~~
現下の日本経済への処方箋として妥当なのか。その点で疑問が残る経済対策だといわざるを得ない。
政府が所得税と住民税の定額減税などを柱とする17兆円超の新たな総合経済対策を閣議決定した。裏付けとなる令和5年度補正予算案は13兆円規模となる。
物価高を克服し、賃上げの拡大や攻めの投資で経済を変革させるときだというのが岸田文雄政権の問題意識だ。経済対策をその端緒としたいのだろう。
ならば本来は、既存の制度や規制を抜本的に見直し、人口減少や労働生産性の低さなど構造的な課題に切り込むことを主眼に置くべきなのに、この対策で際立つのは、むしろ旧態依然としたバラマキの発想だ。
景気は新型コロナ禍の最悪期を脱し回復過程にある。従来の大規模な経済対策で論拠とされた需要不足も解消してきた。減税や給付金で必要以上に需要を刺激する局面ではあるまい。
これでは、経済対策で歓心を買いたいのだと国民に見透かされても仕方がない。首相は自らに向けられた厳しい視線をもっと真摯(しんし)に受け止めるべきだ。
焦点の減税は所得税と住民税を合わせて計4万円の定額減税とした。低所得世帯を対象とする7万円の追加給付もある。
賃金上昇が物価高に追いつかない現状を踏まえた「一時的な措置」だが、減税開始は来年6月なので、減税に足元の対策としての効果はない。それとも政府は、春闘もむなしく来年6月時点ではまだ十分な賃上げが見込めないと踏んでいるのか。
一時的減税で済むかという問題もある。首相は6年度には防衛力を強化するための増税を行わない意向を示している。増減税の同時実施を避けるためだが、減税が長引き、防衛力を支える安定財源確保が見通せなくなる事態は避けたい。
対策にはガソリン価格や電気・ガス料金を抑制するための補助の継続も盛り込まれた。価格高騰の影響を緩和するための政府補助にはやむを得ない面もあるが、これを漫然と続けるだけではなく、原油高に耐えうる経済構造の構築を急ぐべきだ。
ほかにも投資促進や国土強靱(きょうじん)化などのさまざまなメニューが並ぶが、問われるのは政策効果だ。編成中の6年度当初予算も踏まえつつ、実効性を見極めて具体化を図るべきである。
◇
2023年11月3日付産経新聞【主張】を転載しています