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バイデン米大統領とインドのモディ首相がホワイトハウスで会談し、防衛協力の強化や先端技術分野の協力で合意した。インド太平洋地域で軍事的影響力を拡大させる中国の抑止に向け、米印の連携は欠かせない。両国は会談の成果を踏まえ、さらなる関係強化に取り組んでほしい。
会談後に出された共同声明によると両首脳は、米国が開発した戦闘機用エンジンのインド国内での共同生産に加え、米国製無人機のインドへの供与や、インド国内の造船所で米海軍艦船を修理できるようにすることで合意した。
インドは中国と1962年に戦火を交え、現在も国境紛争を抱える。国境地帯では両軍の兵士による衝突も散発している。米国との防衛協力の強化は、こうした状況をにらんで対中抑止力を高める思惑があるのは確実だ。
インドは南アジアの地域大国としての自負が強く、東西冷戦期は米ソのいずれにもくみしない非同盟路線をとってきた。
そんなインドが日米豪との協力枠組み「クアッド」に加わったのは、中国への脅威への対処という共通の利害を重視したためだろう。インドが国境で中国と対(たい)峙(じ)することは、台湾侵攻を企図する中国軍の兵力分散にもつながる。
岸田文雄首相は3月にインドを訪れたほか、5月の先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)にモディ氏を招き、インドとの連携緊密化を確認した。日米などはクアッドなども含めた枠組みを積極的に活用し、インドとの一層の結束強化を図るべきだ。
一方、ウクライナを侵略したロシアへの態度では、インドと日米などの間には温度差がある。
米印首脳の共同声明にも、対露非難や制裁の文言は盛り込まれなかった。だが、国際法を無視して領土と主権を踏みにじるロシアの行為を黙認することはインドの国際的信用にも関わる。
モディ政権はまた、国内でイスラム教徒などの宗教的少数派や野党を弾圧し、メディアを規制しているとして批判を浴びている。
バイデン氏は今回、人権問題への言及を控え、インドの戦略的価値を重視する立場を示した。
インドはこれをもって「人権政策で米国のお墨付きを得た」と理解すべきでない。インドには「世界最大の民主主義国」として適切な行動を求めたい。
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2023年6月29日付産経新聞【主張】を転載しています