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政府が、領空を侵犯する気球や無人機(ドローン)を撃墜できるよう、自衛隊法の運用見直しによる武器使用要件の緩和を検討している。
日本はこれまで、有人機による領空侵犯しか想定しておらず、その際の武器使用は正当防衛か緊急避難に限ってきた。
米国は領空侵犯した中国のスパイ気球(偵察気球)を撃墜し中国に抗議した。気球や無人機という新しい空の脅威から主権と安全を守るため、日本も撃墜の選択肢を持つことが必要だ。
民間機の空路の安全確保や国民の生命財産を守るために気球への武器使用を認める案を与党が承認した。当座の対応としては妥当である。政府は速やかに要件緩和を実現し、自衛隊は撃墜の方策を検討、訓練してもらいたい。
ただし、不十分な点がある。
第1に、戦闘機など有人機の領空侵犯時の要件緩和も含まれるのかはっきりしない。
有人機が領空に侵入して攻撃してきたり、情報収集したりすれば被害は大きい。だが、領空侵犯対応時の航空自衛隊機は、正当防衛か緊急避難を除いて有人機を攻撃する選択肢を封じられている。
現行要件は空自パイロットの生命を軽んじ、道に外れている。このようなおかしな対応はやめなければならない。有人機への要件も必ず緩和すべきである。
第2に、領空侵犯への自衛隊の対応が、警察権に基づくとされている点だ。
自衛隊法84条は「(領空から)退去させるため必要な措置を(自衛隊に)講じさせることができる」と定めている。警察権によるとは、どこにも記されていない。それでも防衛出動発令前であるためか警察権の行使とされ、武器使用は正当防衛と緊急避難に限るという異様な解釈が生じた。
いつまでも自衛隊を「警察予備隊」のように扱っていては肝心の国防を全うできない。政府は自衛隊を国際法上、軍と位置付けているのだから、領空侵犯対応は自衛権に基づくと改めるべきだ。
政府は令和元年11月など3件で中国の「無人偵察用気球」の日本飛来が強く推定されると発表し、中国政府に領空侵犯は受け入れられないと申し入れた。中国は反発したが、潔く謝ったらどうか。米国が行動で示すまで日本政府がスパイ気球に対応できなかったのは問題で、猛省すべきである。
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2023年2月17日付産経新聞【主張】を転載しています