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幻の日本版ウーパールーパー 89年ぶりに発見

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丸っこい頭に小さな目のユーモラスな姿が人気を呼び、かつて大ブームとなった「ウーパールーパー」は、メキシコ原産の両生類の一種だ。たてがみのように見えるえらがあるように、水中で暮らす幼い時期の形を保ったまま大人になる「幼形成熟」という状態で、陸上では暮らせない。日本でも昭和初期まで同様の幼形成熟が生息していたとされるが、環境の変化で長らく確認されず幻の存在となっていた。だが北海道大の地道なフィールド調査により、とうとう89年ぶりに発見された。12月14日から一般公開される。

 

 

昭和時代に空前のブーム

 

多くの人にウーパールーパーとして知られているのは、メキシコサンショウウオの幼形成熟体だ。オタマジャクシがカエルになるように、普通に成長すればえらがなくなり、平たく丸い頭もスリムになって陸上で暮らすようになる。だが、メキシコの一部の湖に生息するものは幼形成熟する。これが100年ほど前に医学研究のため飼育がされるようになり、品種改良を重ねた結果、現在の形になったといわれている。

 

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実は、ウーパールーパーというのは日本でつけられた商品名で、正式な種名ではない。だが、昭和60年に日清食品のカップめん、日清焼きそばUFOのコマーシャルに登場して以降、「水の妖精」と呼ばれるほど愛くるしい姿のため人気が大爆発。キャラクターソングや数多くの商品が大ヒットし、ウーパールーパーの名前が完全に定着した。

 

メキシコ原産のものは現在、生息環境の悪化で絶滅の危機に直面していることから、ワシントン条約で国際取引が制限されている。だが、日本で飼育・繁殖されたものは制限の範囲ではないため、国内で広く流通が続き、ペットとして相変わらず人気を集めている。

 

 

戦争で姿を消した日本版

 

日本版のウーパールーパーは、エゾサンショウウオの幼形成熟体だ。北海道の固有種で、通常は水中で育った後、陸に上がり成体になる。大正13年に北大の佐々木望(まどか)博士が、道南西部の胆振(いぶり)地方に位置する白老(しらおい)町の倶多楽(くったら)湖で、幼形成熟して水中で暮らすエゾサンショウウオを十数匹発見した。

 

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採集された個体は、飼育下でも繁殖したことから成体と確認された。幼形成熟が起きる理由ははっきりしていないため、仕組みを解明する貴重な材料として研究者の注目を集めた。

 

だが、倶多楽湖では食糧生産の拡大を目的にヒメマス養殖が始まり、環境が一気に悪化。幼形成熟体は放流されたヒメマスに捕食され急減し、昭和7年に2匹が採集されたのを最後に姿を消して幻の存在となった。その後、第2次世界大戦の影響で研究は停滞し、標本も行方不明に。外見を確認できる資料はイラストと写真など数枚だけとなり、エゾサンショウウオの幼形成熟現象自体を疑問視する声も上がっていたという。

 

 

「必ずどこかにいる」

 

そんな幻の存在の発見に情熱を注ぐ研究者がいた。長年にわたって両生類を専門に研究し、絶滅危惧種のトウキョウサンショウウオの体が地球温暖化の影響で巨大化していると突き止めたことでも知られる岡宮久規・北大研究員だ。

 

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かねてから倶多楽湖の幼形成熟サンショウウオに興味を持ち、「まだどこかに必ず生息しているはずだと考えていた」という。以前は東京都立大に所属していたが、数年前に北大で研究を行うようになってから、道内で両生類のフィールド調査を行うたび幼形成熟個体がいないか探し続けた。

 

そして昨年12月、胆振地方の雪深い山間にある小さな池で、学生らとともに奇妙な雄のエゾサンショウウオを見つけた。えらを持ち、頭や歯、足、尾びれなどの形状は水中で暮らす幼い時期の状態だが、よく観察すると、消化管の末端にあり、糞(ふん)尿の排泄(はいせつ)器や生殖器を兼ねる総排出口という器官が、成熟した雄のものと似ていた。

 

 

地道な調査が実を結ぶ

 

「とうとう幻の存在を見つけたのかもしれないと思って実にうれしかった」。岡宮さんはこうふり返る。だが、見つけたのが1匹だけで、総排出口の形状が成熟雄に似ているというだけでは、本当に幼形成熟なのか分からない。

 

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そのため、同じ池での調査を続けたところ、今年4月、同様の特徴の雄をさらに2匹発見。実験室に持ち帰り飼育すると、春の繁殖期だったため精子の放出が確認された。これを成熟した雌から採取した卵に加えると、受精し孵化(ふか)したことから、生殖能力を持つ成体であることが判明した。89年ぶりに、エゾサンショウウオの幼形成熟個体が確認された瞬間だった。

岡宮さんは「エゾサンショウウオの幼形成熟が本当にあることを確認できた。日々あちこちの池に足を運び、フィールド調査を続けてきてよかった」と話し、データ分析などを担当した共同研究者の岸田治・北大准教授は「純粋な好奇心と地道な観察が、野生生物の自然史解明の礎になることを改めて学ばせてもらった」とたたえた。チームは今後、幼形成熟が起こる理由を解明する研究を続け、サンショウウオ類の多様性や進化の理解を深めていくとしている。

 

幼形成熟の3匹は現在、両生類の飼育技術に大きなノウハウを持つ岐阜県各務原市の水族館「アクア・トトぎふ」で飼育・観察を続けており、14日から一般公開を行う。通常の個体と見比べられる形で、分かりやすく展示するという。

 

筆者:伊藤壽一郎(産経新聞)

 

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2021年12月11日産経ニュース【びっくりサイエンス】を転載しています

 

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