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生活・産業基盤を脅かす司法リスク

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山口県の住民3人が四国電力伊方原子力発電所3号機(愛媛県伊方町)の運転差し止めを求めた仮処分申請の即時抗告審で、広島高裁は1月17日、住民側の請求を認め、運転を差し止める決定をした。

 

この結果、司法判断は約2年のうちに運転が1回、停止が2回と迷走している。安定した電力供給は市民生活や産業・経済活動の基盤であり、今やこれを司法のリスクが脅かす形になっている。3号機は定期検査中で、先月から運転を停止していたが、今回の仮処分決定により、法的に再稼働ができなくなった。四国電力は「到底承服できるものではなく、速やかに不服申し立ての手続きを行う」としている。

 

 

厳格な審査覆した裁判所

 

まず指摘したいのは、差し止め請求の根拠となっている「人格権」の乱用である。民法の権威、森嶌昭夫名古屋大学名誉教授によれば、「人格権」を適用するのは本当に急迫した危険であるときのみであって、むやみに適用するのは適切ではないとのことである。伊方原発3号機は、世界一厳しい新規制基準の下で、安全対策が合格し、さらに工事完了後の使用前検査で安全が確認されて再稼働に至っている。つまり、山口県の住民3人(抗告人)にも一般市民にも、差し迫った明白な危険はないのである。新規制基準による過酷事故(炉心の損傷)対策を含めると、原子力学会の調査専門委員会のリスク評価では、重大な過酷事故の発生確率は原発1基について年間で1000万分の1程度まで下がっている。

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次に指摘したいのは、国家行政組織法3条が定めるいわゆる「三条委員会」として、独立した強い権限を持つ行政組織である原子力規制委員会の審査自体に裁判所が踏み込んでいることである。活断層に関する規制委の安全審査について、裁判官は「過誤ないし欠落があった」と批判している。審査が厳格すぎ、膨大な審査のマンパワーと時間をかけた規制委の「合格」の判断、換言すれば、工事認可まで含めると40万ページに及ぶ膨大な審査書類が、たった1回の審尋(利害関係者に対する陳述機会の提供)による88ページの運転差し止め仮処分の決定文で否定されている。

 

 

公平性はどこに

 

原子力基本法第2条第2項には、「安全の確保については、確立された国際的な基準を踏まえ、国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全並びに我が国の安全保障に資することを目的として、行うものとする」とある。決定文にある、瀬戸内海西部の伊予灘の海岸線が活断層であるとする見解は、ごく少数の専門家が可能性を指摘するに過ぎない。また、伊方原発から130キロ離れた熊本県・阿蘇山の大規模噴火について、事業者想定の5~6倍の規模を考慮することが必要な訳では無い。

 

それにもかかわらず、「巨大地震などへの安全確保が不十分」という抗告人の主張を100%取り入れたような決定文に、司法としての公平性はあるのか。行政手続きの法体系に基づく厳密な審査を覆してよいのか。司法の在り方を根本から見直すべき事案と考える。

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筆者:奈良林直(国基研理事・東京工業大学特任教授)

 

 

国家基本問題研究所(JINF)「今週の直言」第652回・特別版(2020年1月21日付)を転載しています。

 

この記事の英文記事を読む

 

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