新型肺炎で分かった緊急事態条項の必要性

 

 

中国湖北省武漢で発生した新型コロナウイルスによる肺炎の感染者は2月2日現在、中国本土で1万人を超え、死者も300人以上に達した。感染は日本をはじめ世界26の国と地域に拡大している。世界保健機関(WHO)は緊急事態を宣言し、わが国も出入国管理法に基づき、過去2週間以内に湖北省滞在歴のある外国人及び湖北省発行の中国旅券所持者の入国を拒否することになった。また、政府は同肺炎を検疫法の「検疫感染症」、感染症法の「指定感染症」に指定、感染症法に基づき、感染が疑われる入国者の健康診断や患者の就業制限、強制入院なども行うことができるようになった。

 

 

政府の対応制約した法制度の不備

 

やや遅きに失した感もなくはないが、安倍内閣が感染症の疑われる特定外国人の入国を拒否したことは、従来にない処置として高く評価すべきだ。また、通例と異なり、新型肺炎を「指定感染症」などとする政令の施行期日を前倒しにして実施したことも評価できる。

 

しかし、感染症法上、エボラ出血熱などと異なり感染者の「隔離」は行えないから、武漢からチャーター機で帰国した日本人について、諸外国並みに一時隔離を強制することはできなかった。

 

わが国では、帰国者のほとんどが政府の手配した施設での宿泊を希望し、結果的に一時隔離することはできたが、今後、法制度の整備が必要であろう。しかし、問題は法律の整備だけで大丈夫かということである。

 

 

憲法に緊急事態条項を

 

というのは、平成23年の東日本大震災の折には、憲法の保障する職業選択の自由(経済活動の自由)や財産権等との兼ね合いから、災害対策基本法で定められたガソリン、灯油の買い占め制限もできず、瓦礫と化した家屋や家財等の処理にも支障が生じたからである。

 

法律の整備は必要だが、併せて憲法上の根拠規定についても考える必要がある。なぜなら、例えば先に述べた新型コロナウイルス感染者の隔離にしても、たとえ法律の整備ができても、憲法の保障する「居住移転の自由」や「身体の自由」を一片の法律で制限して良いのかなどといった異論や批判が必ず出てくると思われるからである。

 

今回、伊吹文明元衆議院議長や日本維新の会の馬場伸幸幹事長らが、国家的な緊急事態を克服し国民を守るための緊急事態条項の必要性に言及した。ところが、立憲民主党の枝野幸男代表は「感染症の拡大防止はあらゆることが現行法制でできる。憲法とは全く関係ない」と耳を疑う発言をしている。

 

国民の間でも「果たして今のままで良いのか」との素朴な疑問が生じてきている。国会議員諸公にはこの常識的な疑問を率直に受け止め、国民の生命と健康を守るための法整備と憲法改正の必要性について真剣に議論していく重大な責務があることを、強く自覚して欲しいと思う。

 

筆者:百地章(国基研理事・国士舘大学特任教授)

 

 

国家基本問題研究所(JINF)「今週の直言」第655回・特別版(2020年2月3日付)を転載しています。

 

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Author:

Akira Momochi is a director of the Japan Institute for National Fundamentals and a special professor at Kokushikan University.

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