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東京電力福島第1原子力発電所からの処理水海洋放出に対し、中国が日本産水産物を全面輸入禁止とする暴挙に及んだことを受け、政府は水産事業者のための新たな支援事業を創設した。
岸田文雄首相の指示による対策だ。国内消費拡大・生産持続対策や風評影響への内外での対応、輸出先の転換対策―などの5本柱で構成されている。中国の一方的な振る舞いに対抗する迅速な措置である。効果的に活用したい。
中国は日本の水産物の主要取引先である。香港と合わせた昨年の輸入総額は1626億円に達し、日本の水産物輸出の42%を占めていた。
これが突如、停止になったのだから痛手は小さくないが、科学を無視した中国の不当な経済的威圧に屈してはならない。
政府が支援策の一つに掲げた国内消費の拡大は防御策、また対抗策として有効だ。国民が、1年間に1600円分多く魚介類を消費すれば、中国と香港への輸出額に等しくなる計算だ。十分、可能な数字である。
防衛省も全国の自衛隊の部隊などに国産水産物の積極的な消費を呼び掛ける事務次官通達を出した。各基地や駐屯地で支給する食事に地元の魚介類を多用すれば沿岸・沖合漁業の活性化にも繫(つな)がる。学校給食でも地場の水産物を活用すべきだ。
日本では魚食離れが進んでおり、平成23(2011)年度に国民1人当たりの肉類消費量が魚介類の消費量を上回り、以来その差の拡大が続いている。
食料の安定供給の面からも水産業の停滞は問題だが、政府は実効的な打開策を見いだせないまま苦慮していた。
処理水の海洋放出で、政府は基金を創設している。風評被害対策に300億円、漁業継続支援に500億円だ。そこに今回の新たな支援事業のための207億円が追加された。
国内漁業者の長期的な減少傾向や中国市場への過度の依存といった課題を抱えるわが国の水産業を成長産業に転じる活力源としなくてはならない。
中国に大量輸出してきたホタテ貝については、日本国内でむき身加工を行う機械設備の導入や海外販路の開拓などが必要だが、新支援事業はこの点もカバーする。ハードルは低くないが、国を挙げて克服し、「水産日本」の復活に繫げたい。
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2023年9月6日付産経新聞【主張】を転載しています