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脱炭素の「30年競争」 官民一体で世界リードを

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物事を前に進めるには、トップが明確に方針を示す必要がある。そんなことを、このところ日々実感している。

 

国内に広がる「脱炭素」の動きのことだ。菅義偉首相が、地球温暖化の原因となる温室効果ガスの排出量を2050年に実質的にゼロにするという「カーボンニュートラル」の方針を表明してから2カ月あまり。政府や企業などから脱炭素に向けた情報が続々と発信されている。

 

こうした流れを決定づけたのは、昨年7月だったのではないだろうか。CO2を多く排出する老朽化した石炭火力発電所について、梶山弘志経済産業相が30年度までに休廃止を促す方針を表明したことが大きな影響を与えたように思う。

 

資源小国の日本にとって、石炭は経済性、エネルギー安全保障の両面で重要な資源だ。価格が安く、世界中に広く分布。世界全体の確認埋蔵量(可採年数)も130年以上あり、長期的に安定した供給が見込める。しかも生産国は政情が安定している国が多く、日本も半分以上を豪州から輸入している。東日本大震災の後、電力供給を支えてきたのも石炭火力だった。

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その石炭火力を、老朽化した非効率な設備に限ってとはいえ、休廃止する方針を示したことで、政府の“本気”を感じ取った人も多かったに違いない。

 

カーボンニュートラルの実現には、何よりもCO2排出量の削減が前提となる。最新鋭の石炭火力でさえ、発電時のCO2排出量は液化天然ガス(LNG)の約2倍。休廃止の対象ではない石炭火力でもCO2削減を進めることが欠かせない。

 

その方法の1つとして、現在とはまったく異なる用途での利用を検討されているのが、化学肥料などの原料として使われるアンモニアだ。

 

燃焼時にCO2を排出しないクリーンエネルギーとして水素が注目されているが、実はアンモニアもCO2を排出せずに燃やすことができる。水素に比べ燃焼速度が遅いアンモニアは石炭との相性がいいとされ、石炭に混ぜて利用すれば、既存の設備を生かしながらCO2を削減できると期待されている。

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東京電力ホールディングスと中部電力が火力発電、燃料調達事業を統合した国内最大の発電会社「JERA」もアンモニア混焼を計画している1社だ。16年から中部電力が検討を進めてきており、早ければ来年度から碧南火力発電所(愛知県碧南市)で実証設備の改造準備に着手。23年度中の実証試験開始を目指している。

 

JERAが計画しているのは20%のアンモニア混焼だ。世界的にみても、事業用の大規模発電所で多量のアンモニアを混焼する例はないという。担当する経営企画本部の坂充貴・調査部長は「今ある設備を使って次の技術を準備するのがわれわれのミッション」と話す。40年以降にはアンモニアだけで発電することも視野に入れている。

 

クリーンエネルギーとしてのアンモニアの活用は世界的にもまだ進んでいない。供給量の不足などサプライチェーン(供給網)に課題はあるものの、いち早く利用技術を確立できれば、技術輸出などで日本が国際的な主導権を握る可能性も広がる。

 

英国のシンクタンク「エネルギーと気候インテリジェンスユニット」によると、日本を含め120以上の国・地域が50年のカーボンニュートラルを表明している。世界最大の温室効果ガス排出国である中国も60年までに達成することを表明した。こうした事実は、新たな環境技術の開発、導入に乗り遅れれば、世界市場で戦えないことを意味している。

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カーボンニュートラルの実現には水素などの新エネルギー利用や蓄電池の性能向上、CO2の再利用など多くの分野で飛躍的な技術革新が必要になる。当然、新技術の開発には多くの時間、費用が必要で、一企業では対応するのが難しい面があるのも事実だろう。

 

日本鉄鋼連盟の橋本英二会長(日本製鉄社長)は12月17日の記者会見で、研究開発に「10年、20年はかかり、個別企業として続けるのは無理だ」と述べ、国の支援が必要であることを率直に吐露した。政府は12月まとめた追加経済対策に、脱炭素の研究開発を加速する2兆円の基金を創設することを盛り込んだが、今後も予算、税制両面で後押しが必要だ。

 

50年を期限とした脱炭素の「30年競争」。日本企業にとって、今年は実質的なスタートの年になるはずだ。その結果は企業の国際競争力だけでなく、日本の国力をも左右する。官民一体となって世界をリードすることが求められる。

 

筆者:高橋俊一(フジサンケイビジネスアイ編集長)

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