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人々の命を繋ぐ:日本の伝統的捕鯨業の誕生

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長崎くんち、万屋町の鯨の山車

 

生月島での鯨の解体『勇魚取絵詞』

 

(日本の捕鯨の歴史:前編)

 

鯨の利用や捕鯨は古くから世界各地で行われてきた。

 

そのなかで遠隔地に製品を販売する目的で行われる捕鯨業が大規模に行われたのは、北大西洋沿岸のヨーロッパ・北アメリカ地域に展開した欧米捕鯨業文化圏と、日本列島に展開した日本捕鯨業文化圏だけである。

 

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本州以南の日本列島では縄文時代早期末(紀元前4000年)に、九州北西部にある平戸瀬戸で石製の銛先や解体具であるスクレーパーを用いた突取捕鯨が行われたと想定される。だが、その後は、寄り鯨(座礁した鯨)を利用した記録が出てくる程度で、明確に捕鯨が行われた状況が分かるのは、室町時代(15世紀初頭)の対馬で、恐らくは入江の口を網で仕切って鯨を閉じ込めて捕獲する断切網法で鯨が捕獲された事を示すと思われる史料が確認されている。

 

生月島での捕鯨『画図西遊譚』

 

一方、北海道でも、四世紀頃から始まるオホーツク文化で船から鯨を銛で突く様子を刻んだ骨角器が見つかっている。明治時代にアイヌが毒銛を用いた突取捕鯨が行った事が聞き取りで確認されている。こうした北海道の捕鯨は本州以南の捕鯨とは別個の流れで、北太平洋沿岸各地の諸民族で展開した捕鯨の一環として捉えられる。

 

室町時代には京都を中心とする畿内では鯨肉が高級食材として用いられた事が、貴族の日記などから確認される。鯨肉の供給地でもあった伊勢湾の師埼(愛知県南知多町)では、元亀年間(1570~73)頃に専門の組織(鯨組)による突取法の捕鯨が始まっている。

 

突取法はその後、改良されながら安房(房総半島先端)、紀州(紀伊半島沿岸)、土佐(高知県沿岸)、西海(山口県~長崎県の対馬海峡沿岸域)の各漁場に伝わり盛んに行われるようになる。これによって古式捕鯨業が確立する事になった。日本の古式捕鯨業の特徴は、陸上に解体・加工を行う基地を置き、沿岸で捕鯨を行った事にある。

 

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突取法はその後、延宝5年(1677)に紀州太地浦において網掛突取法が発明された事で、一つの到達点を迎える事になった。同漁法は、長大な網を張り、鯨を追い立てて網に突っ込ませて、鯨の動きを止めてから突き取りを行うもので、他にも銛を上に向けて投げ上げる投法や、動きをとめた鯨に泳ぎ渡って鼻付近に穴を抉って綱を通す作業(鼻切り)、その綱を二艘の船に渡した柱に括り付けて運ぶ方法(持双掛け)など、欧米の突取法とは異なる独自の過程を多く有していた。

 

この漁法は土佐、西海漁場に導入され主要な漁法となった。明治の終わりまで続く古式捕鯨業では、こうした主要な漁法以外にも、京都府伊根浦で行われた断切網法や、富山湾岸で鮪や鰤の捕獲を兼ねた形で行われ、西海では鯨専門の形態の定置網法による捕鯨が行われた。

 

 

古式捕鯨業では、捕獲された鯨は鯨油や鯨肉に加工され、鯨油は灯油の他、飢饉の原因にもなったウンカを退治する農薬としても活用され、農民の生活を大いに助けた。塩漬けにされた鯨肉も、冬から初夏にかけての庶民の蛋白質、脂質の源となり、西日本や日本海沿岸などで様々な鯨料理が食べられていた。

 

筋、髭、骨なども綿打ち弓の弦、バネ・ゼンマイ、肥料などに利用された。文化面では、鯨組では操業の折々に鯨唄が唄われ、捕獲した鯨の魂は供養塔や位牌を設けて供養されている。また、長崎くんちや四日市の鯨船神事など各地の祭礼では、鯨の山車や模擬捕鯨などが行われている。

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日本の古式捕鯨業は、多様な独自性を持つ漁法であり、270年にわたって持続的な操業を継続した実績がある。さらには、古式捕鯨業は、鯨歌や祭礼などの文化的展開をもたらし、海外との交渉を制約した多数の人口を有する社会を資源面で支えた功績を持つ。そして、人間と鯨を共に自然の存在と見なす意識のもと行われた産業であった。世界的にも貴重な産業・文化遺産となる価値があると考える。

 

日本捕鯨の展望は? 欧米の手法と技術導入で受けた衝撃から回復を図る」に続く

 

著者:中園成生(なかぞの しげお)
1963年福岡市生まれ。熊本大学文学部(民俗学)卒業後、福岡県、佐賀県内で文化財・社会教育業務に従事。その後生月町(現平戸市)に移り1995年より博物館・島の館に学芸員として勤務し現在に至る。研究分野は捕鯨史、かくれキリシタン信仰、対外交渉史、漁業、芸能など多岐にわたる。主な著作は『鯨取り絵物語』(共著、弦書房)、『かくれキリシタンの起源』(弦書房)、『日本捕鯨史概説』(古小烏社)など。

 

 

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