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最東端、南鳥島で日本の海を守る自衛隊

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本州から約1800キロ離れた太平洋上にポツンと浮かぶ日本最東端の南鳥島(東京都小笠原村)。徒歩1時間程度で1周できる島に「海上自衛隊南鳥島航空派遣隊」の12人が常駐し、小さな島が生み出す大きな海洋権益を守っている。7月11日、河野太郎防衛相の視察に同行した。

 

 

「住むこと自体任務」

 

海自機で厚木航空基地(神奈川県)を飛び立って約4時間。窓の前方に広がるコバルトブルーの海面に、横にまっすぐ伸びる白線が現れた。それが島影だった。サンゴでできた起伏のない地形のため、遠くからは白線に見える。

 

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気温32度の島の滑走路に降りた。全長1370メートル、幅45メートル。昭和11年に旧海軍によって建設された。大きなひび割れもなく、きれいに整備されている。滑走路の維持・管理や、着陸した自衛隊機への給油が海自派遣隊の任務だ。

 

滑走路横の派遣隊庁舎前には、日の丸が高々と掲げられていた。庁舎から海までは歩いてすぐ。絶海のため漁船の姿もなく、とても静かだ。

 

南鳥島では先の大戦で、米軍の空襲や軍艦砲撃などで191人が命を落とした。海岸沿いには旧日本軍の軽戦車や大砲の残骸、トーチカ(コンクリート製の陣地)などの戦争の傷痕が戦後75年たっても撤去されず残っている。茶色くさび付き、雑草がからまっていた。その背後には白いサンゴの海岸とエメラルドグリーンの海という楽園の景色が広がり、そのギャップに強い印象を受けた。

 

現在の島民は派遣隊に加え、気象庁と国土交通省の合わせて二十数人のみ。民間機や客船は就航せず、観光客は訪問できない。

 

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4月に着任した派遣隊長の光末憲壮3等海佐は取材に、任務の意義をこう説明した。

 

「ここに住み、(滑走路などの)機能を維持していること自体が重要な任務だと考えています」

 

つまり、日本による島の実質的な統治を継続することだ。光末氏は「最東端の小さな島だが、膨大な排他的経済水域(EEZ)を持つ。崇高な任務という意識で隊員に勤務させている」と語る。

 

EEZとは、沿岸国が沿岸から200カイリ(約370キロ)以内で設定できる、水産・海底資源など経済的な権利を有する海域だ。

 

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日本はわずか1・5平方キロの南鳥島のおかげで島の周囲43万平方キロのEEZを太平洋上に有している。それは日本の全国土より広い面積だ。そのEEZ内の深海底では、ハイテク製品などに用いられる貴重な「レアアース」(希土類)の存在が確認されている。

 

 

レアアース眠る海を守る

 

島の生活は不便が多い。食料は週1回、航空自衛隊機で運ばれてくるが、携帯電話は数年前にソフトバンクだけがかろうじてつながるようになった。インターネットは接続できないに等しい。テレビはBSのみで地上波は映らない。趣味は筋トレ、日焼け、釣り-。

 

医師はいない。医療機関がある本州まで片道4時間を要し、けがが致命傷になりかねないため、隊員の安全管理には特に留意しているという。隊長は1年、一般隊員は2カ月交代でここに住む。

 

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河野氏は視察の際、任務の現状を隊員から聞いて「勤務環境を少しでも改善できるよう努力したい」と語った。島内の戦跡や戦没者慰霊碑、海洋調査船などが停泊する岸壁工事の現場なども訪ねた。工事は国交省の事業で、令和4年度に160メートル岸壁が完成する予定だという。

 

「中国の艦艇と航空機が太平洋に活発に進出してくる中、太平洋の防衛を真剣に考えていかなければならない」

 

河野氏は視察後の取材でこう強調した。令和2年版防衛白書は、中国軍の太平洋進出について「今後一層の拡大・活発化が見込まれる」と警戒した。

 

南鳥島は今のところ、直接的な圧力にはさらされていない。ただ、同じ太平洋側にある日本最南端の沖ノ鳥島周辺のEEZでは今月、中国の海洋調査船が日本側の事前同意を得ずに調査を強行したとみられる事案が発生している。レアアースが眠る南鳥島周辺もひとごとではないだろう。

 

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日本の国土面積は世界で61番目だが、EEZは世界6位の面積を誇る。絶海の孤島に日の丸を掲げ、特殊な生活環境で人が居住し、滑走路などのインフラを維持している。日本という海洋国家はこうして成り立っており、それは決して容易なことではない。

 

今回、わずか2時間余りの滞在だったが、その現実を垣間見ることができた。

 

筆者:田中一世(産経新聞)

 

 

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