日本の安全保障に大きな影を落とすF-35Aの事故

 

4月9日に発生した航空自衛隊のステルス戦闘機「F35A」の墜落事故をめぐって、さまざまな憶測が飛び交っている。軍事専門家は第5世代で世界最新鋭の戦闘機にいったい何が起きたのか、見極めようとしている。

 

墜落は、先端技術が詰まった機体の異常によって引き起こされたのか。あるいは、パイロットや地上整備員による人的なエラーが原因なのか。

 

いずれにせよ、どんな原因であれ、今回のF35Aの墜落事故は世界で初めてであり、各国の軍事関係者が事態の推移を注視している。

 

F35は「ライトニングⅡ統合打撃戦闘機(JSF)」の名称で知られ、米ロッキード・マーチン社製だ。同社によると、2019年4月時点で3000機以上の建造が計画され、すでに世界中で380機以上が引き渡された。

 

  • いったい何が起きたのか

 

F35Aの墜落事故は、4月9日の夜間戦闘訓練中に発生した。

 

空自によると、墜落機は三沢基地に配置されている第3航空団第302飛行隊に所属。9日午後6時59分に、空対空の戦闘を想定した訓練のため、他の3機と三沢基地を離陸した。

 

操縦士の細見彰里3等空佐(41)は同日午後7時26分ごろ、他の3機に「訓練中止」と無線で告げた。そして、その1分後、三沢基地の東約135キロの太平洋上でレーダーから機影が消えた。

 

F35は単座機だ。細見3佐は事故当時、4機編隊の編隊長を務めていた。

 

岩屋毅防衛相は10日の記者会見で、三沢基地に配備されている残りの12機のF35Aの飛行を当面見合わせることを明らかにした。この決定は、青森県沖の西太平洋上の現場海域周辺で尾翼の一部が発見され、事故が墜落と断定されたことを踏まえたものだ。

 

墜落機には緊急脱出装置が装備されていた。しかし、操縦士に装着され、無線で救難信号を発信する装置「ビーコン」も作動していないことから、パイロットは操縦席からパラシュートで脱出できなかったとみられる。

 

事故原因を究明するため、防衛省は事故直後に航空幕僚監部内に事故調査委員会を設置した。以来、再発を防ぐためにも、事故原因の究明を続けている。

 

  • 考えられる事故原因

 

墜落の原因としては、少なくとも3つが考えられる。

 

1つ目としては、操縦士が訓練中に機体の位置や状況の認識ができなくなる「空間識失調(バーティゴ)」に陥り、操縦不能に陥った可能性が考えられる。細見3佐は飛行時間約3200時間のベテランで、F35の飛行時間も約60時間を有していた。しかし、どんなベテランパイロットでも稀に、この空間識失調にかかることが知られている。

 

2つ目の可能性としては、過去に米国で発生したように、エンジントラブルといった機体の異常が考えられる。例えば、F35Aは2014年6月、米フロリダ州のエグリン空軍基地で離陸時にプラット・アンド・ホイットニー製F135エンジンから火災が発生した。両ケースとも、F35Aのみならず、F35BとF35Cもが一時飛行停止となった。

 

3つ目としては、墜落機で機上酸素発生装置のトラブルが起きた可能性がある。現に米政府監査院(GAO)が2018年6月に公表した報告書によると、2017年5月から7月にかけて、F35Aのパイロットには低酸素症のような症状に見舞われる事案が6件も相次いで発生した。

 

この報告書では、2018年1月時点で966件の技術的問題が見つかったと指摘されている。F35は最先端のハイテクセンサーを搭載し、かつてないほどのハイテク戦闘機である。これまでもF35をコントロールするソフトウエアに多くのバグが見つかり、開発計画を難航させてきた。

 

墜落機は、愛知県の三菱重工業小牧南工場の最終組み立てと検査(FACO)施設で組み立てられた国内初号機だ。この墜落機は2017年と18年の過去2回、飛行中に冷却系統などの不具合が発生し、緊急着陸していた。(ただし、防衛省はあくまで「予防着陸」とみなしている。)

 

今回の事故は、運用中の通常離着陸型のF35Aとしては世界初の墜落となったが、2018年9月には短距離離陸・垂直着陸型で米海兵隊仕様のF35Bが米サウスカロライナ州で初めて墜落した。この墜落原因については今も公表されていない。

 

F35Aの空自三沢基地への配備は2018年1月から始まり、2019年3月26日にF-35Aを有する302飛行隊が発足した。米マクダネル・ダグラス製を三菱重工がライセンス生産した第3世代のF-4EJ戦闘機の後継機となっている。

 

  • 日本の安全保障への影響

 

日本の次期主力戦闘機としてF35Aへの依存度が高まっているなか、今回の墜落は防衛省や航空自衛隊に大きなショックを与えている。

 

2018年度版の防衛白書によると、空自は2018年3月末時点で、F35Aを4機、主力戦闘機である第4世代のF15を201機、日米で共同開発された第4世代のF2を92機、第3世代のF4を52機それぞれ有している。F4はベトナム戦争でも名を馳せ、全機が2020年度に退役する予定だ。

 

安倍内閣は2018年12月、F35を将来的に147機体制とする方針を閣議了解した。F35Aは当初予定の42機からさらに63機を追加購入。さらにF35Bも42機調達する方針を決めた。追加取得の総額は少なくとも約1兆2000億円に上る見通しだ。F35Aは1機当たり約140億円になる。

 

F35Bの42機については、ヘリコプター空母の「いずも」と同型の「かが」が艦載機として運用を予定。これに合わせ、甲板などが改修されることになっている。

 

将来的には、現在はF4、F15、F2、F35Aの4機種体制が、2030年代後半にはF15とF2がともに退役と減勢を迎え、F35とF3(F2後継機)の2機種体制になる見込みだ。これはF35への依存度がぐっと高まることを意味する。今回のような事故や安全性に関わる問題が起きた場合、空自の戦闘機の大半が飛行停止措置になってしまう。

 

実際、2007年には一時的とはいえ、F15とF2が同時に飛行停止となり、老朽化したF4のみが日本の空を守る事態に陥ったこともある。3機種体制を維持し、このような事態の再発は何としても避けなければならない。

 

著者: 高橋浩祐(ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー東京特派員)

 

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Kosuke Takahashi

Author:

Kosuke Takahashi is a journalist. He is ‎Tokyo correspondent of IHS Jane’s Defence Weekly. He worked for The Asahi Shimbun, Bloomberg News, Huffington Post Japan editor in chief and Thomson Reuters. Born in 1968, Takahashi is a graduate of Columbia University’s J-School and SIPA.

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