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医薬品の安全保障 中国依存に警戒感

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新型コロナウイルスの感染拡大が進む中、医薬品分野での過剰な中国依存の危険性への関心が急速に高まっている。中国は医薬品製造に不可欠な原薬(有効成分)などの生産の多くを担っており、中国が将来的に意図的な輸出制限に踏み切るリスクが意識されているためだ。中国が要因のひとつとなった医薬品のサプライチェーン(供給網)の寸断は、新型コロナの感染拡大前にも現実のものになったことがある。世界を揺るがす感染症がもたらした未曾有の危機は「クスリの安全保障」という新たな課題を各国につきつけている。

 

 

世界一の供給国

 

「感染拡大のピークを越えたとみられる中国政府が政治的な計算に基づき、海外の特定の国だけに医療品を供給するかもしれない」

 

米議会調査局は4月6日に公表した中国の医療サプライチェーンに関する報告書の中で、医療における中国依存がもたらす危機に警鐘を鳴らした。

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報告書によると、中国は鎮痛剤や糖尿病薬などの原薬の分野で世界一の供給国だ。米国は抗生物質のペニシリンの輸入(金額ベース)の52%を中国に頼り、テトラサイクリンでは90%を中国に依存する。

 

中国がこうした原薬の輸出を制限すれば、米国の医療にも影響が及ぶことは必至だ。今回の感染拡大ではマスクや防護服、人工呼吸器などの不足が問題となっているが、中国の思惑ひとつで医薬品分野でも同様の事態が起こりえる。

 

こうした危機感から、米議会では「米国の医薬品のサプライチェーンを中国から守るための法律」と題された法案が審議中だ。医療機関が中国製の原薬を使った医薬品を買うことを禁じるなどする内容で、提案者のコットン上院議員は「命にかかわる医薬品のサプライチェーンを中国から切り離すべきだ」と主張する。

 

 

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命を容易に左右

 

サプライチェーン寸断のリスクは想像上だけのものではない。日本では昨年、中国発の医薬品サプライチェーンのトラブルで医療現場が混乱した。ジェネリック医薬品(後発薬)メーカーの日医工が生産する抗菌薬「セファゾリン注射剤」の供給が、中国からの原料出荷が滞ったことなどが原因でストップした事例だ。

 

発端は中国政府が2018年、環境規制にからみ、セファゾリンの原料のひとつであるテトラゾール酢酸(TAA)を世界でただ一社だけ生産していた中国企業に出荷停止を命じたことだった。その後、イタリア企業がこの中国企業のTAAでつくる原薬に異物混入が見つかり、昨年春から秋にかけて日医工のセファゾリン生産が停止した。

 

多様な感染症の治療に用いられるセファゾリンの品不足で医療現場は混乱。日本感染症学会などは医薬品生産における一部企業への極端な依存について、「国内の感染症患者の命が容易に左右される安全保障上の問題に陥っている」と指摘している。

 

今回の感染拡大を受けて厚生労働省が今年3月に開いた「医療用医薬品の安定確保策に関する関係者会議」でもこの事例が取り上げられた。厚労省はセファゾリンなど10成分についてサプライチェーンの聞き取り調査を行い、「原料製造については、中国が大部分を占めているイメージ」との見解を示している。

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国内調達強化へ

 

医薬品の原薬や、原薬の材料となる原料をめぐる供給網は複雑に入り組んでおり、世界市場での中国のシェアを正確に算出することは難しい。ただ、この20年で中国の存在感が大きくなったことは確実で、背景には中国の製造コストの低さがあるとされる。

 

「インド国内で使われる原薬の約68%は中国からの輸入に頼っている」

 

後発薬生産で世界的な地位を占めるインドの産業団体は4月の報告書で中国依存の現状を明らかにした。医薬品の原料となる石灰石が中国の内モンゴル地域で豊富にとれることなどが中国のコストの安さにつながっていると分析している。

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欧州の原薬メーカーでつくる業界団体「EFCG」も2月の声明で、原薬などの生産拠点が欧米から離れていったことで、中国などアジアへの依存度が高くなったと分析した。

 

中国依存への危機感が世界的に高まる中、日本政府は医薬品の国内生産体制を強める方針で、民間企業もこれに呼応している。新型コロナの治療薬として期待される抗インフルエンザ薬「アビガン」を子会社で生産する富士フイルムは4月15日、生産体制の拡大を発表した。富士フイルムの担当者は「原料の海外からの輸入に加え、国内からの調達も増やすことで、拡大している需要に対応する」と話している。

 

筆者:小雲規生(産経新聞経済本部)

 

 

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