韓国憲法専門家である許営教授が、尹錫悦大統領の逮捕・拘留という異例の状況と、その法的根拠の不透明さを分析。
Yoon Suk-yeol January 2025

尹錫悦大統領=ソウル(共同)

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1月19日、ソウル西部地方裁判所は尹錫烈(ユン・ソンニョル)大統領に対する拘束令状を正式に発行した。

独立捜査機関である高位公職者犯罪捜査処(公捜処)が15日、尹大統領の身柄を拘束してから4日後の出来事だ。逮捕令状は、公捜処が昨年12月に布告された非常戒厳令に関連する内乱容疑で尹氏を捜査する過程で請求された。

今回の令状により、尹大統領は2月7日まで拘留される見通しである。ただ、公捜処には本件に関する起訴権がないため、拘留期間中に検察側が起訴を行うことになる。

拘留期間中、尹氏は弁護士以外、外部者との接触を全面的に禁止されており、ファーストレディである妻との面会も認められない。また、外部との手紙の送受信も禁じられる。

刑事捜査に加え、尹大統領は自身の職務の行方を左右する憲法裁判所での審理を受けている。8人の判事のうち6人が弾劾訴追案を引用した場合、尹氏は罷免され、直ちに大統領としての権限を剥奪されることになる。JAPAN Forwardは、慶熙大学法科大学院の許営(ホ・ヨン)碩座(せきざ)教授に独占インタビューを行い、直近の動向について聞いた。憲法裁判研究所の所長を務めた許営教授は、韓国憲法学界の第一人者として広く知られる。

許営教授(©許営教授提供)

現職大統領の逮捕と拘束

錫烈大統領が正式に逮捕されたが、どう思うか?

現職大統領の逮捕と拘留は、大統領制を採る国々の中で韓国はもちろん、恐らく世界的に前例がない。重大な過ちである。さらに問題なのは、内乱容疑で大統領を捜査する権限を持たない公捜処が、逮捕状の請求を軽率に追求している点だ。

さらに、1月15日の第二次逮捕令状執行の際、当局による違法行為について詳細な報道が最近なされている。刑事訴訟法によれば、大統領官邸は軍事機密の領域に属し、その立ち入りや捜索には責任者の同意が必要とされる。

しかし、捜査当局は大統領官邸の警備団長に圧力をかけ、内部進入を許可させたと報じられている。立入許可書には必須とされる大統領警護庁長官の印鑑が欠けており、代わりに警備団の官印が押された無関係な紙切れが許可書に貼られている。

手順全体が最初から無効であると言わざるを得ない。

尹大統領を調査する管轄権は誰にあるのか?

原則として、警察がこの捜査を指揮し、令状を請求すべきである。前述の通り、現行の法的枠組みでは、公捜処には大統領を内乱罪で捜査・起訴する権限がない。例えば、今後公捜処が大統領を起訴する場合、事件は検察庁に移管され、検察が引き継ぐことになる。完全に不合理な状況である。

1月16日、公捜処の前に集結し、尹大統領への違法捜査に抗議する数千人の抗議者たち。(©吉田賢司)

公捜処は文在寅政権下で設立された機関だが、これまで大きな実績を築くには至っていない。公捜処はこの注目度の高いケースを利用して、存在感を示そうとしているのではないかと思われる。

拘留されたまま弾劾裁判を受けることは、公平か?

公平とは言えない。公捜処と裁判所が行ったことは、まったく不適切だ。韓国の国会で弾劾訴追案が可決されれば、大統領の職務は停止され、法廷での完全な弁護が制限される。身柄を拘束されることは、この困難な状況をさらに悪化させるだけだ。

ダブルスタンダードの顕在化

尹大統領と野党代表の李在明を比較する声もあるが、どう思うか?

2023年9月、検察は李在明(イ・ジェミョン)代表の偽証事件に関して逮捕状を請求し、国会はこれを承認した。しかし、ソウル中央地裁は数十通にわたる詳細な判決文で複数の理由を挙げ、逮捕状を却下した。前例のないことである。

裁判所は、李代表の偽証が立証された可能性を認めつつも、勾留を認めなかった。この判決は、野党代表としての立場を考慮し、今後の裁判で被告の権利を守るためであったのだ。

国会が承認した逮捕同意案を裁判所が却下したのは、韓国史上初めてのことである。当時の出来事は韓国国民の記憶に深く刻まれている。李代表のケースとは対照的に、尹大統領に対する拘束が法の下での平等性に合致しているのか、多くの国民が疑問を抱いている。私の考えでは、これは単なる疑問ではなく、明白な憲法違反である。

野党の民主党が弾劾訴追案から内乱罪を削除したが、どう思うか?

第2次弾劾訴追案が国会で可決された際、その主な理由として挙げられたのは、尹大統領が12月3日に戒厳令を布告し、内乱を引き起こしたとされたからだ。当然、憲法裁判所もこれを弾劾の主な理由として認めた。しかし、その後の審理で、裁判官の一部が内乱罪を削除することを提案したとの報道があり、民主党はこの提案を受け入れたとされる。

事実であれば、憲法裁判所による重大な違反行為となる。しかし、たとえ事実でないとしても、訴追案から内乱罪を削除すること自体が、非常に問題のある戦略であると言える。

特に問題なのは、与党議員12人が第2次弾劾訴追案に賛成し、当時の国会で通過したからだ。もし内乱罪が最初から除外されていたならば、与党議員らは賛成票を投じる理由がなかったはずだ。実際、彼らの多くは後に弾劾は詐欺だと非難する声明を発表している。

1月14日、大統領官邸前で繰り広げられる親尹派デモ。(©吉田賢司)

したがって、憲法裁判所は直ちに弾劾訴追案を取り消すべきだ。一部の裁判官は、修正した訴追案を国会に再提出して採決することを提案しているが、この方法は一事不再理の原則に反する。。

一部の戒厳令関係者は、尹大統領が国会業務の妨害を命じたと証言している。証言だけで有罪判決を下せるか?

韓国の法律では、警察や検察の捜査中に被疑者が行った供述は、後に正式起訴されて裁判で否認された場合、法的に認められない。こうした証言が法廷で有効とされるためには、その後の裁判過程で一貫性が認められる必要がある。

今のところ、捜査当局は12・3戒厳令に関連した人々の供述のみに頼っており、それを裏付ける物的証拠は存在しない。また、報道によれば、一部の供述は、野党議員からの圧力によってなされた可能性も指摘されている。もし被告らが後に法廷で供述を撤回したり、強要されたと主張した場合、その供述は法的に有効とされないことになる。

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Author: 吉田賢司 Kenji Yoshida

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