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五輪開催の懸念はどこへ消えた

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最近、知り合いが私にとてもおもしろいことを言った。「北京オリンピック(五輪)が近づいているが、新型コロナウイルスを理由に中止を求める人は、どこにいったのか?」

 

確かにその通りだ。2020年の東京五輪・パラリンピックは、21年に延期され、かろうじて無事に開催できた。しかし、その開催にあたっては、中国・武漢発の疫病が世界を患わせて以来、東アジアを専門にする反日的な学者、ジャーナリストなどが、中止を繰り返し求めてきた。

 

空港に到着した五輪関係者は防護服の職員に案内された=1日、北京首都国際空港©Sankei (Photo by Masamichi Kirihara)

 

「日本専門家」の五輪叩き

 

例えば、アメリカ人ジャーナリスト、ジェイク・エーデルスタイン氏は、東京五輪叩(たた)きに熱心だった。21年7月には連名で、米ニュースサイト「ザ・デーリー・ビースト」に、「東京は狂ったように、ワクチン接種を大幅に欠いているボランティア軍団をオリンピックに派遣する」という見出しで、容赦なく、日本政府と日本国をバッシングした。

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「東京はワクチン接種を遅らせることによって、オリンピックのボランティアを歩くスーパースプレッダー(通常より多くの人に感染を広げる人)の群れに化しているようだ」と、その記事で恐怖を煽(あお)った。エーデルスタイン氏はアメリカでは信頼されている「日本専門家」だ。

 

エーデルスタイン氏らの日本叩きの記事は、アメリカの他の主要メディアにも取り上げられた。

 

欧米の反日言論人たちが東京五輪の中止を求めた理由は、コロナ禍だけではない。

 

例えばオーストラリア国立大学名誉教授の歴史学者、ガバン・マコーマック氏は21年3月に、「アジア太平洋ジャーナル・ジャパン・フォーカス」(APJ・JF)で、「フクシマ」を持ち出し東京五輪開催に暗い影を落とす論文を発表した。

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13年、当時の安倍晋三首相が国際オリンピック委員会(IOC)に、東日本大震災の被災地は制御下にあると約束したのにまだ問題解決ができていないと批判した。東京電力福島第1原発事故についても、大量の核廃棄物が残っているなどと悪いイメージを強調した。

 

五輪組織委会長だった森喜朗元首相の「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」という失言も持ち出し、東京五輪が「茶番劇」になっていると毒舌を披露した。

 

マコーマック氏のこの記事も、コロナ禍を理由にして東京五輪の中止をほのめかした。五輪を開催すれば、「大量のコロナウイルスの感染と流通になりかねない」と懸念を示した。

 

2021年11月、スイス・ローザンヌのIOC本部前で北京冬季五輪のボイコットを訴える人々 REUTERS/Denis Balibouse

 

北京五輪には沈黙

 

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他にも、「APJ・JF」で、東京五輪・パラリンピックの開催をバカにする論文が発表された。英語圏の学界やメディアは、東京五輪を批判することを、皮肉にも、もう一つのオリンピックイベントにしようとした。

 

しかし、北京五輪については、エーデルスタイン氏も、マコーマック氏も沈黙しているようだ。

 

最近、エーデルスタイン氏が書いた記事は、感染力が強いオミクロン変異株の流行に対し、日本が水際対策を強化したことをめぐり、日本が「外国人嫌悪」の国だと厳しく批判するもので、日本叩きが変わらない。

 

しかしネット上で検索してみても、エーデルスタイン氏が北京五輪を批判する記事は見つからない。マコーマック氏も同様だ。「APJ・JF」で検索しても、北京五輪に懐疑的な論文は見当たらない。

 

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左翼が牛耳るアカデミアやメディアでは、北京五輪を批判する声がほぼ見当たらない。アジア研究者が使う情報共有サイト「H―Net Asia」では、勇気を出して北京五輪に懐疑的な姿勢をみせている学者がたった一人、スウェーデンの方だけ。日本叩きの情報は相変わらず毎日のようにあるのに。

 

東京五輪・パラリンピック開催の後も、新型コロナウイルスが世の中から消えていないのに、北京五輪開催に対する懸念はいったい、どこへ消えたのか?

 

北京市西部の石景山区に位置する首鋼スキージャンプ台©Sankei (Photo by Masamichi

 

「ジェノサイド」見ぬふりか

 

中国国内で今、新型コロナと激しい戦いが進んでいるが、五輪開催を中止しない北京政府をバカにする、欧米左翼メディアなどの記事や論文は、いっこうにでてきていない。

 

しかも、コロナ禍だけが気になっているわけではない。北京五輪が「ジェノサイド(民族大量虐殺)オリンピック」と呼ばれているのは、ただの意地悪いレッテルではない。ウイグル人らが今、中国の中で、北京政府によって、絶滅に追い詰められているのだ。それでも声を上げない理由を、左翼の「有識者」やいわゆるアジア専門家に教えてもらいたい。

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コロナ禍は許せないが、北京のジェノサイドオリンピックには目をつぶるのだろうか。左翼が常に依存しているダブルスタンダード(二重の基準)によるものだとしても、あまりに理不尽なことである。

 

点灯された聖火=4日、国家体育場©Sankei (Photo by Masamichi Kirihara)

 

筆者:ジェイソン・モーガン(JAPAN Forwardエディター、麗澤大学国際学部准教授)

 

 

2022年1月25日付産経新聞【正論】を転載しています

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