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米国の「反警察」運動が抱える虚実

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「アメリカこそ黒人がひどく差別され、警察の暴力が横行する非人権国家だ」。ウイグルでの弾圧や香港「警察」の暴力が問題にされるたび、決まって中国共産党政権(以下中共)が用いる反撃セリフである。

 

 

実態を把握する必要がある

 

こうしたプロパガンダに自由主義陣営が動揺するならば、中共の思うつぼである。米国における「黒人の命は大事」運動(以下BLM)の実態を正確に把握する必要がある所以(ゆえん)である。

 

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5月25日、米ミネアポリスで、白人警官が黒人男性を拘束後に死亡させる事件が起こった。首に膝を8分以上当て続けた行為は明らかに不当である。警官は翌日解雇され、重過失致死罪で起訴された。現場にいた同僚3人も制止を怠ったとして後に解雇、起訴されている。うち1人は黒人、1人はラオス生まれのアジア系だった。

 

ミネアポリス近辺は非常にリベラル色が強く、州知事、市長ともに民主党、13人の市会議員中12人が民主党、1人が緑の党、地域選出の連邦下院議員は最左派でイスラム女性のイルハン・オマールである。警察だけが全体として人種偏見に侵されていると考えるのは無理がある。特定の乱暴な警官による逸脱例と見るべきだろう。

 

トランプ大統領を含む政界の誰もが警官の行為を非難した。その後の騒乱は極左を中心とする便乗暴動であり、略奪はリベラル派の首長が警察、州兵による速やかな鎮圧をためらったため広がった。

 

BLMが注目された契機は、オバマ政権時代の2014年にミズーリ州ファーガソンで起きた黒人男性死亡事件である。この時も、発砲した警官が不起訴になった直後に暴動が発生した。「手をあげた!撃つな」、次いで「黒人の命は大事」が標語となった。

 

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この事件はいまだに「丸腰の黒人少年が白人警官に射殺された」と表現されることが多い。

 

しかし事実は違う。「少年」マイケル・ブラウンは身長193センチ、体重133キロの18歳で、警官に遭遇する前にコンビニ強盗をしていた。店員を突き飛ばして悠々と歩み去るさまが監視ビデオに記録されている。複数の証言によれば、パトカーの窓越しに警官を殴って銃を奪おうとし、さらに車外でも襲いかかったため警官が発砲したという。

 

 

理性的な声も上がる

 

当初、素直に両手をあげたのに撃たれたという通行人の証言がメディアに流れたが、後にこの「通行人」はコンビニ強盗の共犯だったことが分かる。大陪審は正当防衛と判断し警官を不起訴とした。

 

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しかし暴動となったため、州当局が再検証を行い、さらにオバマ大統領の指示でホルダー司法長官(黒人)主導の再々検証も行われた。そのいずれも警官は不起訴相当という結論に達している。

 

にもかかわらず、リベラル・メディアは「白人警官が無抵抗の黒人少年を射殺」を暗示する報道を続けた。「手をあげた!撃つな」のプリントシャツを着るスポーツ選手や芸能人も多数出た。何よりオバマ大統領が「構造的な人種偏見が事件の背後にある」とした当初の発言を取り消さず、逆にBLMのリーダーを招いて指導力をたたえるなどしたことが大きい。

 

もちろん理性的な声も上がった。ウォールストリート・ジャーナル紙のジェイソン・ライリー(黒人)は「黒人の命にとってはマイケル・ブラウンのような男の方が警察より、はるかに大きな脅威だ」と率直に記している。「警察が萎縮することで最も危険になるのは黒人だ」とも述べている。

 

警察にも不良分子はいるだろう。しかし全米黒人警察協会の顧問ロバート・ウッドソン(黒人)が言う通り、「人種偏見が悪いというなら、ごく一部の行為から警察全体を固定観念で見るのも同じく間違い」である。

 

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「二重基準」で踊らされるな

 

評論家ラッシュ・リンボーは、「昔は親が子に警官に逆らうなと教えた。ところが今や警察への反抗こそが正義という雰囲気になっている。露骨な反抗に遭えば、それだけ警官が脅威を誤認して不幸な事態に至るケースも増えざるを得ないが、それがまた偏見のせいにされる」と慨嘆する。

 

国歌演奏の際、片膝をつく「黒人に対する警察の暴力糾弾」運動を始めたNFL(米ナショナル・フットボールリーグ)の選手に対しても、では香港「警察」の暴力にはなぜ黙っているのかと二重基準を批判する声がある。

 

NFLは膝つき問題で保守層の球場離れが続き、テレビ視聴率も顕著に低下した。自身熱烈なファンだったが見なくなったというリンボーは、「ファーガソン事件はリベラル派による最も成功した嘘だ。私はフィールドの光景を悲しく思う。選手たちは嘘に踊らされ、大事な顧客を自ら遠ざけている」と言う。「もし中国なら彼らは3秒後には姿を消し、二度と消息を聞かないだろう」と揶揄(やゆ)する声もある。

 

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中共に乗じられるプロパガンダを自ら作り、蔓延(まんえん)させる自傷行為を続けてはならない。

 

筆者:島田洋一(福井県立大学教授)

 

 

2020年7月15日付産経新聞【正論】を転載しています

 

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