武漢ウイルスと呼ぶべき訳

 

世界で蔓延(まんえん)する肺炎を引き起こす新型コロナウイルスを何と呼ぶのがいいか。WHO(世界保健機関)は「COVID(コビッド)―19」と名付けたが、覚えにくいこの病名はあまり流通していないしピンとこない。歴史に残るであろう災厄なのだから、もっと明快な呼称がふさわしい。

 

 

責任転嫁を狙う中国

 

「『武漢熱』などと差別的な表現をする自民党議員がいる」

 

立憲民主党の蓮舫副代表は2月15日、ツイッターでこう指摘した。特定の地名と結び付けることは、風評被害や差別を助長しかねないとの懸念からだろう。とはいえ責任回避をもくろむ中国の姿勢をみると、地名や国名を外すことはむしろ弊害を生むのではないか。

 

米国では、政府高官がこのウイルスについて「中国ウイルス」(トランプ大統領)、「武漢ウイルス」(ポンペオ国務長官)とはっきり呼んでいる。これはゆえないことではない。

 

オブライエン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は今月11日の講演で、ウイルスに関する中国政府の初動の対応について「隠蔽(いんぺい)活動だった」と断じ、こう強く批判した。

 

「そのせいで世界各国の対応が2カ月遅れた」

 

香港紙も13日にウイルスの最初の感染者は中国・湖北省で昨年11月に発症したと伝えており、トランプ氏が同日、次のように述べたのは当然だろう。

 

「中国はウイルスがどこから来たか分かっている。米国もウイルスの出所を知っている」

 

一方、中国は責任逃れの態度をあらわにするだけでなく、露骨に他国に責任転嫁しようと試みている。中国外務省の趙立堅報道官は12日、根拠も示さずツイッターに「米軍が武漢に感染症を持ち込んだのかもしれない」と書き込んだ。

 

米国は国防総省のファラー報道官がやはりツイッターで「中国共産党は事実と異なるばかげた陰謀論を広めている」と反論したが、もともと事実よりも政治的効果を重視する中国は、今後も米国だけでなく、わが国を含めた他国に罪をなすりつけようとするだろう。

 

実際、中国外務省の耿爽(こうそう)報道官はトランプ氏の「中国ウイルス」発言に対し、「強烈な憤り」を表明している。まるでウイルスが中国とは無関係だと言わんばかりである。

 

ポンペオ氏も16日の中国の外交担当トップ、楊潔篪(よう・けつち)共産党政治局員との電話会談で「今はデマを拡散したり奇怪な噂を流したりしている場合ではない」と強調した。中国による「世界規模の情報操作」(米国務省高官)が始まっている。

 

 

曖昧な呼称は無責任

 

問題は、日本ではこうした場合にすぐ「どっちもどっち」だの「泥仕合」だのと安易に相対化したり、「どっちでもいい」と単純に見たりする向きが少なくないことである。東洋学園大の櫻田淳教授は18日のフェイスブックで次のように戒め、呼称の重要性を訴えている。

 

「米中両国の非難の応酬を、危機の最中に相応しからざる『子供の喧嘩(けんか)』の次元で理解してはなるまい」

 

「米中確執の行方は、来るべき世界の姿に直接に関わっている。不肖・櫻田は、中国に類する権威主義国家の意向が幅を利かせる世界の到来を望まない故に、『武漢ウイルス禍』という呼称を続けることが大事であると思っている」

 

日本では麻生太郎副総理兼財務相が10日、「武漢ウイルスなるもの」と発言したことがマスコミで批判的に伝えられていた。だが、呼称を曖昧にして中国をかばい、その宣伝戦を野放しにするのは、世界の一員として無責任だといえる。

 

筆者:阿比留瑠比(産経新聞論説委員兼政治部編集委員)

 

 

2020年3月19日付産経新聞【阿比留瑠比の極言御免】を転載しています

 

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Author:

Rui Abiru is Editorial writer and political section editorial staff member.

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