや中国企業株売買仲介に血眼だ。

 

ワシントンは7月に香港自治法を制定し、香港の高度な自治や表現、政治の自由を抑圧する政府要人と、協力する金融機関に対して資産凍結やドル融通の禁止などの金融制裁を加える態勢を整え、発動し始めた。昨年秋には、香港人権民主法と合わせて、「1992年香港政策法」を修正済みで、香港ドルと米ドルの交換を禁じることも辞さない。習政権は国際金融界の要の米英の大手金融資本さえひきつけておけば、米国は限定的、小出しの金融制裁しか打ち出せないだろうと踏んでいるに違いない。それに対し、ワシントンが金融制裁をエスカレートさせるかどうか、米中新冷戦の主戦場、香港から目を離せない。

 

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筆者:田村秀男(産経新聞編集委員)

 

 

2020年8月15日付産経新聞【田村秀男の経済正解】を転載しています

 

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