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旧優生保護法(昭和23年~平成8年)下で遺伝性疾患や障害を理由に不妊手術を強いられた被害者らが国に損害賠償を求めた訴訟の上告審で、最高裁は「旧法は憲法違反」として国の賠償責任を認める判断を示した。
「不良な子孫の出生防止」を目的とした旧優生保護法は、憲法が掲げた個人の尊重(13条)、法の下の平等(14条)の精神に著しく反する。法の下で行われた「戦後最大の人権侵害」の重大性を鑑(かんが)みれば、民法(当時)の除斥期間=不法行為から20年で損害賠償請求権が消滅する=を理由に国が責任を免れることは正義・公正の理念に反する。当然の判断だ。
旧優生保護法のもとで不妊手術を受けた人は約2万5千人で、このうち1万6500人は本人の同意がなかったとされる。政府は同意の有無、裁判の原告か否かにかかわらず、全ての被害者に対して真摯(しんし)に謝罪し、早急に救済措置を講じなければならない。
平成30年に宮城県の女性が仙台地裁に国家賠償を求めて初めて提訴し、各地に広がった。翌年4月に被害者に一時金(320万円)を支給する特別法が成立し当時の安倍晋三首相が「おわび」の談話を発表したが、謝罪も補償も不十分である。
国は除斥期間を理由に「補償はしない」という立場をとり続けた。法の下で人権を侵害された被害者に対し、除斥期間の例外とすると法秩序を著しく不安定にする―と国は主張した。被害者の苦痛、悲しみから目を背けた国の姿勢に対し、最高裁が「信義則に反し、権利の乱用として許されない」としたのは、もっともである。
最高裁が国に突き付けたのは過去の過ちの清算だけでなく、令和6年7月3日までの姿勢をただすことである。
旧優生保護法は終戦直後から半世紀近くも存続した。平成8年に現行の母体保護法に改正された後も、優生思想に根ざした障害者に対する差別と偏見は払拭されてはいない。
最も凶悪なかたちで表面化したのが、平成28年7月に起きた「相模原事件」である。重度障害者ら45人を殺傷した加害者の「障害者は不幸しか生まない」という思想にネット上では共感や同意の声もあった。差別に向き合い決別する勇気と覚悟が、国民一人一人に求められる。
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2024年7月5日付産経新聞【主張】を転載しています