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Prime Minister Fumio Kishida and US President Joe Biden shake hands during their summit meeting at the White House on March 10. (© Kyodo)

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岸田文雄首相が、米ワシントンのホワイトハウスでバイデン大統領と会談した。

 

会談の特徴は、同盟の抑止力・対処力を迅速かつ確実に向上させる防衛・安全保障協力に重点を置いたことだ。共同声明は「地域の安全保障上の課題が展開する速度を認識」し、同盟が「重要な変化に対応できるようにする」と明記した。

 

日米が抑止の努力を怠れば、日本有事につながる台湾有事が生起しかねない厳しい安保情勢への危機感があるからだろう。戦争を起こさないための方策を打ち出した両首脳の合意を支持し、確実な実践を求めたい。

 

フィリピン・マニラ首都圏の中国総領事館前で、南シナ海での中国の行動を抗議する活動家たち=4月9日(ロイター)

 

指揮統制の連携必要だ

 

両首脳の国際情勢認識も妥当だった。共同声明は「世界の安全と繁栄に不可欠の要素」だとして「台湾海峡の平和と安定を維持する重要性」を訴え、両岸問題の平和的解決を促した。東・南シナ海での中国による力または威圧による一方的な現状変更の試みや、北朝鮮の核・ミサイル開発に強く反対した。拉致問題の即時解決へ米国は協力を約束した。

 

「ロシアのウクライナに対する残酷な侵略戦争」を非難し、対露制裁とウクライナ支援を確認した。中東ではハマスなどのテロを非難し、イスラエルの自衛の権利を確認しつつ、ガザ地区の人道状況に深い懸念を表明した。

 

ワシントン郊外のアーリントン国立墓地を訪問する岸田首相=4月9日(首相官邸提供)

 

共同声明は日米が「グローバル・パートナー」として防衛や経済安保、先端技術、宇宙などでの連携を強化するとした。

 

自衛隊と米軍がそれぞれ指揮・統制枠組みを向上させ、防衛装備品の共同開発、生産・整備の役割分担に関する協議体(DICAS)を設立する。

 

他の同志国との安保協力推進を掲げた点も対中抑止のネットワークを作る上で評価できる。米英豪3カ国の安全保障枠組み(AUKUS)と日本の先端技術開発での協力検討や、日米韓、北大西洋条約機構(NATO)などの連携推進である。

 

指揮・統制枠組みの向上は日本が今年度末に、陸海空自衛隊を一元的に指揮する「統合作戦司令部」「統合作戦司令官」を置くことを踏まえたものだ。

 

米インド太平洋軍の司令部はハワイという遠隔地にあるため作戦行動の齟齬(そご)が生じる恐れがある。そこで、今は作戦指揮権を有しない在日米軍司令部の機能を強化する方向だ。自衛隊と米軍が作戦立案や部隊運用で日常的に連携し、より効果的に戦える態勢をとれれば画期的だ。抑止力はそれだけ高まる。

 

ただし、日本は独立国だ。林芳正官房長官が11日の会見で説明したように、自衛隊と米軍は独立した指揮系統で運用されるべきである。

 

バイデン大統領は「日米同盟は歴史上かつてないほど強固だ」と語った。さらに、日本の反撃能力の保有、防衛費とそれを補完する関連予算を合わせ国内総生産(GDP)2%へ増額する計画、防衛装備移転三原則の指針改正を歓迎した。

 

公式晩餐会で乾杯するバイデン大統領と岸田首相=4月10日(首相官邸提供)

 

日本の存在感は増した

 

東アジアやインド太平洋地域、世界の平和と安定は米国だけでは守り切れない時代である。中露、北朝鮮という専制国家の至近に位置する先進7カ国(G7)の国は日本だけだ。日本の国際政治上の役割と存在感は世界第2位の経済大国だったころよりも、むしろ今の方が大きい。だからこそ岸田首相は国賓待遇になった。

 

日米の安保協力には「米国の戦争に巻き込まれる」という懸念の声もあるが、それは大きな間違いだ。中露や北朝鮮の脅威は、米国よりも日本にとっての方が大きい。

 

日本は尖閣諸島(沖縄県)を含め自国の領域と平和、繁栄を守るため、安保問題で米国をむしろ巻き込み、同盟の抑止力向上で平和を保たなければならない立場にある。

 

その点からも岸田首相の訪米には意義があった。防衛力の抜本的強化を進める岸田首相がバイデン大統領に「日米がグローバルなパートナーとして真価を発揮すべきときだ」「日本は常に米国とともにある」と述べたのは説得力があった。

 

バイデン大統領は、日米安保条約第5条の下で、核戦力を含むあらゆる能力で日本防衛に関わると表明した。両首脳は外務・防衛担当閣僚に対し、次回の日米安全保障協議委員会(2プラス2)で日本の防衛力増強に伴う米国の拡大抑止の在り方を協議するよう求めた。核抑止を含めあらゆる局面の防衛態勢の検討は急務である。

 

 

2024年4月12日付産経新聞【主張】を転載しています

 

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