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戦後76年に思う 国益見据えた決断と覚悟を今に

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英空母「クイーン・エリザベス」が来月にも日本へ寄港し、自衛隊と共同訓練を行う予定だ。

 

EU(欧州連合)離脱後の英国は、もはや覇権主義を隠そうともしない中国にあらがう姿勢を鮮明にし、インド太平洋地域への関与を強めている。英国は、TPPをはじめ日米豪印戦略対話(クアッド)に参加する意向を示しているほか、日英間の防衛交流を深化させるなど、今まさに第2次日英同盟前夜の感すらある。

 

 

佐藤皐蔵(こうぞう)中将が伝える献身

 

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日英同盟-かつてこの同盟によって日本は日露戦争に勝利し、第一次大戦後には五大国となった。にもかかわらず日本の役割に関しては、青島攻略戦ぐらいしか思いつかない人も少なくなかろう。だがそれだけで五大国になれるだろうか。あろうはずがない。それ相応の働きがあったからだ。

 

日本政府は日英同盟に基づいて地中海に佐藤皐蔵少将(のち中将)率いる第2特務艦隊を派遣し、ドイツやオーストリアの潜水艦の攻撃から英仏の船舶を護衛した。1917(大正6)年4月から終戦までのおよそ1年半の派遣期間中に788隻もの船舶を護衛し数十万の命を守りそして救った。その比類なき献身的な船舶護衛が各国から感謝され、いつしか日本艦隊は“地中海の守護神”と呼ばれた。

 

日本海海戦に勝利した東郷平八郎元帥が日英同盟の受益者ならば、第一次大戦で連合軍を勝利に導いた佐藤皐蔵提督は日英同盟の与益者だったといえよう。この歴史と意義について令和元年12月16日付正論欄で紹介すると、間もなく拙稿を読んだという女性からメールが届いた。送り主は佐藤皐蔵中将の御令孫だった。

 

その後、御令孫のお招きにあずかり佐藤提督の遺品や資料を拝見する機会に恵まれた。地中海派遣時の写真帖、東郷元帥から贈られた掛け軸や額などこれまで見たことのなかった貴重な品々に眼も心も釘(くぎ)付けになった。

 

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現代に多くのことを訓(おし)える

 

なかでも昭和9年7月の海軍兵学校における佐藤提督の講演録「歐州大戦中地中海ニ於ケル帝國海軍ノ作戦」には瞠目(どうもく)した。そこには同盟のあるべき姿と現代への教訓が記されていたのだ。

 

地中海派遣で日本が英仏など連合国の信頼を勝ち取って称賛されたのは、佐藤提督が、各国が嫌がる最も危険な軍隊(兵員)輸送船の護衛を率先して引き受け、自らの犠牲を顧みない挺身(ていしん)護衛で役割を果たしたからであった。

 

佐藤提督は、今日の軍隊は職業軍人だけではなく、政治家や学者、また新聞記者や著述家、実業家など様々な職業の人々によって構成されているとした上で、こう述べている。

 

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《日本の軍艦旗の下に、これらの人々を危険なる海面を通じて安全に護送してやったならば感謝の念は永久に残って、その影響は永く帝国を裨益(ひえき)するであろうと考えたからでありました》

 

国益を見据えた佐藤提督の決断と覚悟に敬服する。

 

また英軍指揮官オスワード代将が晩餐(ばんさん)会の席上で佐藤提督らに贈った言葉は、日英両国にとってのあるべき安全保障枠組みを訓えていた。紀脩一郎著『日本海軍地中海遠征記』によれば、オスワード代将は、日英両国の地政学的相似性と国民性の類似性を挙げ両国は将来も協力して世界の平和に貢献すべきと力説していたのである。

 

まるで現在の日英再接近を予見していたかのようだ。日英連携は、両国の国益のみならず世界の平和のためでもあることは現状に照らしても頷(うなず)ける。日英同盟は現代に多くを訓え、同時に将来の日本外交の羅針盤となっている。

 

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戦いを終えた時の姿勢

 

そしてもう一つ、佐藤提督が日英同盟の最前線で学んだことは、戦いを終えた時の姿勢だった。

 

佐藤提督は、英国人は戦いに勝ったとて有頂天になることなく、負けたときも悲観せず、泰然自若たる態度に着目した。特に作戦に失敗したときでも失望落胆せず、よく士気を維持し、むしろ欠点を補って将来成功するための基礎を築く意思の力の強さにいたく感動して講演でこう述べている。

 

《これは一人の軍人のみならず一般人民といえども、不成功の軍人に向かい苟(いやしく)も悪罵を放つことなく、常に同情をもってその人を待つごとき襟度は実に羨望の至りに堪えません。(中略)最善の努力を尽くしても尚(なお)運命に恵まれざる人に対して温かき同情を寄する襟度を示さねばならぬ。この点は遺憾ながら我が国民に欠けたるところがあると思う。深甚の猛省を促したいのであります》

 

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戦争に負けるや、官民挙(こぞ)って軍および軍人を罵倒し、また作戦の失敗を得意げに論(あげつら)って批判してきた大東亜戦争後の日本の風潮を諫(いさ)める予言だったともいえよう。

 

終戦の日を前に、佐藤皐蔵中将がかつて日英同盟から学んだ訓えと戒めを我々日本人は心に刻むべきではなかろうか。

 

筆者:井上和彦(ジャーナリスト)

 

 

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2021年8月9日付産経新聞【正論】を転載しています

 

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