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「生命を守る産業」が主役に 専制国家・中国の超大国化は決してない―仏経済学者 ジャック・アタリ氏

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疫病の流行は世界史の転機となってきた。フランスの経済学者で思想家のジャック・アタリ氏はその歴史をひもとき、新型コロナウイルス禍を機に、他者への共感を重視し、「生命を守る産業」を中心とした経済・社会への転換を唱える。

 

 

◆危機始まったばかり

 

―新型コロナ危機による経済、社会への影響とは

 

危機は非常に深刻だ。始まったばかりだと言っていい。感染による直接の被害がそれほど大きくなかった国も世界的な不況に巻き込まれ影響を受けることになる。過去1世紀で最悪の事態になるかもしれない。

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こんな状況の中、人々の間で『社会を別の形に変えねばならない』という意識が芽生えている。そのためには現在の経済の方向を変えて『生命を守る産業』に集中する必要がある。『生命を守る産業』とはすなわち、衛生や食糧、エネルギー、教育、医療研究、水資源、デジタルや安全保障、民主主義にかかわる生産部門のことだ。だれかを守り、他者への共感を重んじる利他的な産業へとシフトせねばならない。

 

―疫病は世界をどう変えてきたのか

 

疫病は社会のシステムを変える力を持つ。欧州大陸では疫病が猛威をふるう度、社会に根付いていた信仰や支配のシステムが信用を失い、失墜した。古い支配者に代わって新たな権威が正当性を獲得した。

 

欧州では14世紀、ペストの流行で人口の3分の1が死んだ。支配層だった(カトリック教会という)宗教的権威は救いを求める人たちの生命を救えなかったばかりか、精神的救いを求める人々に死の意味すら示すこともできなかった。教会の権威は衰え、聖職者に代わって警察が力を持つようになった。

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18世紀末には死の恐怖から人々を守る存在として医師が警察にとって代わった。疫病が近代国家を生んだのだ。迷信や宗教的権威に対し、科学の精神が優位に立つようになった。今回のコロナ危機では利他主義で『生命を守る産業』が確実に勝者となるだろう。

 

―欧米は多くの死者を出し、中国の医療品に頼った。西洋の地位低下を招くという声も出ている

 

西洋の凋落(ちょうらく)? そうなるかもしれない。しかし、中国が米国に代わる超大国になることはない。それを中国が目指しているとも思わない。実際、米国は世界40カ所以上に軍事基地を構えているのに、中国の海外基地は1つ(アフリカ東部ジブチ)しかない。さらに中国は食糧など、内政に非常に大きな問題を抱えている。専制国家が世界的な影響力を持つ超大国になることは決してない。

 

―新型コロナ対策で結束できなかった欧州連合(EU)は弱体化するか

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アジアでは韓国やベトナムがウイルスの広がりをうまく食い止めた一方、欧州の対応は遅かった。われわれには(大規模なウイルス禍のような)経験がなかったからだ。EUでは(経済対策のための財政出動に伴う)債務への対応でも対立が続いた。

 

それでも欧州は生命を守る産業と関連するすべての経済分野で強みがある。それにEUでは今、英国に続き『離脱したい』という国は皆無だ。それどころか10カ国近くが今も加盟を望んで、扉をたたいている。

 

 

◆暗い面ばかりでない

 

―世界はどこに向かうのか。悲観論も少なくない

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従来とまるで異なる、新たな開発モデルに進まねばならない。今回の危機はみんながその必要性に気づく機会になる。暗い面ばかりでなく、前向きに考えようではないか。

 

他者を守るために動く社会こそ、われわれが目指すべき方向だ。生命を守る分野で、自立できる産業力を築かねばならない。道のりは長い。その途中、経済戦争を乗り越えねばならないだろう。それでも考え方を新たにして、希望をもって進んでいこう。

 

聞き手:三井美奈(産経新聞パリ支局長)

 

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■ジャック・アタリ

ミッテラン仏大統領顧問や欧州復興開発銀行の初代総裁を歴任。2007年、サルコジ大統領が設立した「経済開放委員会」議長に就き、マクロン現大統領の政界入りにも道を開いた。76歳。著書に「国家債務危機―ソブリン・クライシスに、いかに対処すべきか?」など。

 

 

2020年5月10日付産経新聞【コロナ 知は語る】を転載しています

 

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