同性愛者役を演じた映画『his』へ託す思い・宮沢氷魚インタビュー

Photo Credit: ©2020 ‘his’ Film Partners

 

恋愛映画の旗手・今泉力哉監督の最新作映画『his』が1月24日に全国にて公開された。放送作家・アサダアツシが企画・脚本を手がけたこの作品は、セクシャル・マイノリティー、いわゆるLGBTQを題材とし、前日譚のTVドラマ「his ~恋するつもりなんてなかった~」(2019) で描かれた男子高校生時代の主人公・井川迅とパートナー・日比野渚との出会いからの13年後の物語を紡いでいる。

 

同性愛者であることを隠し、人目を避けるために移り住んだ田舎で自給自足の生活を送りながら静かに暮らす迅。迅が大学の卒業を控えた頃、突然別れを告げ、彼の元を去って行った藤原季節(26)演じるパートナーの渚。

 

8年の時を経て突然迅の前に6歳の娘・空を連れて現れた渚。迅は戸惑いつつも、渚と空との三人での暮らしが始まり、もどかしくも、愛しい彼らの時間が繊細に描かれていく――。

 

主人公の井川迅役には、今注目の若手俳優・宮沢氷魚(25)が抜擢された。本作品が映画初主演となる宮沢さんに映画や役に対する思いを聞いた。

 

 

本作品への出演オファーを受けた時のお気持ちをお聞かせください。

 

LGBTQを題材とした作品に出たいという思いもずっとありましたし、映画初主演ということもあって、オファーを頂いた時はとても光栄に思いました。僕が13年間通っていた男子校でも、幼馴染がゲイやバイセクシャルだったりしたので、それがごく普通のことだと認識していたのですが、卒業して、いざ社会に出た時に、悲しい現実を突き付けられて落ち込む友達とかを見て、いつかLGBTQの作品に出演してそういった方々の声をより多くの人々に届けられればと思っていたので、お話を頂いた時はとても嬉しかったです。

 

宮沢さん演じる「井川迅」とはどういう人物なのでしょうか。

 

30歳になった迅は東京でサラリーマンをしていたのですが、ゲイであることを周囲に知られるのを恐れて、渚と別れた後に白河町に移り住みます。新たな環境で生活を始めるのですが、迅はなかなか自分の気持ちに正直になれず、本当の自分をさらけ出すことを拒み続けていました。大学の頃に付き合っていた渚と別れてからはとても孤独で、自分のことを話せるような人が周りにいなかったので、現実から逃げるようにして都会を後にします。

 

でも物語が動くに連れて、迅も徐々に自分の居場所を見つけたり、周りの人を信用できるようになったりします。でもやっぱりゲイであることは辛いし怖い。プレッシャーや悩みもありますし――。

 

このことに関して事前に知識がたくさんあった訳でもなかったので、とにかく演じていてとても大変でした。

 

では、役作りはどのようにされたのですか?

 

ヒース・レジャーが出演している「ブロークバック・マウンテン」や香港映画「ブエノス・アイレス」など、ゲイのカップルを描いた作品をいくつか見ました。あとは、撮影が始まる前に学生時代の友達とご飯に行ったり、飲みに行ったりして、些細な姿勢や仕草、話し方、食べ方、考え方など、ありのままの彼らを見たり。それはすごくためになりましたね。

 

友達を観察する中で何か印象に残ったこと、役に取り入れようと思ったことなどはありましたか?

 

僕の友達限定かもしれないですが、相手の目をすごく良く見るんです。小さい頃から知っているはずなのに、20年経った今初めてそれに気が付くというのも変ですが……。どこか全部知っているような、全てを見透かされているような感覚になります。

 

彼らが言うには、相手をもっと知りたいがためにとる行動なのだと、特に身近な人に対しては。相手に向き合ってもらえなかったりすることが多いから、相手をちゃんと知るためには人よりも努力する必要があると感じているみたいです。そういったところがすごく興味深いと思って役にも取り入れました。ストーリーを通して迅はあまり話さないので、目線と些細な仕草が彼の考えていることや感じていることを表現するのだと思いました。ある時は相手の目を見ていたり、自分を閉ざす時には目を背けたり――。そのメリハリが、迅が日常生活を送る中でとても重要な要素になったのだと思います。

 

宮沢さんご自身は迅と似ている部分はありますか?

 

そうですね。僕は悩んでいる時もあまり人に話したりせず、一人で解決したいタイプなのですが、迅もそういうところがあると思います。彼も人に相談したり助けを求めたりできなかったので。環境のせいでもあり、もっと人を信用してこなかった彼自身のせいでもあるのですが、僕も似ているところがあるので。あと、僕も迅も静かであるとか、そういうところですね。

 

反対に大きく異なる部分はありますか?

 

僕は、迅のように都会での生活を全部捨てて新しい人生を歩むとなると、怖くてできないと思います。だから迅って静かですが、そうやって環境を変えるところはとても勇気のある行動だと思うし、尊敬します。彼にとっては大きな一歩ですから。

 

映画の中で宮沢さんが特に気に入っているシーンなどありましたら教えて下さい。

 

緒方さんが登場するシーンは個人的に気に入っています。他のシーンは感情的に複雑なことが多い中、迅が唯一自分自身と他人に対して正直になれたのが緒方さんといた時だと思うし、緒方さんがオープンだったから迅も緒方さんを受け入れることができたのではないかと思います。特に、みんなでいのしし鍋を食べるシーンは印象に残っています。とても家庭的で、撮影していても楽しかったです。

 

今泉監督の印象はいかがでしたか?

 

今泉監督とは今回初めてお仕事させて頂いたのですが、とてもユニークな監督だなと思いました。多くの監督は、作品や登場人物に対するビジョンがあったりするのですが、今泉監督の場合は具体的なイメージがなかったため、どのように演じたいかを考える機会を与えられて、逆にそれがとても良かったです。演じ手としては、もちろん、監督に具体的なビジョンがある方がそれに沿って演じればいいので、楽ではあります。でも監督と、どのように演じて、どのようなシーンにしたいのかを相談しながら、スタッフとみんなで作り上げる方が僕は楽しいと思います。みんながもっとそうなれば良いと思いますし、今泉監督はそれを可能にしてくれたので、それがとても良かったです。

 

先ほど、この作品を通してLGBTQである方々の声をより多くの人々に届けたいとおっしゃっていましたが、迅を演じ切った今、目標は達成できましたか?

 

今の時点ではまだ分かりませんが、この映画は今後LGBTQが差別などされない社会へと変わって行くためのきっかけにすぎないと思います。僕、アメリカに2年ほど住んだ経験があるのですが、あちらの方々は日本と比べてLGBTQに対してもっとオープンですし、もっと受け入れられています。なので、この作品を観る人にとって、「世の中には自分とは違う人がいて、違うことは悪いことではない」ということを呼びかける第一歩になればと思っています。

 

まだまだ迅と渚のように、本当の自分をさらけ出せないカップルがたくさんいます。この作品が彼らをもっとオープンにできるかどうか今はまだなんとも言えないですが、ちょっとでもきっかけになってくれればと思いますし、そういった部分では目標は達成できたのではないかと思っていますが、映画公開後も変わらなければいけないことってたくさんあると思っています。

 

この作品に関わってみてLGBTQに対する考えや思いなどの変化はありましたか?

 

撮影を通してだけではなく、完成した作品自体からも多くを学びましたが、ずっとそれが普通だと思ってきていたので、この作品を撮り終えてLGBTQに対する考えや思いなどに大きな変化というのは特になかったです。

 

インターナショナル・スクール、それも男子校に通っていると自然と普通のこととして認識するのかもしれないですね。僕の親友もゲイですし、アメリカにいた頃は男性に告白されたりしたこともあってそれはそれで嬉しかったので、特に彼らに対するイメージが変わったとかはないと思います。

 

映画ではLGBTQのみならず、「家族のあり方」も大きなテーマの一つとなっていると思うのですが、宮沢さんにとって家族とは何を持って「家族」だと思いますか?

 

ついこの間今泉監督とも似たような話をしたのですが、現代社会において、「家族」というのは様々な形があるから、監督は「家族」という言葉を使うことに対してとても慎重でした。

 

日本では「一般的な家族」というと、お父さんがいて、お母さんがいて、子供達がいて、おじいちゃんやおばあちゃんもいる、まさにサザエさんのような家族を「普通の家族」だとすり込まれていると思うのですが、決してそれが普通だとは限らないんです。ゲイのカップルが子育てしているのも家族ですし、片親しかいなくても家族ですし、祖父母に育てられても家族です。だから家族の形やあり方に正解はないですし、お互いを愛していて、相手のためならなんでもできる、自分が自分らしくいれたらそれが結果「家族」になるんだと思います。

 

本当は宣伝用のチラシのキャッチコピーが「家族」に関する言い回しになる予定だったのですが、監督も「家族」という言葉を使いたくなったみたいで、「家族じゃなくて良いです。思いやることが大事」と言っていました。僕も同感です。

 

最後に、この映画を観る人に一番伝えたいことはなんですか?

 

映画を観た人はみんなそれぞれ良かれ悪かれ思うことがたくさん出てくると思います。でもそうすることによってこの問題について考える機会ができますし、劇場を後にするときにLGBTQ を調べてみたり、そういう方々がいるということを認識するだけでも良いと思います。特に日本の社会にとっては大きな第一歩になると思うので、そのきっかけに是非なってくれればと思います。

 

筆者:田中紫

 

 

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Yukari Tanaka

Author:

Yukari Tanaka is a freelance journalist/writer specializing in art, culture, and entertainment. She was born and bred in Europe. University of San Francisco and Sophia University Graduate School of Global Studies alumni. She is a pentalingual (English, Japanese, Korean, Italian, and French), and has an all-out love for penguins.

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