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【3・11を想う】作家・柳美里さん「話を聞く。それで役に立てたら」

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南相馬でブックカフェ営む 「来て」と言えないのが苦しい。せめて「思って」

 

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米国の代表的な文学賞「全米図書賞」の翻訳文学部門に「JR上野駅公園口」が選ばれた柳美里(ゆう・みり)さん。東日本大震災で津波と東京電力福島第1原発事故の被害に遭い、避難指示区域だった福島県南相馬市小高区に平成29年から住み、ブックカフェを営む。住民の帰還が進まない町で、地元の人の声に耳を傾ける。

 

 

-受賞作は震災に触れている

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書き始めたころに震災と原発事故が起きた。平成23年4月21日に、政府が福島第1原発から20キロ圏内の避難区域を22日午前0時で立ち入り禁止の『警戒区域』とする、と発表し、取るものも取りあえず行ったのが最初だった。間を置かず、富岡町や浪江町にも行った。役に立つために何ができるだろうと考えたときに、話を聞くことならできるのではないかと思った。

 

-南相馬市の臨時災害放送局のラジオ番組「柳美里のふたりとひとり」では6年間にわたって、約600人に話を聞いた

 

(原発事故後)賠償や補償などさまざまな線引きがされて対立や摩擦が起きた。地元の方が聞き手だと話しづらいが、私がよそ(者)だったので話がしやすいとおっしゃっていただいた。番組は30分だが2時間話した方もいた。収録後にお手紙をもらった飯舘村の方と、改めて村を回りながら話を聞いたこともあった。みんながつらい思いをしているので、お互いにあの日どうしていたのかという話をしない。初めて話すことができて、ずっしりしていた背中が軽くなったという人もいた。

 

-現在の福島は

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新型コロナウイルスの影響が非常に厳しい。原発事故後の福島は学校でも窓を閉め切ってマスクをしていた。ロックダウンに近い状況を経験しており、コロナが2度目であるということは知られるべきだ。全国に避難して今でも帰還されていない方が多い。避難解除から小高地区の人口は微増していたが、昨年の9月末をピークに減り始めた。原発事故でコミュニティーが破壊された地域では、そろそろ同じようなことが起きるのではないか。

 

-飲食店などへの影響は

 

地元でなんとか始めた店だけど、客がいない。経済的な見返りではなく、小さな灯火(ともしび)を、がらんとしたほとんど真っ暗な町に灯(とも)そうと、志だけで開いているのに、成り立たない。

 

 

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-風化を感じるか

 

震災10年で、みなさんの目が向くのが重要だったと思うが、コロナで大変な状況になり、このままだと目が向けられないのでは、という懸念がある。

 

-「復興五輪」とされた東京五輪が延期された

 

コロナもあり、復興という言葉が抜き取られた。昨年3月の常磐線全線開通は大きな出来事だった。常磐線の一駅一駅が開通していく中で、必ず最初の日に乗っている。沿道で泣きながら手を振っているという情景があったが、報道などでは大きく取り上げられなかった。福島は(令和元年10月の)台風19号の被害も大きかった。震災、原発事故、風評被害、人口減、台風19号、水害、それでコロナ。絶句するしかない。

 

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-今後の南相馬市での活動は

 

仮設住宅に住んでいる間におばあさんが亡くなり、1人になったおじいさんが、運転免許を返納して、自転車でふらっとブックカフェにきてくださる。話したいことはたくさんあるけど話せなくて、悲しみや苦しみで溺れてしまう。ぎりぎりまで店を開けて話を聞き続けたい。

 

-被災地以外にいる人にできることは

 

来てもらうのが一番だが、今はそれが言えない。情報だけで知ったつもりになってしまうが、実際に来ることは、五感で感じるということ。常磐線の復旧区間を窓から見るだけでも、何駅かで降りて歩くだけでも。でも、『来て』と言えないのが苦しい。せめて『思って』いただきたい。

 

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聞き手:大渡美咲(産経新聞)

 

 

【プロフィル】柳美里(ゆう・みり)
昭和43年生まれ。高校中退後、劇団「東京キッドブラザース」の女優を経て62年、演劇ユニット「青春五月党」旗揚げ。平成5年に「魚の祭」で岸田国士戯曲賞、9年に「家族シネマ」で芥川賞受賞。27年、福島県南相馬市へ移住し、30年に自宅を改装、書店開店。昨年、自身の小説と同名のブックカフェ「フルハウス」をオープンした。

 

 

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