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香港の民主活動家14人が30日、香港国家安全維持法(国安法)の国家政権転覆共謀罪で有罪判決を受けた。14人は立法会(議会)を舞台に、普通選挙の導入など香港の民主化を実現しようと活動していたに過ぎない。民主国家では正当な政治活動が重罪に認定された形で、国際社会から「民主主義は犯罪ではない」と反発の声が上がっている。
裁判官は行政長官が指名
「(予算案を否決され)政府が市民の生活向上のための政策を行えなくなれば憲政の危機だ」
香港高等法院(高裁)は判決でこう断じた。審理した3人の裁判官は国安法案件専門の判事らで、香港トップの行政長官によって指名されている。
有罪判決を受けた14人が目指していたのは、行政長官選や立法会選における普通選挙の導入などだ。その第一歩として、当初2020年9月に予定されていた立法会選で民主派が過半数の議席を獲得することを目標に掲げた。懸念された民主派候補の乱立を避けるため、全有権者を対象に同年7月11、12日に実施されたのが予備選だった。約61万人の市民が投票している。
予備選を企画した民主派の理論的支柱で、元香港大准教授の戴耀廷氏(同様に国家政権転覆共謀罪で起訴されたが罪を認め、有罪は確定)は、立法会で過半数を獲得した後のプロセスを次のように考えていた。
<立法会で予算案を否決し行政長官に立法会を解散させる→選挙で再び民主派が過半数を獲得する→立法会で予算案を再否決する>
議会闘争で圧力の思惑
香港基本法(ミニ憲法)の規定では、予算案が2度否決されると行政長官は辞職しなければならない。こうした議会闘争で政府に圧力をかけることによって、香港の民主化の実現を目指す思惑だった。
これに対し、検察側は「予算案を無差別に否決し立法会を解散させ、最終的に行政長官を辞任に追い込む。計画の目的は国家政権転覆にある」と主張した。
国安法の22条は、国家政権転覆罪に関し「武力やその威嚇、または不法な手段で国家政権の転覆を狙う行為を組織、実施する」ことなどと規定する。国家政権転覆行為についても「香港の政府機関の機能遂行を著しく妨害、阻害、破壊すること」などと定めており、立法会の解散や行政長官の辞任を迫る行為がこれに該当するという論理である。
争点は「不法な手段」
23年2月に始まった裁判で焦点となったのは、「無差別に予算案を否決する行為」が果たして、22条で規定された「不法な手段」に当たるか否かだった。
民主派側は「条文中の『不法な手段』はあくまでも武力に関係する手段であり、平和的な手段は含まれない」と主張したが、判決では「国安法は、香港独立の主張など非暴力行為によっても国家の安全は損なわれると規定している」と民主派の主張をしりぞけた。
無罪が認められなかった14人の中には、元ネットメディア記者の何桂藍さんや元看護師の余慧明さんら、19年の反香港政府・反中国共産党デモに参加し、民主活動家に転じた30代の若者も含まれている。
国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)は30日、この日の判決について「平和的行為を有罪」とし「民主的政治プロセスと法の支配を完全に無視したものだ。民主主義は犯罪ではない」と非難した。
筆者:藤本欣也(産経新聞)