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【めぐみへの手紙】放置、不作為、無関心…「国家の恥」残せない

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めぐみちゃん、こんにちは。厳しい夏を何とか生き抜き、涼やかに、高く澄み渡るようになった空を見上げると、秋の気配を感じます。世界を覆う新型コロナウイルスの災厄の中、人と人とのつながりの大切さを改めて思います。10月5日、あなたは57歳の誕生日を迎えますね。13歳だった女の子が、どんな姿になっているのか、もう想像さえできません。お母さんも85歳のおばあちゃんになってしまいました。時は刻々と過ぎ、それでも必ず生きて抱き合えると念じて、祈り、命の炎を燃やしています。

 

この季節になると頭をよぎるのは、北朝鮮から羽田空港に到着した飛行機のタラップを下り、祖国の土を踏みしめた拉致被害者5人の姿です。

 

平成14年10月15日。蓮池薫さん、祐木子さん夫妻。地村保志さん、富貴恵さん夫妻。そして曽我ひとみさん。めぐみちゃんと同じように北朝鮮に拉致された5人が、私たちのもとに帰ってきてくれました。

 

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救出運動では、めぐみちゃんたちとともに、被害者の顔写真も掲げました。「助けてください」。街頭で叫び続けました。写真で幸せそうな笑みを浮かべていた若者たちは年を重ね、やせて、疲れ切っていました。それでも、帰ってきてくれて本当にうれしかった。

 

「5人が降りた機体から、あなたも笑って飛び出してくるのではないか」

 

お父さんとお母さん。そして、あなたが通った新潟小学校の馬場吉衛校長先生と一緒に、ずっと、タラップを見つめていました。でも、あなたは現れず、それから19年間、時は止まったままです。

 

拉致被害者も、その家族も老い、病を抱え、残された時間は本当に僅かです。

 

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拉致事件が起きて40年以上が過ぎゆく中、非道で残酷な事実は風化し、解決が遠のいていく不安を常に感じていました。放置、無関心、不作為-。これほど大事な問題がなぜ、拾い上げられないのか。理由をさまざま考えましたが、最後は日本が国家として全身全霊をそそぎ、子供たちを取り戻すしかないのです。

 

このままでは、日本は「国家の恥」をそそげないまま、禍根を次の世代に残してしまいます。私たち親の世代は絶対に、この国家犯罪に決着をつけなければなりません。すべての子供たちが祖国の土を踏む姿を見届ける人生でありたいと、切望しています。

 

普通の庶民であるわれわれは、声を上げて訴えることはできても、直接、被害者を取り戻す力はありません。今こそ優れた政治家、官僚の皆さんに力を発揮していただきたい。何よりも困難な局面にある今、国民の皆さまの一層の後押しがなければ、事は前に進みません。ふとした日常に被害者を思い、思いを声にして伝えていただきたい。心の底からそう願っています。

 

平成14年9月17日、史上初めての日朝首脳会談で、北朝鮮は拉致を認めて謝罪しましたが、何の証拠もなく、めぐみちゃんたちは「死亡した」と伝えてきました。9年に家族会を結成し、手を携え闘ってきた私たちにとって残酷な、押しつぶされるような瞬間でした。

 

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日本は今、国を牽引(けんいん)する新しい政治のリーダーが決まろうとしています。被害者と私たち家族が生きて、元気なうちに抱き合えるのか。リーダーは覚悟を持ち局面を切り開いていただけるのか。不安と焦りにさいなまれながら、「今度こそ」という期待をつなげます。

 

今こそ、拉致事件を振り返り、いかにすれば解決するかを考えてください。

 

北朝鮮は一筋縄ではいかない、手ごわい相手であることは重々、承知しています。でも最後は、最高指導者に被害者全員を返す決断を求め、それこそが世界の平和を導く術だと、心の底から理解してもらわなければなりません。

 

私たちはこれまで、日本の首相が代わるたび顔を合わせ、即時解決への訴えを重ねてきました。お父さんも家族会代表として救出運動の最前線に立ち、全国を飛び回りました。体を病み入院しても、あなたと抱き合うため、病床で必死に命の炎を燃やしました。再会の思いを果たせず、天に召されたお父さん、多くの被害者家族、そして支援者の皆さん。託された奪還の願いを実現するまで、お母さんたちは倒れるわけにはいきません。

 

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日本では近く、大切な選挙が行われます。政治家の皆さま。遠く離れた異国の暗闇で、救いを待つ子供たちを思ってください。命の問題である拉致事件を、党派を問わず真心から議論してください。知恵を絞り、一日も早く、解決への歩みを進めてください。

 

新たなリーダーには、残された時間の少なさを直視し、具体的な動きにつなげていただくことを願ってやみません。拉致問題はまさに、「正念場」です。国民の皆さまもどうか拉致事件を己のこととして感じ、それに向き合う政治のありようを凝視し、解決を後押ししてください。

 

19年前の9月17日。無事を信じて、自宅に置いためぐみちゃんの写真に「早く帰っておいで」と声をかけました。思いはかなわず、想像を絶する長い闘いになってしまいましたが、タラップから下りてくるあなたと、笑顔で抱擁できる日が必ずやってきます。

 

めぐみちゃん、あともう少し、待っていてね。お母さんは最後の力をふり絞って、闘いを続けます。

 

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(横田早紀江)

 

 

2021年10月2日付産経新聞【めぐみへの手紙】を転載しています

 

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