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国産初となる新型コロナウイルス感染症の飲み薬として、塩野義製薬が開発した「ゾコーバ」が緊急承認された。基礎疾患のない軽症・中等症患者向けの飲み薬としても初の承認である。
軽症者らの治療の幅が増えることは、本格化しつつある第8波で感染を抑止するための布石となる。効果的に使用し、経済・社会活動との両立につなげたい。
そのためにも厚生労働省は、十分な量のゾコーバを確保し、円滑な供給に努める必要がある。
気を付けたいのは、軽症者らがゾコーバを求めて発熱外来に殺到する事態である。そうなれば、第8波で再び医療現場の混乱を招くことになりかねない。
かねて政府は、感染再拡大で発熱患者が急増したときの対応策として、重症化リスクの低い患者は自己検査や自宅療養を行うよう求めてきた。感染者にすれば、どれほど症状が重ければ、自宅療養ではなく発熱外来でゾコーバが処方されるのかが分かりにくい。
政府はオンライン診療の利用を促すだけでなく、もっと丁寧に感染者への情報発信をすべきだ。
感染の再拡大を抑え込むためには、ゾコーバだけではなく、既存の薬も個々の特性を生かして活用すべきはもちろんである。
ゾコーバの対象となるのは高熱、強い咳(せき)や喉の痛みのある軽症・中等症患者だが、日本感染症学会は高齢や基礎疾患などで重症化リスクのある人にはファイザー社のパキロビッドなどによる治療を検討すべきだとしている。
パキロビッドは高い効果があるにもかかわらず、併用できない薬が多いことなどが敬遠され日本での使用が低迷している。専門家には、医療現場がパキロビッドの適切な使用を増やすことで救命率を高められるという指摘もある。
ゾコーバも併用できない薬が多い。パキロビッドと同様、やみくもに処方が敬遠されては元も子もない。厚労省や学会は、医療現場がさまざまな治療薬を駆使して最適な医療を提供できるよう促していかなくてはならない。
一方、コロナ禍が始まって3年近くが経過し、ようやく国産の飲み薬が承認されたことも厳しく受け止めたい。国産医薬品を開発・製造できるかどうかは、有事の安定供給を確保する上で極めて重要である。政府は研究開発を促す支援に万全を期すべきだ。
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2022年11月25日付産経新聞【主張】を転載しています