科学と政治:日本の捕鯨についての嘘と歪曲を糺す

30年以上に及ぶ対立

 

捕鯨は鯨類という海洋生物資源を持続可能な形で利用する正当なhunting activityである。

 

資源として豊富な種もあれば過去の乱獲の結果その数が少ない種もあり、80種類を超える全ての種が絶滅の危惧にあるような主張は単純に誤りである。さらに、国際捕鯨委員会(IWC)の科学委員会は1992年には既に資源が豊富な種、例えばミンククジラなどの資源を枯渇させることなく利用できる捕獲枠の計算方式を開発し、満場一致で採択している。

 

当時の科学委員会議長フィル・ハモンド博士は「自然資源管理の科学における、最も興味深く、かつ、潜在的に極めて広範な意味を持つ問題の一つがついに決着した。IWCは商業捕鯨を安全に管理するためのメカニズムを設立することが可能だ」と語った。

 

しかし、世界には、捕鯨は野蛮である」「環境破壊である」とし、鯨を人と同等の生物とみて、一頭たりとも捕獲を認めないという立場をとる国も存在する。捕鯨は国際的にも既に禁止されているという誤解も存在する。

 

この相容れない考え方が30年以上にわたって対立し、IWCで度重なる妥協の模索も全て失敗に終わってきた。

 

反捕鯨派は全ての商業捕鯨の終焉を目指して持続的利用を支持する日本などの国々に政治的、経済的、外交的な圧力を加え続けてきた。他方、持続的利用支持国は資源量が豊富な種について、IWCが開発した科学的方式に基づく捕獲枠を遵守する捕鯨の再開を求めてきた。持続的利用支持国からすれば、なぜ鹿やカンガルーのhunting は許されて、鯨類のhuntingは許されないのかという強い疑問と憤りがある。そのため、反捕鯨国の一方的な圧力、鯨類に関する価値観の押し付けを環境帝国主義、環境植民地主義と呼ぶ主張がある。

 

思い込み、誤解…

 

いくつか事実関係を明確にしておきたい。捕鯨論争の中には単なる思い込みや誤解が対立を生んでいるという側面もあると思われる。

 

例えば1982年に採択された「商業捕鯨モラトリアム」である。これを持って全ての商業捕鯨が国際的に永久に禁止されているというイメージが強いが、実はそうではない。モラトリアムに関する国際捕鯨取締条約の附表第10(e)という規定を素直に読むと、商業捕鯨を一時停止し、その間に科学的データなどを収集・検討して、ゼロ頭以外の捕獲枠を検討するとしており、むしろ捕鯨再開手続の規定である。

 

また絶滅危惧種である鯨類を捕獲することは環境破壊であるという批判がある。もし事実であれば全くその通りだが、IWCの科学委員会自身が絶滅の危機に瀕していないと認めた種が数多くある。持続的利用支持国は資源が豊富な種のみを対象とし、捕獲上限を明確に定めた捕鯨を支持しているのだ。

 

モラトリアムの採択で、商業性のある捕鯨は禁止すべきという風潮も強まった。導入理由は、捕鯨管理における科学的データに不確実性が有ったからであり、商業性が理由ではなかったことを考えると、この商業性をめぐる批判は理由のすり替えに他ならない。商業性や金銭の関与がない活動の方が例外的であり、捕鯨についてのみ商業性を問題とする合理的な理由が見出しがたい。

 

IWC脱退は新たな枠組みのスタート

 

鯨類などの海産哺乳動物を保護することが環境保護のシンボルとなっている。

 

海洋生態系の中での海産哺乳動物の役割は重要であり、絶滅を阻止することは当然だ。しかし反捕鯨国の立場は、捕鯨は一頭たりとも許さないという強硬なものであり、これは環境保護ではなく、動物愛護、あるいは動物愛護の名を借りた鯨類に関する特定の価値観の押し付けであろう。

 

米国、カナダの専門家の共同研究によれば1990年以降2009年までの間、少なくとも114か国で少なくとも87種の海産哺乳動物が消費された。そのうち少なくとも54か国で、海産哺乳動物の捕獲は経済的利益をもたらした。世界では広く鯨類を含む海産哺乳動物の利用が行われているのだ。

 

IWCは異なる価値観の共存すら受け入れない機関へと変容した。ノルウェー、アイスランド、米国、ロシア、デンマーク(グリーンランド)、セントビンセントも捕鯨を行っている。しかし、その捕鯨を管理するという目的は、鯨類を捕獲すべきではないという主張のために、管理された捕鯨の否定という結果を導いた。

 

捕鯨は行われており、これからも続く。捕鯨を管理しなければならないというニーズがあり、これは国連海洋法条約の求めることでもある。IWCはその役割を放棄することを2018年9月の第67回総会で宣言したのである。

 

日本のIWC脱退の大きな理由はここにある。国際社会に背を向けて、無規制な捕鯨を行うことが目的ではない。鯨類を持続可能な海洋生物資源としてみる立場の国々があり、資源が豊富な鯨類を枯渇させることなく利用できる科学の成果があり、国際法が鯨類資源の国際管理を求めている事実がある中で、IWCは鯨類資源の管理を拒否した。日本は鯨類資源の国際管理の仕組みを実現していく義務があると考える。脱退はゴールでもなければ捕鯨問題の終焉でもない。新たな管理の枠組みの確立に向けてのスタートである。

 

 

筆者:森下丈二(東京海洋大教授・海洋政策文化学部門)

 

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Joji MORISHITA, PhD

Author:

Joji MORISHITA,PhD is professor, Tokyo University of Marine Science and Technology. He was Director-General of Japan’s National Research Institute of Far Seas Fisheries from 2013 to April 2016. He currently serves as Japan’s Commissioner to the International Whaling Commission (IWC). He served as IWC’s Chair from 2016 to 2018. He also serves as Chair of the Scientific Committee of the North Pacific Fisheries Commission (NPFC). Furthermore, he represents Japan at the Commission for the Conservation of Antarctic Marine Living Resources (CCAMLR), the Meeting on High Seas Fisheries in the Central Arctic Ocean, and other international ocean and environmental meetings.

PhD (Agriculture), Kyoto University, Master of Public Policy (MPP), Harvard University. BS, Kyoto University.

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