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逆風ハイブリッド 需要は簡単に落ちない

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「21世紀に間に合いました」。世界初となる量産ハイブリッド車(HV)であるトヨタ自動車「プリウス」は1997(平成9)年12月、こんなキャッチコピーで華々しく登場した。

 

当時のことはよく覚えている。燃費を重視し、空力抵抗も考慮したのだろうが、寸足らずな印象を受けるデザインは〝未来車〟にはふさわしくないように思えたからだ。旧知のトヨタ社員にそう話したところ、「見ただけで、誰もがHVだと分かるデザインを意識した」と解説してくれた。

 

それから20年あまり。HVは一目で分かるデザインの車ばかりではなくなった。プリウスのようなHV専用車だけでなく、「HVも選べる」車種が増え、トヨタ以外も手掛けるようになった。エンジンと電気モーターを併用して走るHVは、燃費がいい「環境に優しい車」の代表として、身近な存在となっている。

 

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そんなHVの今後を左右しかねないニュースが海外から飛び込んできた。

 

トヨタ自動車の小型EV「C+pod(シーポッド)」

 

販売できない

 

欧州連合(EU)の欧州委員会は7月14日、温室効果ガスの削減に向けた包括的な環境政策を発表。その中で、新車の二酸化炭素(CO2)排出量を2035年にゼロとすることを盛り込んだ。導入されればガソリン車やディーゼル車ばかりでなく、HVも事実上販売できなくなる。

 

厳しい環境規制で先行する欧州だが、多くの国はHVの販売禁止までは踏み込んでおらず、今回の環境政策は自動車各社に衝撃を与えた。欧州自動車工業会は「特定技術を禁じるのは合理的ではない」との声明を発表、懸念を訴えた。

 

だが、環境政策の公表から程なく、独ダイムラーは30年までに高級車部門「メルセデス・ベンツ」の新車全てを電気自動車(EV)にする計画を発表。すでに独フォルクスワーゲンなどの主要欧州メーカーもEVへの巨額投資計画を発表している。欧州は官民一体となってEVの覇権を握ろうと動いているように映る。

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HVの販売禁止でもっとも影響を受けるのは、HVで世界をリードする日本メーカーにほかならない。

 

トヨタ自動車の多目的自動運転EV「e-Palette(イーパレット)」

 

急激な脱炭素

 

トヨタは今年4月に25年までに15車種のEVを販売する計画を発表した。欧州では30年に電動車の販売比率を100%とする計画だが、走行時にCO2を排出しないEVと燃料電池車(FCV)の比率は40%。主力はHVや外部電源から充電できるプラグインハイブリッド車(PHV)だ。

 

ホンダは日本メーカーで唯一、販売する新車をすべてEVとFCVにする目標を掲げているが、ターゲットは40年だ。日産自動車も30年代早期に欧州を含む主要市場で販売する新型車をすべて電動車とするが、その中にはHVも含まれる。

 

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このため、日本メーカーからは欧州委の環境政策について「HV潰しが狙いだ」との声も聞こえる。

 

ただ、HVには欧州以外でも逆風が吹く。バイデン米大統領は今月5日、30年に新車の5割を電動車にするとの大統領令に署名したが、電動車はEV、FCV、PHVの3種類で、HVは除外されたのだ。自動車をめぐる欧米の環境政策からうかがえるのは、世界の自動車市場が想像以上のスピードで「低炭素」から「脱炭素」に向かっているという事実だ。

 

日本メーカーは、EVのラインアップをそろえるだけなら技術的には難しくはない。もちろん、新モデルの開発やバッテリーの調達に巨額の投資が必要にはなるものの、モーターや制御技術などHVで培った電動化の基幹技術はEVにも生かせるからだ。

 

日産自動車の新型EV「ノートオーラ」

 

強みを生かせ

 

問題はEVでどう強みを発揮するか。構造が簡素なEVは、壊れにくいという信頼性や高い燃費性能では差をつけにくい。航続距離を大幅に延ばせるという次世代バッテリー「全固体電池」の開発ではトヨタがリードしているとされるが、今のところ日本メーカーはその解を見いだしているようには見えない。

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トヨタ自動車の燃料電池車「ミライ」

 

HVと同様、世界で初めて量産EVを発売したのは日本メーカーだ。09年に発売された三菱自動車の「アイ・ミーブ」である。翌10年には日産も「リーフ」で続いた。だが、その後は魅力的なモデルを投入できず、EVの主導権は海外メーカーに握られた。

 

プリウスの発売以来、自動車の環境技術は日本メーカーがリードしてきた。その地位を奪還しようとする海外メーカーにとって、EVは切り札だ。本格的にEV市場が立ち上がろうとする今、日本メーカーはかつてと同じ失敗を繰り返してはならない。

 

世界的にみれば電力が十分ではない地域も多く、充電インフラの整備に時間がかかることを考えると、HVの需要は簡単には落ちないはずだ。その間に、いかに魅力的なモデルを開発できるか。日本メーカーが世界をリードする存在であり続けるために、欠くことのできない条件である。

 

筆者:高橋俊一(産経新聞経済部編集委員)

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2021年8月21日付産経新聞【経済プリズム】を転載しています

 

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