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半導体の巨人、台湾TSMCが日本で目指す新技術

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半導体世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)が、日本で国内の材料・製造装置メーカーなどと共同で行う先端半導体の研究開発を国として支援することが決まった。経済・軍事の両面で「戦略物資」となった半導体の日本のシェアは10%程度と地盤沈下が続くものの、関連の材料や装置では世界で戦えるシェアを持つ。半導体の技術トレンドの変化への対応を急ぐTSMCの進出は、こうした日本の強みが決め手となった。支援は先端工場を呼び込むことが最終的な狙いだ。国内供給力を高めるチャンスが到来している。

 

経済産業省は5月31日、TSMCが日本国内で行う半導体製造技術の研究開発に対し、約190億円を拠出すると発表した。総事業費は約370億円で、約半分を助成する。

 

これに先立ち、TSMCは3月に完全子会社の「TSMCジャパン3DIC研究開発センター」を設立。この3DIC研究開発センターが茨城県つくば市の産業技術総合研究所の拠点にあるクリーンルームに検証ラインを設置する。夏以降整備し、来年にも本格的な研究を始める。

 

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世界の先頭を走るTSMCが、研究開発拠点とはいえ固定費などコスト面を考えると比較的割高な日本への進出を決めたのは、リスク分散を念頭に置いただけではない。日本の高い半導体関連技術に着目したとみられる。

 

共同研究に参加する日本企業は20社超。材料メーカーでは旭化成、イビデン、JSR、信越化学工業、新光電気工業、富士フイルムなど。キーエンス、芝浦メカトロニクス、島津製作所、ディスコなどが装置メーカーとして協力する。

 

経産省によると、信越化学が強い半導体の基板となるシリコンウエハーでは日本勢の世界シェアは約6割。JSRなどが手掛ける回路形成に不可欠なレジスト(感光剤)は約7割を占める。主要材料で存在感を示すだけでなく、製造装置でもレジストを基板の表面に塗るといった塗布装置は約9割に達する。

 

助成が決まったのは、半導体の「後工程」と呼ばれる製造工程に関する研究開発だ。技術トレンドの変化で最近注目されている分野で、TSMCにとっては手薄とされている。

 

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半導体は、円盤状のウエハーに光で電子回路を書き込む「前工程」と、回路が刻まれたウエハーから四角いチップを切り出して基板と配線でつないで製品の形に組み立てる「後工程」に分かれる。

 

これまでは、前工程で回路をいかに細くできるかを競い合ってきた。回路の線幅を細くすると、多くのトランジスタ(素子)を集積できるようになり、動作性能が向上するからだ。また高密度で回路を描くとチップ面積が小さくなり、ウエハー1枚からより多くのチップをつくることができ、生産コストの低減にもつながる。最先端はTSMCなどが着手した回路線幅2ナノメートル(1ナノメートルは10億分の1)の半導体。日本で先行する半導体と比べると20分の1の細さだ。

 

この前工程の技術の進歩が半導体の性能向上を引っ張り、後工程の付加価値は小さいとみなされていた。ところが、回路上のトランジスタ数が1年半から2年で2倍になる「ムーアの法則」が提唱されて50年以上も集積度を高める進化を続けた結果、微細化技術が限界に近づいているとの見方が浮上。半導体の性能向上を継続するには別の手立てが必要とされてきている。

 

そこで、世界が目を向け出したのが後工程で、特に機能の異なる複数のチップを立体状に何層にも積み上げ、1つのパッケージにまとめる「3次元実装」だ。停滞が予想される微細化の代わりに立体化で技術革新を牽引(けんいん)しようというもの。TSMCの研究開発はこの分野を確立することにある。

 

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もっとも、小さなチップを精緻に積み上げて高性能な製品に仕上げるのは難しいとされ、これを実現するには材料や加工、接合などさまざま面から見直すことが不可欠。TSMCが材料や装置の分野で技術にたけた日本メーカーと組んだのはこのためだ。

 

 

官民で供給強化

 

日本の材料・装置メーカーもTSMCと連携を深めることで、同社からの将来的な大量発注が見込めるだけでなく、3次元実装に欠かせない技術メーカーとして世界をリードできる可能性もある。経産省は「(日本の)強みを生かせる」(デバイス・半導体戦略室)と期待を寄せる。共同研究の先には、TSMCによる後工程工場の誘致を視野に入れる。さらに前工程工場の誘致も検討する。

 

かつて世界の半導体生産をリードした日本は、開発と生産を分業して効率化する世界の潮流に乗り遅れて地位を失った。半導体そのものの開発力の差は広がり、「追いつくのは到底無理」(半導体業界関係者)。日本企業が単独で最先端の半導体をつくるのはもはや困難だ。

 

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一方、材料・装置分野が世界市場で生き残った。これを武器に同じ価値観を持つ国や地域の半導体企業の工場を呼び込み、先端半導体の国内供給力を高めていくしかない。

 

半導体産業のスピードは速い。重要性を増す後工程は、韓国サムスン電子や米インテルも強化に乗り出している。しかも、半導体関連に米国は5・7兆円、欧州連合(EU)は約19兆円をそれぞれ投じる方針を表明した。巨額な資金投下で工場進出に拍車が掛かり、それに伴い関連分野も力がつけば、日本の技術優位性は薄れる可能性もある。逆に日本の材料・装置メーカーの海外移転に拍車が掛かり、国内が空洞化する恐れもある。日本の工場誘致のシナリオも狂いが生じかねない。

 

日本も半導体の開発などを後押しする基金があるが、規模は2000億円にとどまる。半導体を6割以上も輸入に頼る日本が国内で量産に踏み込むためには欧米同様に多額の投資が必要となる。日本が半導体自給率を高める好機を失わないためには、官民一体となって投資の議論を活発化させなければならない。

 

筆者:佐藤克史(産経新聞経済本部)

 

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2021年6月22日産経ニュース【ビジネス解読】を転載しています

 

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